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第23章 揺らぎ始めた大国(ゼフィーリア隣国)

アグライア帝国が代替わりを迎えてから、

すでに二年が経っていた。

だが、その二年は、

周辺国にとって決して短い時間ではなかった。

皇帝レオニダス・ヴァルク・アグライアの即位以降、

帝国内の空気は、静かに変質していった。

反対意見は、次第に表へ出なくなる。

軍と行政の権限は、段階的に皇帝のもとへ集約されていった。

秩序の回復を名目とした施策は、

やがて、恐怖による統制へと姿を変える。

その影響は、

国の内側だけに留まらなかった。

国境付近では小競り合いが増え、

交易路では検問が厳格化される。

外交の場では、

かつてのアグライアには見られなかった

強硬な姿勢が、目立つようになっていた。

周辺国は、

それぞれのやり方で状況を探っていた。

表向きは静観を装いながら、

裏では密偵や非公式の伝手を通じ、

慎重に情報を集め、内密に共有する。

集まる報告は、

どれも似通っていた。

――このままでは、帝国は内側から崩れる。

そして、崩れた場合、

その混乱は、必ず国境を越えて広がる。

ゼフィーリア王国にも、

同様の報告が届いていた。

密偵たちは、

感情を交えず、事実のみを積み上げる。

だが、その行間から読み取れる結論は、

一つだった。

――放置すれば、

周辺諸国を巻き込む事態へ発展しかねない。

ゼフィーリアにとって、

それは決して無関係な話ではない。

結界の維持には、

国境を越えた安定が必要だ。

大国の内紛が長期化すれば、

魔物の発生や流通の混乱を招き、

結界にかかる負荷は、確実に増大する。

世界が不安定になれば、

結界は揺らぐ。

それは、

避けなければならない未来だった。

だからこそ、

ゼフィーリアは表立って動かない代わりに、

情報の収集と分析を続けていた。

事態が、

静かに動き出したのは、

そんな警戒が続いていた折のことだった。

ゼフィーリアの密偵に、

一通の接触要請が届く。

発信元は、

アグライア帝国内。

しかも、その背後にいる人物は、

皇帝の甥――

アレクシオス・ルーン・アグライアの配下であるという。

密会の場で伝えられた内容は、

簡潔で、重かった。

――帝国内で、

現皇帝の失脚を視野に入れた動きがある。

――可能であれば、

その計画に、陰から協力してほしい。

それは、

明確なクーデター計画の存在を示す言葉だった。

ゼフィーリアは、

他国の内政に干渉しない。

人同士の争いには、極力関わらない。

無用な血を流させない。

それが、

建国以来、守られてきた国の姿勢だ。

だが同時に、

ゼフィーリアは、

現実から目を逸らす国でもない。

独裁が進めば、

帝国内の混乱は避けられない。

その余波が周辺へ及ぶことも、

十分に考えられた。

結界を抱える国として、

それを見過ごすことはできなかった。

接触の背後にいる人物――

アレクシオス・ルーン・アグライアについて、

ゼフィーリア国王には、過去の記憶があった。

約五年前。

外交の場で、

国王は彼と直接、言葉を交わしている。

当時のアレクシオスは、

表立った権限を持つ立場ではなかった。

だが、

国の在り方、武力の扱い方、

民をどう守るべきかについて、

驚くほど率直に語ったという。

力を持っても、

それをすぐに振りかざす人物ではない。

国王は、

そう判断するに足る印象を、

彼から受け取っていた。

報告書の末尾には、

現在の人物評も添えられていた。

――拙速な武力行使を望んでいない。

――混乱を最小限に抑えることを、

  最優先に考えている。

それだけで、

すべてが決まるわけではない。

だが、

「助ける価値があるか」という問いに対して、

無視できない材料であることは確かだった。

ゼフィーリアは、

すぐに答えを出さなかった。

協力することは、

国の信念に反する。

だが、協力しないことで、

より大きな破綻を招く可能性もある。

選択肢は、

どれも容易ではなかった。

――それでも、

この接触を無視すれば、

事態は、より制御不能な形で動き出すだろう。

まだ、

戦いは始まっていない。

だが、

戦うか否かではなく、

どう守るかという問いは、

すでに、そこにあった。


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