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第21章 城下町の空気に触れて

城の外に出た瞬間、

空気が、わずかに変わった。

城の中よりも、

少しだけ温度があり、

少しだけ雑多だ。

「ね、いいでしょう?」

隣を歩きながら、

ヘンリエッタが楽しそうに言う。

「人が多い時間帯を選んだの」

「その方が、町の空気を味わえると思って」

「そうですね……」

桜は、周囲を見渡しながら答えた。

石畳を歩く音。

行き交う人々の声。

どこかから漂ってくる、

焼き物の匂い。

国が違い、

世界が違えば、

日本で感じていた街の空気とは、

やはり違う。

「この辺りは、

 食べ物屋さんが多いのよ」

「へえ……」

「あとで、

 甘いものも食べましょう」

「……いいですね」

会話は自然と弾み、

二人とも、歩く速度が少し早くなる。

リーゼは、そのやや後ろ。

三人で楽しく出かけているように見える、

微妙な距離を保って歩いていた。

周囲をさりげなく見渡しながら、視線を動かす。

そして、

時折、二人の会話に加わる。

注意も、あくまで自然に。

会話を切らない程度に。

ヘンリエッタも、

それに気づいた様子はなく、

話題を続ける。

「ほら、あそこ」

「私が言ってたお店よ」

通りに面した、

落ち着いた佇まいの店だった。

中に入ると、

香ばしい匂いが一気に広がる。

「……美味しそう」

思わず、声が漏れた。

料理は、

見た目以上に、

しっかりと味がしていた。

温かくて、

優しくて、

でも、きちんと満足感がある。

「……本当に、美味しいです」

「でしょう?」

ヘンリエッタは、

得意そうに笑った。

一口、また一口と進むごとに、

桜の表情が、

少しずつ緩んでいく。

食事を終える頃には、

胸の奥が、

はっきりと弾んでいた。

「この後、

 お店って見て回れますか?」

桜は、リーゼに声をかける。

「ええ。少しなら、

 お店を見て回りましょうか」

許可が下りる。

「よかったわ」

ヘンリエッタも、

嬉しそうに言った。

通りを歩きながら、

いくつもの店先をのぞく。

布。

小物。

見慣れない形の道具。

どれも、

生活の匂いがした。

ふと、

小さな雑貨屋の前で、

足が止まる。

「……かわいい」

木製のペンと、

厚手のノート。

飾り気はないが、

丁寧に作られているのが分かる。

「使いやすそうね」

ヘンリエッタが言う。

桜は少し迷ってから、

それを手に取った。

「……これ、買います」

小さな買い物。

それだけなのに、

胸の奥に、

確かな実感が残った。

城下町の空気。

人の気配。

自分の足で歩いた時間。

桜は、

充足感を覚えながら、

再び通りへと戻った。


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