第2話:エルフの森と“生きる理由”
魔力も名前もなく、奴隷として扱われてきた少年が、ついに“出会い”を果たす。
それは、彼の運命を変える最初の一歩だった。
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森の静寂の中、小さな小屋で目を覚ました少年──ケイル。
干し草のベッドの上、身体には包帯が巻かれていた。
「……起きた?」
彼の耳に届いたのは、柔らかな声だった。
ベッドのそばにいたのは、銀髪の美しい少女。長い耳を持つ、エルフの少女だった。
「まだ身体が弱ってるから、ゆっくりでいいよ。これ、おかゆ。食べられる?」
ケイルは黙ったまま、ゆっくりとうなずいた。
手が震えながらも器を受け取り、一口ずつ、口に運ぶ。
少女は微笑みながら言った。
「私はリアナ。この森で一人で暮らしてるの。」
ケイルは彼女の名を心に刻む。
──リアナ。
名前を持つことの温かさを、彼は初めて知った。
「君は“ケイル”。あの日、私がつけた名前だけど……変えたかったら言ってね?」
ケイルは小さく首を振った。
「……ありがとう。」
それだけでも、彼女の目には涙が浮かんだ。
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日々が過ぎていく中で、ケイルは少しずつ体力を取り戻し、言葉も学び始めた。
リアナは薬草の知識や、簡単な読み書きを教え、ケイルを弟のように世話した。
ある夜、焚き火の前で、リアナがぽつりと呟いた。
「ケイル……君は、どうしてあんなにボロボロだったの?」
ケイルは炎を見つめながら黙り込む。
答える言葉が見つからなかった。
だが、リアナは無理に聞こうとはしなかった。
「言いたくないなら、言わなくていいよ。私は、ここにいるから。」
──その一言が、彼を救った。
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その夜、ケイルは夢を見た。
燃える城、冷たい玉座、捨てられた自分。
(……なぜ、俺は……こんなにも……)
彼は目を覚まし、つぶやいた。
「俺は……何者なんだ?」
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翌朝、リアナが言った。
「ケイル、帰りたい場所があるなら、私は手伝うよ。」
ケイルはゆっくり首を振る。
「……もう、帰る場所なんてない。」
リアナは少し寂しそうに微笑んだ。
「なら……ここを君の居場所にすればいい。君は、いてもいいんだよ。」
ケイルは、その言葉に、初めて微笑んだ。
それが──彼の“生きる理由”の、最初の光だった。
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リアナとの生活の中で、ケイルの心に変化が芽生え始めました。
次回は、彼の中に眠る“剣の力”の片鱗が現れる瞬間。お楽しみに!