表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

第1章 マナのない呪われた子

これは幼い頃から世界に捨てられた、ひとりの子の物語の始まりです。彼が受けたのは、肉体の傷ではなく—尊厳と魂への深い痛み。どうか心を開いて読んでください。

リレンス王国の王都。夜空には無数の星が煌めき、宮殿の尖塔を照らしていた。だが、その光が届かぬ王宮の片隅で、一人の赤子が泣いていた。


その声に、誰一人として耳を傾けない。


──彼は王エルドランの第三王子。だが、魔力の測定の結果は「ゼロ」。


王家の血を引きながら魔力を一滴も持たないという現実に、王は怒り狂った。


「この子は呪いだ! 王家の恥だ!」


王妃は沈黙し、ただ視線を落とした。涙すら流さなかった。


王は決断する。


> 「この子は処分せよ。北の辺境へ捨てろ。」

「王家に“魔力なき者”など、必要ない。」





---


それから数日後──。


赤子は粗末な木箱に詰められ、真夜中、二人の兵士によって城から運び出された。

目的地は、呪われた森が広がる北方の境界。


「こんな奴、狼にでも喰わせりゃいい。」


無表情な兵士の腕の中で、赤子は微かに手を伸ばし、男の指を握った。

そのぬくもりに兵士は一瞬だけ動きを止めた。


> 「目が……赤い……?」




その瞳に宿る異様な光に、兵士は思わず震えた。

まるで、戦場の修羅のような何かが、そこにいた。


> 「……ただの赤子だ。」




男はそれだけ言い、木箱を崖の縁に置き、背を向けて立ち去った。


雨が降り始めた。


その中で、赤子は泣き続けた。

名も、家も、未来も奪われたその命に、世界は一片の慈悲も与えなかった。



---


そして、七年の歳月が流れた。


赤子は名もなく、奴隷として育てられた。

食事は腐ったパン、飲み水は濁った泥水。

殴られ、蹴られ、「クズ」と罵られる毎日。


七歳になる頃、南の鉱山へと送られた。

使い捨ての労働力として──。


重い岩を運ぶよう命じられ、足がもつれて倒れた瞬間、背中に鉄の棒が叩きつけられた。


「立て、ゴミが!」


吐血し、目の前が赤く染まる。

意識が遠のき、世界がゆっくりと崩れていく。


──その時、どこか遠くで声がした。


> 「……まだ……死ぬな……。」

「お前は……剣の主だ。」





---


気がつくと、彼は森の中に倒れていた。

鉱山の監視から逃げ出し、崖から落ちたのかもしれない。記憶は曖昧だったが、命だけは繋がっていた。


周囲は深い森。

腐葉土の匂い、湿った空気、遠くの鳥の声。


「……俺は……まだ、生きてる……?」


彼は、かすれた声で呟いた。


その時、足音が近づく。

銀色の髪にエメラルドの瞳を持つ、エルフの少女が現れた。


彼女は彼の前にしゃがみ込み、じっと目を見つめた。


「……人間の子? どうしてこんなところに……。ひどい傷……」


彼はただ彼女を見つめ返す。答えはない。


少女は優しく問いかけた。


「ねえ、あなた……名前は?」


彼は答えなかった。怯えるでもなく、ただ黙って見つめていた。

その目には、涙も怒りもない。ただ、深い深い虚無があった。


少女は息を呑み、小さく微笑んだ。


「……そう。じゃあ、あなたには名前もないのね。」


少女は彼の髪を撫でながら、そっと言った。


「なら、私がつけてあげる。」


「“ケイル”。虚無から生まれた光という意味よ。」


少年は微動だにしなかったが、その目の奥に、ほんのわずかな光が宿った気がした。


“ケイル(Keiru)”という名の、始まりだった。



---

読んでいただきありがとうございます。

この物語は、魔力を持たない王子が剣一つで世界に挑む壮絶な復讐の旅。

第2話では、ケイルとエルフの少女の関係、そして彼の新たな生活が始まります。

どうぞ次回もお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ