Level.098 清濁ガールズトーク
笑顔を浮かべながらセレナの中の人の事を考えて、同時にセレナの中の人に対して悪態をつく、と言うハイレベルな思考を知らずに行っている鹿謳院。
そんな鹿謳院が、セレナが好きだと言う青い色について思い出して、青い色の花が集まるブルーガーデンの中をゆっくりと歩く事しばらく。
ようやく、庭園の中央広場に到着した。
「あら」
「あら」
そして、ブルーガーデンの中央広場。
中央にある噴水の側に立っている女生徒に鹿謳院が気付いたのと、女生徒が鹿謳院に気が付いたのは、ほぼ同時。
「このような所で珍しいですね、雫」
「それは私の意見でもありますが。本当に珍しいですね、会長」
噴水の近くに居たのは、日傘も何もさしていない一条雫。
ほんのりと緩められた表情で噴水を見つめていた一条だが、鹿謳院に気が付くといつも通りの澄ました真面目な顔になってしまう。
「そうですね。少々珍しいかもしれません。なんとはなしに足を運びましたが、雫に会えましたので来て良かったです」
「私も明確な理由はありませんが、偶然とはあるものですね」
ゆっくりと歩いた鹿謳院が一条の隣に立てば、今度は二人並んで静かに噴水を眺め始める。
「(……偶然、ですか。果たして本当にそうなのでしょうか。楽園の庭でブルーガーデンの話をしてから数日。久しぶりに庭園に足を運んだと報告して下さった、セレナ。そして今、私の隣に居る、雫。──本当に? 本当に貴女なのですか?)」
164㎝鹿謳院の方が、161㎝の雫よりも少しばかり身長は高いが、そうは言っても誤差程度。
長く艶やかな黒髪をストレートに伸ばす鹿謳院と、長く艶やかな黒髪をローポニーテールで纏める一条。
同じ真っ黒な髪を持つ二人が並べば、後ろ姿だけを見れば姉妹にも見えたり見えなかったり。
「……雫は、この場所が好きなのですか?」
「ええ。学園の中で一番好きな場所かもしれないですね。会長はやはり、日本庭園の方がお好きなのですか?」
「そうですね。どちらかと言えば、私にはあの場所の方が合っているかと思います」
「そのような事はないかと。会長であれば何処に立っても似合いますよ」
「ありがとうございます。雫も、とても青が似合っておりますよ」
「それは──はい、ありがとうございます。とても嬉しい言葉です」
特に何をするでもなく澄ました顔で噴水を眺めていた一条だったが、鹿謳院の言葉が嬉しかったのか。
視線を噴水から隣に居る彼女に移すと、目を細めて返事をした。
「(聞いた事はありませんが、雫も青が好きなのでしょう。このような季節に足を運ばれる程に、ブルーガーデンの事を気に入られている様子と言い。……重なってしまいますね、セレナに。マンダリナを、私を待っていたのでしょうか。どうなのでしょう、わかりませんね)」
目を細めた一条に、鹿謳院も目を細めて頷く。
あまりにも出来過ぎている遭遇に、鹿謳院の心と思考がぐらりと傾いてしまうのも無理はなく、さりとて何をどう聞くべきかが定まらない。
遠くに聞こえる蝉の鳴き声が頭に響くだけの、静かな時間。
鹿謳院が頭を働かせているように、もちろん、一条も静かな時の中で様々な事を考えているわけだが、彼女の思考は主である近衛にも少々読み辛い。
いつも浮かべている澄ました顔の裏側に何を想うのか、知っているのは一条本人のみ。
「こちらにはよく足を運ばれるのですか?」
「昔はよく来ていましたが、今日は久し振りですね。先日、文界より久しぶりに庭園に足を運んだと言う話を耳にしまして。懐かしいと思って。なんとなく、ですかね」
「なるほど、それで庭園に。桜花も庭園が好きですからね」
「はい。良い刺激になったと話しておりましたよ」
昔はよく来ていたが、最近久し振りに来た。
一条の言葉はやはりセレナを彷彿とさせるもので、思考に耽る鹿謳院の視線が一段下に下がれば、再びの沈黙が二人の間に流れる。
「(そうですか、桜花も庭園に。彼女にも探りを入れなければなりませんが、まずは雫ですね。偶然にしては、タイミングが出来過ぎているこの邂逅。美月の時のような勘違いは致しませんが、それでも、思考が吸い寄せられてしまいますね。ゲーム内のセレナと雫では印象が違い過ぎますが、私とてゲーム内では少々性格が違います。そこは考えても仕方ありません)」
果たしてこんな偶然があるのだろうかと、鹿謳院の頭が一条雫セレナ同一人物説について考えている一方。
「(先日、文界が学園の庭で鋼鉄様と会ってそのまま一、二時間話し込んだと言っていたから足を運びましたけど、影も形もありませんね。今日は珍しく執務室にも居なかったのでここに来ているのかと思ったのですが、あの方は何処をほっつき歩いておられるのでしょう。折角、庶務に執務室の留守番を任せましたのに)」
一条が考えているのは今も昔も、近衛の事ばかり。
「(私がいきなり楽園の庭について聞く事は不自然に過ぎます。ですが、セレナから頂いた現実に繋がると思われる仄めかしであれば、いくつかあります。まずはそこから攻めて行くしかありませんね)」
鹿謳院とて一条が近衛の従者である事は知ってはいるのだが、だからと言って一条の思考は読み取れない。
なんせ、二十四時間三百六十五日、いつも頭の中で近衛の事を考えている気が触れているとしか言えない従者の思考は、主ですらよくわかってないのだから。
「(青は鋼鉄様のお好きな色。今まで青に染まる努力をして参りましたが、私も遂に鹿謳院様にまで青が似合うと言われる程の青い女になれたのですね。最近では身に着ける下着も常に青で統一するようにしましたので、そこが鹿謳院様にも評価されたのでしょう。鋼鉄様にお見せする機会には未だ恵まれませんが、それとて時間の問題のはず)」
青く澄んだ輝きを放つ鹿謳院に、桃色のふわふわした雰囲気を放つ一条。
独特な空気を纏う二人は静かに噴水を眺めていたが、鹿謳院の視線に気が付いた一条が彼女の方を向いてニコリと笑えば、日傘を軽く傾けた鹿謳院もニコリと笑った。
隣に立つ一条が幸せそうに微笑む様子に、鹿謳院も幸せそうに笑みを浮かべるが、彼女の頭の中を覗いたら卒倒して泡を吹くかもしれない。




