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Level.096 仲の悪い仲良し


 聖桜祭のテーマ発表は開催される凡そ二十日前、九月の中旬に行われる。


 何故こんなにも直前に発表するのかと言えば──。


「橘の意見も理解出来んわけではない。だが、無駄に準備期間を増やして何になる」


「えっと、もう少しスケジュール調整が楽になるとか?」


「なるほど。その意見も理解は出来る」


 お昼休みの統苑会執務室。


 そこでは会長に副会長に、橘と一条を加えた四人が昼食を取りながらお話をしていた。


 まあ、近衛の朝食は十秒足らずで終わったが。


 鹿謳院と一条は、部屋中央にあるガラステーブルにお弁当を置いて黙々と。


 橘は近衛の執務机の近くに座って、サンドイッチをパクパクと。


 瞬時に昼食を終えた近衛は、いつものスタイルで淡々と読書を。


 聖桜祭に向けて徐々にボルテージが上がって来た統苑会は、入れ代わり立ち代わり様々な者が現れては、仕事をしたり情報共有をしたりと忙しい。


「では、庶務橘はどの程度の期間があれば良いと考えているんですか?」


「それは、どうですかね。一月くらいでしょうか?」


「二十日と大して変わらないじゃないですか。もう少し考えた上で発言をしないと、生徒会や各部との会議で私の翻訳機能が暴走してしまいますよ」


「いえ、一条先輩の翻訳機能はもう暴走してますよ」


「あれは平常運転です」


「……あれで?」


 一条の発言に驚愕した橘が思わず眉を顰めてしまうが、話は勝手に進んで行く。


「一条の翻訳機能はおいておくとして、実際問題文化祭の開催時期にも問題はある」


「聖桜が三学期制を採用していた頃は、二学期の文化の日に合わせて開催されていたのですが、二学期制に移行してからは今の日程に変更されましたからね」


「あー、文化の日にやるってなると、二学期制の場合だと始まった直後になってしまうんですね?」


「うむ。一学期の修了が十月中旬、そこから秋休みが始まり、二学期が開始するわけだが。文化の日に合わせて聖桜祭を開催するとなれば、学期を跨いだ準備期間が発生する。まあ、それも一興ではあるがな」


「と言っても、そんな無駄な手間を増やしては三学期制から二学期制に移行した意味がないではありませんか。それで今の時期、一学期の修了間際に開催時期がズラされたのですけど、聖桜には加減を知らない変な人もチラホラいますからね」


 いや、お前がその加減を知らない変な奴の筆頭だよ一条、と。


 心の中で突っ込みを入れた近衛が会話を拾って繋げていく。


「……まあ、そうだな。もう何十年も昔にはなるが、その頃はテーマ発表も早かった。それこそ二学期開始直後、或いは夏休みが始まる直前に発表をしていた時期もあったらしい。その結果、どうなったかはわかるか、橘」


「ん-……。早く準備をするようになるはずなので、授業が疎かに?」


「それも正解ではあるが、聖桜の生徒は勉強など自分で勝手にするから放置しとけばいい。問題となったのは聖桜祭の規模だ」


「規模?」


「ええ。準備期間が伸びると言う事は、それだけ時間を掛けて完成度の高い出し物を提供しやすくなると言う事です。そこに問題はなかったのですが、如何せん聖桜の方々は元気が有り余っておりますからね。より完成度が高く、より高品質な出し物となりますと、出し物の域を超過してしまう方々もいたのですよ」


 橘が首をかしげると、今度は鹿謳院が近衛の言葉を繋げる。


「なる、ほど」


「理由は様々あるが、敷地内に聖桜祭の為の施設を建築する者が現れ始めた所で規模の縮小は決定した。橘もいくつか見た事があると思うが、敷地内にある用途不明の塔や建物はその名残だ。いくつかは解体されたが、出来の良い物は歴史遺産として残している」


「あー、なるほど!」


 ヤバイ学校だなーと思いながらも、まあ昔の事ならいいかなと、さらりと受け入れる橘。


「その当時の伝統を否定する気はないが、準備期間が伸びればそれに固執する者が必ず現れる。人である以上は欲を捨てるべきではないが、度が過ぎる欲は執着となり醜さの象徴となる。故に、二学期制に移行した当時の統苑会の辣腕により、聖桜祭の開催時期と準備期間に大幅な改修が入って今に至るわけだ」


「そう言う事だったんですね」


「ようやく理解しましたか、庶務。時間を掛ければ誰でも何かしらの成果を上げられます。ですが、凡夫が百年掛けて描いた一枚の綺麗な絵よりも、百年後にも残る美麗な絵画を何枚も何百枚も描く文界の方が余程美しいように。限られた時間で最大限の成果を上げてこそ、人は輝くのです」


「そうだな。先人を蔑ろにする気はさらさらないが……。しかし、二十日と言う限られた時間で全力を尽くす今の聖桜祭の方が、昔の聖桜祭よりも美しいと言う自信はある。少なくとも俺が統苑会に居る間は腑抜けた出来を許すつもりはない」


 今日の一冊『死の哲学』と言うタイトルの本から顔を上げた近衛が自信満々に口を開けば、サンドイッチを食べる橘がコクコクと頷き。


 口の中に含んだサクランボのへたを、蝶結びにして取り出した一条も頷く。


 そして、え、それどうやってるの? と言う疑問をぐっと飲みこんだ、一条の向かいに座っている鹿謳院も近衛の言葉に頷いて返事をした。


「そうですね。今の統苑会が過去の統苑会に勝っている点こそあれど、劣っている点は一つも御座いません。もちろん、統苑会や生徒会の方々に掛かる負荷は多大なものとなりますが、出し物を提供する側であれば二十日もの期間があれば十分でしょう」


「でしょうね。会長と副会長のクラスは中等部の一年の頃から常に最優秀争いをなさっておられましたしね。特に、一昨年の劇はこの十年二十年で確実に最上の作品であったと思いますよ」


「そうなんですか?」


「そうですよ。映像なら適当に残っていると思うので、見たければ庶務が勝手に見てください。……まあ、尤も、あの劇の真価は見るだけでは図れませんけどね」


「なるほど?」


 鹿謳院と近衛の劇ってどんなだったんだろうと、純粋に興味津々な橘が近衛の方を見る。


 だが、いつもならノリノリで説明してくるはずの近衛はあまり話したくないのか、鹿謳院をチラリと見た後に話題を変えてしまう。


「まあ、劇はともかく──」


「ええ、あの時も準備は二十日のみでしたからね。私が本気を出したのです。間違いなく、過去に行われた聖桜祭の中でも最高の出来だったと言えるでしょう」


 しかし、言葉を濁した近衛の代わりに、自信満々に口を開いた鹿謳院が真っ直ぐに近衛を見た。


「……別に、私は負けたとは思っておりません。変に気を遣われる方が腹立たしいです」


「──フン。よく回る口だ。……だが勘違いはするな、俺は今まで一度たりとも貴様に気を遣った事など無い。全てにおいて圧勝した過去を話す事が、自慢話をするようで面映ゆいだけだ」


「全てではありませんよ。記憶が混濁されているのであれば良い病院を紹介致しましょうか?」


「折角良い病院を知っているのであれば、もう少し素直になれる薬でも処方して貰えばどうだ。不治の病であれば致し方ないがな」


 近衛の言葉を受けた鹿謳院が冷ややかな視線を送れば、そんな彼女に近衛も冷ややかな視線を返す。


 そんな二人に気が付いた一条と橘は『はいはい、また言い合いするんですね』と思いながら、黙々とお昼ご飯を平らげる事にした。

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