Level.095 直接言えない言葉もある
セレナ:でも、実際のところ連続で和服は無いかな?
マンダリナ:確かに、それはそうかも。前の統苑会だって毎年色んな衣装で合わせたもんな
セレナ:知力の時はみんな怪盗の恰好してたり、劇の時はドレスだったり、毎年凝っててよかったよねw
マンダリナ:統苑会の人らはそう言う所ではちゃんと遊ぶからなw
セレナ:うんうん! でも、そう言えばなんで去年は和服だったんだろうね? 合ってはいたけど、他にもコックさんとかもありだったよね?
マンダリナ:なー、なんでだろうな。まあ統苑会にも色々あるんだろうw
「(まあ、何でも何も鹿謳院が和服すると言ったからだが。それに、和服も間違いではなかった。懐石をイメージ、もてなしを表現するに至ったわけだからな。だが、和服の決定は鹿謳院の独断だ。俺も反対する気はなかったから、昨年の衣装決定に特に深い理由は無い)」
「(あの時期はセレナと結婚した直後で、楽園の庭の事ばかり考えていましたからね。和服と言う誰もが納得なさる正装を選択して時短を図りましたが、そもそも本来はテーマが決定した後に衣装を選ぶのが習わし。昨年が例外的であっただけで、美月が衣装について聞いてこなければ今年からはそうしようと思っておりました。……故に、私は悪くありません)」
無理矢理な他責思考を展開して話題を逸らす鹿謳院だが、セレナは話題を変えない。
セレナ:今年はもっとテーマにあった衣装だといいよね
マンダリナ:それな。今の統苑会の人達なら全員何着ても似合うだろうし、格好良いの見たいよな
セレナ:うんうん。あれ? でもダリちゃん副会長さんの事怖いとか言ってなかったっけ?
マンダリナ:あー、怖いは怖いけどカッコイイだろ?
セレナ:ん-、そうかもー? ダリちゃんの方がずっとカッコイイけどねw
マンダリナ:はいよ、ありがとなw
「──ふむ。なるほど」
マンダリナの言葉に複雑な表情を浮かべる近衛。
怖いと言う評価は相変わらずだが、それはそれとしてカッコイイと言う評価も追加された事で、悲しみと喜びであればやや喜びが勝る感じ。
「(かつては怖いと言う評価に流されてしまったが、考えてみればこの評価も真実とは限らんわけだ。あくまでも俺に対する一般的な評価を口にしただけであって、ダリちゃんが実際に俺の事を怖いとか近寄りがたいと考えているとは限らないのだろう)」
紅茶を一口含み、複雑な表情から真剣な表情へ戻れば、近衛の考えも安定し始める。
「(やはり、重要なのは俺に対する“怖い”や“格好良い”と言う普遍的な評価ではなく、鹿謳院を『面倒見が良い』と評した事実の方。統苑会の執務室で日がな一日茶を啜っているだけの女を、面倒見が良いと評する感性に注目すべきだろう。鹿謳院をそのように評するだけの関係性にこそ注意すべきか)」
マンダリナ:でも、それ言ったらセレナもちょっと前に会長さんが怖いとか言ってたけど、どんな服なら似合うと思うんだ?
セレナ:あー、怖いと言えばそうかもだけど、でも私会長さんの事は凄く綺麗だなって思ってるよ! だから何でも似合うと思うー!
マンダリナ:そっかー。まあでも、セレナの方がずっと綺麗だけどなw
セレナ:ありがと、ダリちゃん!
「う“ん”っ“!」
少々野太い返事をしながら頷いた鹿謳院は、満面の笑みを浮かべていた。
「(嗚呼、良かったです。セレナからは、ただ怖いと思われているだけかと思っておりましたが、良い印象も持たれていたのですね。ありがとうございます、セレナ。私はこれからも貴女の為に綺麗であり続けたいと思います)」
両者共に上機嫌だからか、ゲーム画面では心なしかいつもよりも楽しそうな雰囲気を感じるチャットが続ていく。
「(ですが、そうですね。ここまで言われましたら、パンフレットの衣装は再検討致しましょう。元よりテーマ次第で変更する可能性は視野に入れておりましたからね。テーマ発表に合わせて、前回纏まった和服と洋服の折衷案を破棄。テーマに即した衣装を選ぼうではありませんか)」
綺麗だの、可愛いだの、美しいだの、尊いだの。
容姿を称賛する台詞など飽きる程に言われている鹿謳院。
そんな彼女も、やはり身近な者に改めて言われると嬉しいのか、ニコニコしながらキーボードを叩いていたが、ふと思い出した光景のせいで指が止まってしまう。
セレナに褒められた事で上機嫌になった彼女の頭には、夏期休暇の時の一幕がよぎっていた。
似合いもしないドレスを着た時に、面と向かって褒めちぎって来たムカツク男の言葉。
『ドレスもよく似合う。やはり貴様には赤が良く映えるな、鹿謳院。本当に、世界一綺麗な女だ』
最後の台詞はたぶん言ってないんだけど、鹿謳院の中でそう聞こえていたらしい。
嫌いなモノは嫌い、好きなモノは好き。
正しいモノは正しい、間違っているモノは間違っている。
優れたモノには賛辞を惜しまない。
無論、美しいモノを見れば美しいと口にする。
近衛鋼鉄と言う男が口にする言葉は、いつだって絶対的に正しい。
それがわかっているからこそ、鹿謳院はあの日、初めて面と向かって自分の容姿を褒める言葉を口にした彼から、思わず目を逸らしてしまった。
耳からスルリ入り込んだ言葉が血液に乗って、あっと言う間に全身に溶けてしまうような感覚。
思わず動揺してしまった時の事を思い出した鹿謳院は、一瞬だけ机の引き出しに目を遣ると、再びセレナとチャットをする為にキーボードを叩き始めた。
マンダリナ:まあさ、どんな衣装になるにしても、いい感じに纏めて来るっしょ
セレナ:うんうん。それこそ、和服が似合うテーマなら和服の方がいいしね
マンダリナ:それは確かにそうだわ
「ふむ」
話が一段落してしまった所で、近衛が軽く溜息を吐き出す。
「(この辺りが限界か。遠回しな話題からリアルを特定するのはやはり難解だな。しかし、あまり直接的な話題を選択すればこちらの情報も探られる恐れがある。無論、嘘を混ぜて話せば問題ないが、それはダリちゃんとて同じ事。聖桜祭の衣装についてはこれ以上何も深堀出来そうもないな──)」
難航するマンダリナの中身特定。
そして、今回出した話題が衣装についてだったからか、何となく机の引き出しを見た近衛はゆっくりと開くと、引き出しに入っていた封筒から写真を一枚取り出す。
「──……まあ」
手に取った写真には、ぎこちない笑顔を浮かべた赤いドレスの女子と、執事服の男子が写っていて、それを見た近衛は軽く鼻で笑うとさっさとそれを仕舞った。
「(何を着ても似合うとは思うがな)」
誰に対しての感想なのかはともかくとして、長々と続いたチャットもお開きの時間。
健康優良児たる近衛は早寝早起きが基本であり、鹿謳院もセレナがログアウトすればそそくさとログアウトするのは、いつもの事。
ゲームの中でおやすみと言って別れた癖に、ゲームが落ちてからもスマホのアプリでおやすみチャットをする二人。
忙しくも緩やかに過ぎて行くいつも通りの日常は、大体こんな感じで終了する。




