Level.094 がっかりだよね
「(──印象的と言えば、印象的だったか。この俺に本気で挑まんとしたあの女の心意気は……まあ、そうだな、悪くはなかった。中一の時のファッションも、中二の時の詩歌も、中三の時の劇も、生徒側として参加した聖桜祭も悪くは無かったかもしれん)」
ここ数年で最も盛り上がった聖桜祭は何かと聞かれたら、それを経験した全ての聖桜生徒が口を揃えて『劇』の時だと言うに違いない。
それ程までに盛り上がった二年前の劇をテーマにした聖桜祭。
一人の男が反逆したせいで、劇とは名ばかりの別の何かになってしまったそれは、もう一度やりたいと言う生徒が今でも大量に居る程で、統苑会や生徒会への要望書には『劇劇劇劇劇』とびっしり書かれた怪文書が送られる事もあるとか。
「(尤も、連続して同一テーマが選ばれる事は有り得んからな。二年のクールタイムが設けられる故、次に劇の可能性が出るとすれば来年か。とは言え、テーマは最終的にはランダムで決定する事になるから、そう簡単に皆が望むテーマが選出されるとも限らんがな)」
「ふむ」
「(まずは学年を特定したいと思ったが、そう簡単ではないか)」
劇についての思考を切り上げた近衛は次の一手に移行する。
セレナ:聖桜祭と言えば、今年はどんなパンフレットが出来るんだろうね!
マンダリナ:毎年凝ってるからなー
セレナ:見るだけで楽しいって言ってる人もいるもんねー
マンダリナ:いるいる。四年前のファッションがテーマだった時のパンフとか、実際見てるだけで楽しかったよな
セレナ:うんうん! 各クラスのモデル紹介とか、コーデバトルの採点基準とか詳細設定とかあって面白かったかもw
「(五年前の知力を知っているなら当然、その翌年のファッションも知っていて当然か)」
「(ファッションテーマも当然ご存知ですよね。それに、美月の模倣をなさっているくらいですから、興味もひとしおでしょう)」
セレナもマンダリナも、互いに聖桜学園についての話題こそ口にするが、絶対に特定されない一定のラインを保ったまま器用に相手を探り合う。
「(一歩踏み込ませて貰うぞ、ダリちゃん)」
だが、一定距離を保ったままでは一生特定には至らないので、時には冒険も必要である。
今回も踏み出すのは近衛から、男性キャラクターである鹿謳院からはリアル情報を尋ね辛いので、女性キャラクターである近衛が積極的に動かざるを得ないとも言える。
セレナ:今年はどんなパンフレットになるんだろうねー
マンダリナ:みんなテーマ発表がされてから動き出すだろうから、想像も出来ないなー
セレナ:だねー。そう言えば、去年とかって統苑会の人達が皆和服着てたけど、今年はどんな服になるんだろうね?
マンダリナ:あー、どうなんだろ?
セレナ:聖桜祭のパンフっていつも統苑会の人が表紙飾ってるから、楽しみだよねw
マンダリナ:まあなw
「(来ましたね、セレナ。統苑会について探りを入れてくれるのを待っていましたよ。何か一つでも貴女に近付ける情報を獲得させて頂きますよ)」
そして、セレナが提供した統苑会と言う話題を、鹿謳院は真正面から受け止め迎撃する。
待っていましたとばかりに天才の頭脳を閃かせて、口角を上げた彼女は、夫婦特定ゲームを制するべく迎撃要塞を建造──。
セレナ:でも、今年も和服だったらちょっとがっかりだよねw って、流石に二年連続で同じ服はないかーw
マンダリナ:んーw いやー、どうだろうなw
だが、しかし!
アクセル全開で動き出した輝ける鹿謳院の頭脳は、発進直後にマシントラブルを起こして、煙を吹き出す大事故に見舞われてしまった。
今年も和服だったらがっかりだよねw
がっかりだよねw
だよねw
w
セレナの放った大量破壊兵器『がっかりだよね砲』によって、迎撃拠点を木っ端みじんに吹き飛ばされたマンダリナ軍は、涙目敗走状態に。
「(が、がっかり? 私の和服が……がっかり、と。そ、そう言うのですか、セレナ? いえ! いえ、いえ、いえ! そうではないですよね。今年も和服だったらと言う文字がある通り、セレナがガッカリするのは二年連続で和服だった場合の話。それに、私個人に言及しているのではなく、統苑会全体についての失望を表明していると考えられます)」
コクコクと頷きながら、平静を装ってセレナとのチャットを継続する鹿謳院。
「(セーフです。私はまだがっかりされていません。……いえ、本当にそうですか? もしセレナの中の方が雫であるとすれば、彼女は和服に拘る私に対して既に失望していると言う事では? 雫ではないにしても、セレナの中の者は統苑会に、副会長に近しい誰かであると考えられるのですよ? では、それは、つまり──)」
ふくかいちょう:おいおい、会長また和服がいいんだってよー
せれな(中の人):ですよねー! 私はがっかりしていますー
ふくかいちょう:和服以外に選択肢がないのかよ、あの妖怪和服女は
せれな(中の人):妖怪和服女より、ふくかいちょうの方が素敵!
近衛とセレナの中の人が繰り広げたかもしれない会話を脳内で思い起こした鹿謳院は、残っていたお茶を美しい所作で飲み干すと、珍しくカタンと音を立てて湯呑を机に置く。
「──ゆ、許されません!」
そして一言、不満を口にした。
「(そのような事が許されて良いはずがありません。何と言う下衆! 私のセレナと陰でそのような……許されざる行為ですよ、副会長。なんたる悪逆無道)」
そして、謂れの無い誹謗を受ける近衛。
まあ、いつも通りと言えばいつも通りかもしれない。
「──で、ですが、それでもまだセーフです」
「(確かに私は和服が良いとは言いましたが、まだパンフレットは作成すら開始されていません。統苑会の撮影もまだ終わっていない今、服装の変更などいくらでも利くのです。むしろ、今から副会長の案に乗る事で私の懐の深さ、器の大きさを示す事も叶いましょう)」
マンダリナ:──なるほど、そう言う感じかー。あ、ところでさ、話まだ戻るんだけど
セレナ:うんうん、なになに? なんだろ?
マンダリナ:ほら、さっきのパンフレットの話なんだけど、セレナ的には統苑会にはどう言う服を着て欲しいなーって言うのはあるのかなって思ってさ
セレナ:あー、ん-。さっきは和服はがっかりって言ったけど、でも去年の統苑会の皆さんは凄く似合ってたから、違うのも見たいなーって思っただけで、特にこれが良いなーっての言うのは無いかな?
マンダリナ:それはまあそうか。毎年同じ服だったら少しがっかりってのはあるかー
セレナ:うんうん。だから、和服以外を見てみたいなーって思っただけだよーw
「(少し時間差はあったが、統苑会の話題に食いついて来たか。ふむ、微妙な線だな。一般生徒が統苑会に興味を持つ事自体は普通だからな。……いいや、わざわざ一度通り過ぎた話題に再度戻って来た事を考えれば、やはり、ダリちゃんの中の者は統苑会に通じていると考えるべきか?)」
鹿謳院の脳内が慌ただしく動いていた一方で、近衛の方は冷静さを維持。
「(ダリちゃんが統苑会の者であれば、もしくは彼らから情報を得る事が出来る立場に居る者であれば、次は女性が和服、男性が洋服になると知っている。故に、二年連続で和服は失望すると言えば、或いは興味を示すかと考えたが……何とも言えんな。興味を示していると言えばそうだが──いや、もう少し煽ってみるか?)」
実際にはクリティカルヒットして鹿謳院が瀕死の重傷を負っていたのだが、少なくともチャット上では思うような反応が引き出せなかった近衛は、もう少しだけ突いて様子を見る事にした。




