Level.093 思い出は胸の中に
学校で難しい事を考えた後は、お家に帰ってご褒美が待っている。
セレナ:ダーリちゃん!
マンダリナ:よ、遅くなって悪かったな
セレナ:ううんー、私もさっきインしたばっかりだからデイリーもまだやってないw
マンダリナ:当然俺も今インしたばっかだからやってないw
セレナ:行きますかー!
マンダリナ:行くかー!
楽園の庭にログインしたセレナとマンダリナは、合流したらすぐに遊ぶ。
学生だからと言って時間が無限にあるわけではないので、二人の遊びには効率が求められるのである。
そんな訳で、共通のフレンドを誘ってサクサクとデイリーミッションをこなしていけば、あっと言う間に二十時前。
睡眠不足による脳へのダメージを恐れている二人にとって、睡眠時間の確保は絶対条件。
その為、出来れば二十一時には寝たい近衛と、二十二時かどれだけ遅くとも二十三時には寝たい鹿謳院は、いつも二十時前後にはログアウトするようにしている。
沢山遊べているようで、実際はそんなに沢山遊べていないし、毎日会えるわけでも無いので会える時は一緒に居る、そんな感じの御夫婦。
まあ、毎日会っていると言えば会っているのだが。
それはそれとして、ゲームの中で冒険を楽しんだ後はログアウトするまで、しばらくのんびりとお喋りをするのがいつもの流れ。
セレナ:聖桜祭楽しみだねー
マンダリナ:な。今年どんな感じになるのかまだわからないけど、去年も面白かったよなー
セレナ:うんうん! ダリちゃんは何年の聖桜祭が一番印象的だったとかあるの? 私は少し前なんだけど、知力テーマの年の聖桜祭が良かったなーって思ってたり!
マンダリナ:あー、知力はいつだったかな。五年前か、結構遡ったなー でもあれ良かったよな、確かに
セレナ:知力の時のリアル脱出ゲームが本当に面白くて、よく出来てるなって思ったんだー
マンダリナ:あれだよな、一つ脱出する度に一つヒントが貰えて、いくつかヒント集めた人だけが最終ステージに進めるとかって方式の?
セレナ:そうそう! 聖桜祭は五日あるから、最終日に近付けば攻略ヒントが共有されたりもするんだけど、その頃にはもう最終ステージに進める人間が決まってるんだよねー
マンダリナ:あったなー。ファイナリスト九名の様子が学園中でリアルタイム上映されてて、生徒連合と統苑会でガチンコ勝負したやつだよなw
セレナ:うんうん! あれは格好良かったよね、映画見てるみたいだったw
マンダリナ:そう言えばあの時って、あの人も残ってたよな、前の前の会長さん。確か、今の副会長さんのお兄さんで、あの人やばかったよなw
セレナ:うんうんーw
お気に入りのデートスポット、天空都市イズニフ・アブキアにある空中庭園でのお喋りタイム。
そんな空中庭園は、最新のメインストリームで実装された場所なので、あっちもこっちも人で溢れ返っている。
もちろん、パーティーチャットと呼ばれる特定の人にしか届かないチャットをしているので、聖桜学園の話をしたからと言って誰に聞かれる事も無い。
だが、そんな場所でさらりと飛び出す聖桜祭のテーマ。
「(──知力テーマ、ですか)」
そのチャットを見たマンダリナの中の者は、左手の人差し指でぷるぷるの唇に触れながら、ラブリーマイワイフの発言について考える。
「(知力がテーマとなった聖桜祭は私が中等部に上がる前、初等部の六年生だった時。私は参加していなかったので一般的な情報しか持っておりませんが……。セレナの口振りからは、参加していた印象を受けますね)」
身振り手振りのエモートを交えながら話す、ゲーム画面に映るセレナ。
そんな愛らしい妻との楽しいチャットを右の頭で楽しみ、左の頭で中の人の特定の為に思考を展開する。いつも通り器用な事をする鹿謳院。
「(知力の聖桜祭を経験しているとなれば、順当に考えれば私より上の生徒と言う事になります。であれば、セレナは三年のいずれかの生徒。──と、安易に結論づけるべきではありません。私とて過去の聖桜祭の情報を握っているように、この程度の情報、調べようと思えばいくらでも調べられます)」
セレナは可愛い、可愛いはセレナ。
チャットをしているだけで自然と口角が持ち上がる鹿謳院が、楽しく特定作業をしている一方。
インターネッツ回線を通じた向こう側に居るセレナの中の人も、画面の前で考え事をしているのは、いつもの事。
「(まあ、ダリちゃんが純血組である事は九分九厘確定しているからな。この程度であれば知っているか。一条もこの程度は把握しているはずだ。出来る事なら、出し物をしていた側なのか、ただの参加者なのかを絞り込みたいが、そこまでは難しいか。相手に踏み込めば必ずこちらにも踏み込まれる事になる。深追いは厳禁だろう)」
セレナ:ダリちゃんはどのテーマが一番良かったのー?
マンダリナ:うーん、どうだろうな。でもやっぱり、一昨年の劇テーマの時が一番印象に残ってるかな?
セレナ:あー、わかるかも。文化祭って感じしたよね!
マンダリナ:だよな。文化祭って言えば演劇みたいな印象あると言っても、まあ他の学校の文化祭あんまり知らないけどw
セレナ:実は私もあんまり知らないw
可愛いエモートを間に挟みつつ、マンダリナと会話をするセレナの中の人。
ゲーム画面に映るきゃわわな雰囲気とは打って変わって、真剣な表情を浮かべながら顎に手を当てるイケメン。
「──劇、か」
「(思えば、俺が中三の時の劇が聖桜祭に生徒側として参加した最後の年か。しかし、それにしても劇か。まあ、ダリちゃんの印象に残っていたとしても不思議ではない。なんせ、統苑会次期会長選挙の期間でもあったからな。丁度俺が選挙に向けて動き出したのも聖桜祭の辺りで──)」
ふと頭によぎったのは、中等部三年の時の記憶。
劇をテーマにした聖桜祭での思い出。
既に勝敗が決したと言うのに、それでも尚自分の事を睨んでくる女生徒。
今にも泣き出さんばかりの、余りにも必死な表情を浮かべた女子の姿。
一瞬頭によぎった思い出を吹き飛ばす様に、鼻息を漏らした近衛は軽く笑った。




