Level.091 聖桜祭とはなんぞや
聖桜祭とか言う、聖桜学園で開催される謎の学校行事。
幼稚舎や初等部から聖桜に所属する純血組であれば何となくわかるお祭りだが、今年から中等部や高等部に入学して聖桜に所属した外様の者には、馴染みのない行事。
「よくある学校の文化祭とは少し違うんですよね?」
「大差はないだろうが、違うと言えば違うだろうな。尤も、俺は他の学校の文化祭に足を運んだ事がないから断言は出来んがな」
そんな訳で、今年度に高等部に入学して聖桜に所属させられる羽目になった橘にはあまり馴染みが無いので、近衛達から説明を受けていた。
「大筋は一緒だと思うんですけどねー、でもちょっと変わってるかもー? 私は何度か他校の文化祭に遊びに行った事ありますけど、やっぱり聖桜はちょっと変かもですねー」
「変と言う表現は適切ではありませんよ、美月。これも聖桜の伝統なのですから、恙無く運営をしましょうね」
「もちろんですよー! って言うか、この中なら私がいっちばん動いてると思いますけどね」
「それはどうでしょう。私と庶務も生徒会や各部活会との折衝で動き回っていますので、それなりにお仕事をこなしていますよ」
場所はいつもの執務室。
メンバーは会長、副会長、広報、議長、庶務の五人。
「いやぁ、この中なら僕が一番何もしてないですね……ははは……」
と、部屋の隅っこに立っている武界の六人。
執務室は十分広いので、統苑会の九人が集まっても全然手狭にはならない。
だが、相変わらず冬服を着ている鈴木はそれでも邪魔にならないようにと、隅っこで後ろ手を組んで直立不動のまま待機している。
「鈴木はその分当日が忙しくなるかもしれんからな」
「ですねー。今年から一般開放で何があるかわからないですから、今のうちに英気チャージしとけばいいんですよー」
「武界の業務は不安分子の排除ですので、聖桜にあだなす賊を血祭りにあげるだけで問題ありません」
「問題しかないわ。まあ、一条の発言は冗談としても、人には適材適所と言うものがあるからな。鈴木には期待しているぞ。最悪処理する場合は、誰にもバレんようにな」
「あ、はい! その辺は大丈夫だと思います!」
「はいじゃないですよ。雫も副会長も武界も警察沙汰は控えて下さいよ」
「あ、でも、つまり、介入させなければいいんですよね?」
「(僕は何も聞いてないし、何も知ーらない。皆ただ冗談を言って遊んでるだけだから、全然大丈夫、全然平気)」
和気藹々と進む会話を聞きながら、すっかり聖桜学園に馴染んだ橘はニコニコと愛想笑いを浮かべている。
「──っと。まあ、そうだな。聖桜祭は文化祭と言うよりも学習発表会と言うべきだろうか」
「それも少し違う感じしますけどねえー。なんだろう? 短期学習発表会?」
「それだと結局学習発表会じゃないですか。普通に文化祭でいいんじゃないですか。少々大変ですけど」
「ですが、そうですね。私も他校の文化祭がどのようなものであるのかは、知識としてしか存じておりませんので、なんとも違いを説明し辛いですね。文化祭と言えばその通りですので、副会長や美月の言う通り、学習発表会と言った所でしょうか」
「えっと、毎年テーマが一つ発表されて、それを各クラスで競い合う行事なんですよね?」
「うむ。競い合うのは事実なのだが、聖桜祭で最も重視されるのは学園全体の統一感だ」
「統一感ですか」
近衛の言葉に頷いた橘に、鹿謳院が説明を続ける。
「ええ。確かに、最優秀クラスの選出はありますが、目的はあくまでもテーマによる聖桜学園の統一です。発表されたテーマに合わせて各クラスが学園を装飾する、とでも考えて下さればイメージしやすいでしょうか」
「な、なるほど」
「うーーん。まあほら、レンレンとか中学までの文化祭だとクラスごとに色んな出し物があったりしたんでしょ?」
「あ、はい!」
「飲食店だったり研究発表だったり、劇だったり、音楽とかもあるのかな? そこはわからないけど、でも、文化祭って言ったら基本的に各クラスで色々と出し物を決める感じでしょ?」
「えっと、確かに、そうだと思います」
「(いつの間にか何をやるのか決まっていて、僕はその手伝いをしていただけの記憶しか……ない。どうやって出し物を決めたんだっけ? 多数決で決めてた気がする)」
いまいち文化祭に思い入れが無い橘だったが、とりあえず柳沢の言葉に頷いて話を促す事にした。
「各クラスで出し物を決める点は聖桜祭も一応そうなんだけどー。ただ、うちの場合はさっきから言ってる『テーマ』に沿った出し物以外は、絶対に出しちゃダメーって言う決まりがある感じかなー」
「まあ、テーマと言っても千差万別なので、聖桜祭はテーマによって毎年がらりと印象が変わるんですよ。庶務の中学ではどうか知りませんが、劇があったり研究発表があったりと各クラスが雑多に、まるで統一感のないしょーもない文化を羅列していたのではないですか?」
「いや、言い方きつくないですか、一条先輩。……まあ、そうかもですけど」
「雫の言葉ではありませんが、聖桜祭でそれが許されないと言う話です。たとえば、去年ですと『食』と言うテーマが選ばれましたので、各クラスの出し物は『食』に関する物に限られました。中等部も高等部も全部のクラスが食に関する出し物に絞って、聖桜学園全体で『食』を表現したわけです」
「焼きそばを作ったりとか、そう言うのですよね?」
「まあそんな所だ。──ただし、聖桜祭にルールはない」
「ルールは無い?」
それまでパソコンを見ていた近衛がクイっと視線をあげて、ニヤリと笑いながら橘を見ると、見つめられた橘はあまりのイケメンの視線に、同じ男なのに思わずドキッとしてしまう。
「それが自分の力であるならば、いくらでも存分に振るって構わない」
「と、言うと?」
「親の力を使うのは無しなんだけど、それ以外は何でもオッケーって感じかなー?」
「庶務は何か得意な事はありますか?」
「う、うーん。ぱっと思いつかないかもです」
「クソ雑魚が」
「ちょっ、聞こえてますよ! 一条先輩!」
一条雫はほんのちょっとだけ、近衛からの寵愛を一心に受けている橘に対する当たりが強い傾向にある。ちょっとだけ。
しかし、そんな一条に初めこそされるがままだった橘も、今ではなんやかや言い返すくらいの事は出来るようになっていた。
相変わらずされるがままである事に変わりはないけど。




