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Level.088 よく動く美しい女子


「どうぞどうぞー、白川先輩にもご意見を伺いたいと思いましてー」


「よい所に来ましたね、桜花」


「はい、鹿謳院様。いつでも貴女のお側に、白川桜花で御座います」


「なるほど。折角だ、白川の意見も聞くとするか」


「白川先輩とお呼びになっても宜しいのですよ? 近衛君」


 輝く金髪をなびかせる美しい女生徒。


 彼女が入室した事によって、執務室の色が少し明るくなる。


 実際に自撮り用のライトで御自身の顔を照らしているので、明るくなったのはその為と言うのもあるかもしれない。


 統苑会の下部組織である、十六人からなる聖桜生徒会メンバーも暇ではないので、白川の照明とレフ板係として毎日同行できるわけではないのである。


「それで、聖桜祭に関する大切なお話と言うのは?」


「えっとですねー、実は──」


 挨拶もそこそこに白川がソファーに腰かけた所で、彼女の近くに座った柳沢が簡単な説明をする。


 聖桜祭パンフレットに載せる統苑会メンバーの服装について、斯く斯く然々と説明すれば、当たり前と言うか、普通と言うか──。


「和服でも制服でも別にどっちでも良いではありませんこと?」


 柳沢が最初に口にしたように、白川も彼女と同じ意見を口にしながら、徐に立ち上がった。


 立ち上がった白川は、後ろ髪をファサーとかきあげて言葉を続ける。


「和服でも制服でも、わたくしはとても美しいですもの」


 そうして、堂々と宣言した彼女は、腕を交差させるようなポーズを取ると美しい顔を輝かせた。


「もちろん、会長も副会長も広報も、どなたも和服制服が似合うではありませんか。統一感など些細な問題ですわ」


「つまり、桜花は皆好きな服を着れば良い、と」


「話にならんな。統苑会は烏合の衆ではない。無論、誰もが個性を内に秘めている事は認めてやっても構わん。だが、少なくともそれはパンフレットで示すようなものではない」


「あらあら。どうしてもと仰られるのであれば、会長を始めとした女性は着物に、副会長含めた男性は制服──では少々弱くなってしまいますので、着物に負けない洋服を合わせれば良いのでは? 折角柳沢さんが居るのですから、その程度の合わせなど容易な事ではなくて?」


「あー、まあそうですねー。白無垢着たお嫁さんとタキシード来た父親の写真とか、めっちゃ映えましたよ。何処だったかなー……。あ、ほら、これこれ、前に参加した結婚式で見たんですけど、綺麗じゃないですー?」


 スマホをポチポチと操作した柳沢は、会長と副会長のパソコンに以前参加した結婚式で取った写真を送ると、両名がそれを開いて確認する。


「……ふむ。男女で分ける事での統一性はありだな」


「……まあ、和洋折衷と言う言葉もありますからね」


 パソコンに表示された写真を見た二人は一度作業の手を止めて、思考をクールダウンさせた。


「(男女で様式を変えるなど、少し考えれば思い付く事を白川に指摘されるとは……。鹿謳院が下らん事を言うから俺とした事が意固地になっていたか)」


「(和服を所望した事が私個人の我儘であると一瞬にして見抜かれてしまって、後に引けなくなっていた……かも、しれません。和洋折衷など基本ではありませんか。恥ずかしい)」


 頭から熱が抜ければ、そこは鹿謳院と近衛。


「鹿謳院さえ問題なければ、俺は白川の案で構わん。手間を取らせたな柳沢」


「副会長が宜しいのであれば、私にも異論は御座いません。失礼致しました、美月、桜花」


 何が最善であるかを瞬時に理解した二人は互いに折れて、あっと言う間に話が纏まった。


 しかし、そんな会長と副会長の言葉を受けた白川が執務室の中央でポーズを取ったまま、話が纏まった事など関係なしに、話したい事を話す


「とは言いましても、聖桜祭のテーマ発表はまだ少し先ですわ。テーマに即したより良い衣装が見つかりましたら、そちらを採用なさるのも一興かと」


「テーマに即した衣装か。それもそうだな。過去の統苑会も、聖桜祭の衣装は毎度テーマに合わせていたからな」


「その問題のテーマはまだ教えて貰えないんですかー、白川先輩―? 広報的には早く教えて欲しいんですけどー」


「ふふふ。もちろん、NOですわ。と言うより、わたくしにもまだわからないですから、教えようがありませんわ。その程度、御存じでしょう?」


「まあ、わかりますけどー。テーマの候補とか知りたいなー、とか」


「聖桜祭のテーマは生徒に決定権がありますからね」


「ええ。文界が持つのは最終決定権のみですので、わたくしもまだテーマの候補しか存じ上げておりませんわ。その中のどれになるかなど知る由もなく。テーマの候補を外部に漏らす気も御座いませんわ」


 自身の美しさすらも芸術として表現する白川は、話す度にポージングを変えるので視界がうるさい。


 と言う欠点を除けば、いつ何処からどう見ても完璧に美しい女性ではある。


「ですので、わたくしとしても柳沢さんが仕事を急ぎたい気持ちも理解は出来るのですが、御力にはなれませんわね。その代わり、衣装さえお決め下さいましたら、宣材写真は構図から撮影に至る全てをお手伝いさせて頂きますわ」


「ありがとうございますー! 白川先輩が手伝ってくれるならカメラマンに頼まなくていいから楽なんですよねー」


「ええ、全てわたくしにお任せなさい。百年先にも残る美しい写真を撮って差し上げますわ」


 鹿謳院と近衛を前に堂々たる立ち居振る舞いをする白川桜花。


 癖の強い者ばかりが集う統苑会でも、比較的わかりやすい性格をしている彼女を一言で表すとすれば『美』である。


 統苑会の文界には、全ての生徒の中で最も文化に精通している生徒が選ばれる。


 文化の中でも特に、音楽、料理、絵画、文学、服飾などの芸術方面で特筆した才能を有する者が就任する事が多いわけだが、白川桜花は絵画、写真、彫刻で美しさを視覚的に表現する芸術『美術』に特化した才能を持つ女生徒。


 こと美術において言えば、鹿謳院と近衛を凌駕する才能を持った彼女は、自分自身も美術の作品として磨き上げている最中。


 だからこそ常に美しくあり、だからこそ常に美しさを追求する。


 そして、そんな才能あふれる彼女だからこそ、どうしても認めざるを得なかった。


「(──嗚呼、鹿謳院様も近衛君のなんと美しい事! わたくしより、美しい! ただ座っているだけですのに、何故こうも美しいのでしょうか。憎い! わたくしより美しい二人が! けれど! 美しいから許せてしまいますわ!)」


 誰よりも美しいはずの自分よりも会長と副会長の方が遥かに美しい、と言う事実を認めざるを得なかった。


 そんな二人に認めて貰おうと、ポーズを変えながら話しているわけだが。


「身体がうるさいぞ、白川」


「もう少し落ち着いた方が宜しいですよ、桜花」


「あ、はいですわ」


 大体最後は注意されて終わる。

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