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Level.086 三人寄ればなんとやら


「鹿謳院はいつも弁当を持参しているが、教室で学友と席を共にしようとは思わんのか」


「生憎と騒々しい環境での食事は苦手なものでして。雫は普段教室で食べているのですよね」


「私はそうですね。教室で食べる事もあれば食堂に行く事もありますが、中庭で食べる事が多いかもしないです。と言う事で、副会長もたまにはクラスメイトと一緒にエナジーバーで乾杯でもしてみたらどうですか」


「どこの世界にエナジーバーで乾杯する馬鹿がいる。そこはせめてエナジードリンクだろが。しかし、そう言う意味では、折角の美しい弁当なのだから鹿謳院は学友と昼食を取る方が良いかもしれんな」


「(毎度毎度昼休みになる度に執務室に顔を出しおって。弁当くらい教室で食えばいいだろうに。この女は一条と俺が主従関係にある事を知っている癖に、よくもこの場で平然として居られるな。神経が図太過ぎる)」


「私にお弁当を見せ合う趣味は御座いません。ですが、雫が中庭で食べると言うのであれば一度お付き合いしてみたいとは思いますね」


「(今はまず雫と二人きりになれる環境を整え、少しずつ関係を進めるしかありません。執務室には常に余計な者が居座っておりますから、雫が中庭に行かれる機会に同行させて頂きましょう。……全く、本だけ読んで黙っていれば宜しいのに、鬱陶しい男です)」


「もちろん構いませんよ。と言いましても、今まだ暑いので秋口に入ってからになるとは思いますが、その時は是非。会長の弁当は美しいですから私としても見ていて飽きませんし、参考にもなります。そう言えば、副会長はエナジーバー以外に好きな具材はあるんですか? エナジーバー弁当でも作って差し上げましょうか」


「(なるほど。鋼鉄様は会長の持参されているような弁当を美しいと感じられるのですね。目指すべきはやはり鹿謳院家のお抱え調理師レベルと言う所ですか、流石に道は険しいですね。オリジナルのエナジーバー作製と並行して、会長の弁当も研究するとしましょうか)」


「エナジーバー弁当はただのエナジーバーだろうが。それより鹿謳院は──」


 近衛から鹿謳院に、鹿謳院から一条に、一条から近衛に。


 よくよく観察してみれば、会話が成立しているようで微妙に成立していないような気もする。


 そんな、それぞれの想いを乗せた会話はターン制バトルのように継続。


「(この女、意地でもこの部屋から動くつもりがないな)」


「(やはり、雫はこの男に隷属させられているのですね)」


「(エナジーバーでポッキーゲームをしてみたいですね)」


 鹿謳院も近衛も一条も、誰一人として思い通りに動く事はなく。


 ただ三人で仲良くお喋りをしながら昼食を取っただけの、何の成果も得られなかった昼休みは終わってしまう。


 セレナ:うんうんうん! 確かに、ここって何となく聖桜の中庭に似てるよね

 マンダリナ:だよなー


 何の成果も得られなかった学校生活が終われば、ゲームでの探り合いが始まるのはいつもの流れ。


 セレナ:聖桜って各施設綺麗だから何処に居ても居心地いいよね

 マンダリナ:中等部と高等部が同じ敷地にあるから広くて飽きないってのもあるかも

 セレナ:最初のうちとか迷子になりそうになるよね

 マンダリナ:俺は中等部の最初の頃にちょっとだけ迷子になったw

 セレナ:ダリちゃんかわいいw


 最新パッチで追加されたばかりの、イズニフ・アブキアと言う名前の天空都市。


 その天空都市の中にある空中庭園は、二人のお気に入りのデートスポット。


 最近はあと少しでログアウトするかなーと言う時に、最後に立ち寄るのがこの場所。


 眼下に雲海が広がる天空の花園は非常に美しくて、色とりどりの花と清涼な水が流れるその場所が、なんとなく聖桜学園にある庭に似ているな、と──。


「(無論、全く似てないがな。しかし、ダリちゃんのリアルに繋がる情報は一つでも多く取得したい所だ。ここは乗らせて貰おうではないか)」


「(直接的に現実を持ちだしますと、引かれる恐れがありますからね。私にできる事は間接的に話題を提供して、セレナが乗り気になるのを待つ事だけ。普段どのような施設を利用するかだけでも聞き出せれば大きいのですが、一筋縄ではいかないでしょう)」


 穏やかに進むチャットの向こう側では、鹿謳院と近衛が常に包丁を研いでいる。


 セレナ:聖桜の中庭っていつも庭師さんがお手入れしてくれてるから、いつ行っても綺麗ですよね。あでも、中庭って言ってるけど即庭そくていとか庭園ていえんって言った方が正しいのかな

 マンダリナ:正確に言えば中庭じゃないしな。セレナはどの庭園が好きとかってあるのか?

 セレナ:うーん。ブルーガーデンは昔少し好きだったんだけど、高等部になってからはちょっと生き辛いかも

 セレナ:生き辛いじゃなくて行き辛いw

 マンダリナ:大丈夫伝わってるよw でもそうかー、ブルーガーデンは中等部側にあるしな。高等部になったらちょっと遠慮しちゃうかもなー

 セレナ:距離的にもちょっとねー


 誤字ってしまったセレナとマンダリナの和気藹々としたチャットは、のんびりと継続。


 ブルーガーデンとは!


 名前の通り、青色の草花を基調として造られた、青で統一された庭の事。


 その他にも西洋式庭園であれば『ローズガーデン』に『ハーブガーデン』があって、日本庭園として『枯山水かれさんすい庭園』と『池泉ちせん庭園』もある。


 後はイギリス式の風景庭園もあるのだが、中等部と高等部の両校舎から多少距離があるので、放課後にお茶を楽しむならともかくとして、昼休みに行く者は非常に稀。


 セレナ:ダリちゃんは好きなお庭はあるの?

 マンダリナ:うーん、強いてあげるならローズと池泉ちせんかな? つっても、何処も綺麗なんだよなw

 セレナ:わかる、どこも本当に綺麗だから落ち着くよねw


「(やはり、セレナは青が好きですね。雫もエヴェリーナのコスプレをしていた程ですから、青が嫌いと言う事はないはず。スマホに付けているアクセサリも確か、青でしたね。確認した事はありませんでしたが、青色が好きと考えても差し支えないはず)」


 頬に手を当てて軽く首を傾げる鹿謳院だが、半分正解で、半分不正解。


 蒼鵠そうこくのエヴェリーナや、天射てんいのクロディーヌと言った、青っぽいキャラクターが好きなように、近衛は色の中では青がお気に入り、それは間違いない。


 なので、中等部の頃にはよくブルーガーデンに足を運んでいたとか、運んでいなかったとか。


 と言う事で、近衛の好きな色に関しては一応当たっている。


 しかし、忠実なる従者はそんな主君の嗜好を知っているから、少しでも気に入って貰おうと青色をワンポイントに取り入れているだけで、特別に青が好きと言うわけではない。


「(花が好き、或いは風景が好きだと言うのはダリちゃんに一貫して存在している嗜好だからな。ローズガーデンの華やかさはダリちゃんに似合う気もする。しかし、一条はどうだろうか? 嫌いと言う事はないだろうが……いや、だがそうだな、薔薇が嫌いな女は居ないか)」


 そんな事は無いと思うけど、これに関しては当たっているとも外れているとも言えない。


 ふむと頷きながら楽園の庭のゲーム画面を眺める近衛だが、確かに一条も人並みに花を美しいと思う感性を持っているので、薔薇が嫌いではない。


 しかし、好きか嫌いかで言えば好きだろうが、それでもその程度でしかない。


 より精確に言うならば、近衛が『薔薇ちょー好き!』と言えばその日から世界で一番好きな花になるが、近衛が『薔薇ちょー嫌い!』と言えば、その日から世界中の薔薇を燃やし尽くさん程の憎悪に駆られる程度の興味しかない。


 こうして今日も、得る物があるような無いような情報戦は緩やかに終了。


「(ブルーガーデン、ですか)」


「(ローズガーデンと池泉庭園か)」


 妻の(夫の)好きな場所だと言うのなら、近い内に一度足を運んでみようかなと、そんな事を考えながら笑顔でお別れした二人はゲームを終了した。

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