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Level.084 穏やかな会話の裏で


「(もちろん、一条が鹿謳院に情報を提供したと言う線もゼロではない。限りなくゼロに近い低い可能性ではある。だが、あいつが俺に疑いの目を向けているとするなら、鹿謳院を利用してこちらに揺さぶりをかける程度の事は軽くやってのけるだろう。とは言え、情報提供者と一条は別人と考える方がスマートだ。──やはりここは、こちらから仕掛けるべきか)」


 セレナ:あ、でさでさ! そう言えばそう言えば、一個凄い事思い出しちゃったんだけど、絶対内緒に出来る?

 マンダリナ:はいはいはい、なんすかなんすか? 犯罪とかじゃない限り絶対に内緒にするけど、なんだろ

 セレナ:犯罪とかそう言うじゃないってばw

 マンダリナ:わかってるw

セレナ:えっとね、実はね、私が羽休め行った時に凄い人来てたんだよ

 マンダリナ:凄い人?

 セレナ:うん、誰だと思う?w

 マンダリナ:え、誰だろw うーんw


「(……まさか、副会長の事を? いえ、雫の事? もしくはそれ以外の?)」


 セレナ:時間切れー! 正解は、統苑会の副会長さんと議長さんでしたー

 マンダリナ:おおー、え、マジで?

 セレナ:うんうん! アイテムコードの配布が開始された日に行ったら、二人が居るんだからびっくりしちゃったよw

 マンダリナ:それは聖桜の生徒ななら誰も驚くけど、って事は二人と会話もしたり?

 セレナ:うーん……それは内緒!w


「──これは……また、巧妙な」


 セレナから飛び出したまさかの情報に、視線を鋭くした鹿謳院の頭が高速で回転する。


「(自分から副会長と議長の名前を出す事で、セレナの中身から除外する。自分の中身はそのどちらでも無いと主張する一手とも取れますが……。もちろん、この言葉が真実である可能性もあります。こちらを攪乱するには十分な言葉ですね、セレナ。けれど、何故敢えて今そのような事を──)」


「(──言ったのだろうかと、ダリちゃんの中の者は考えるはずだ。そうだ考えろ、俺が今この言葉を発した意味を。何故、敢えてそんな事を言ったのか。ダリちゃんならわかるはずだ)」


 ゲーム画面では、天使の羽休めに統苑会の副会長と議長が来店していたと言う話題で、セレナとマンダリナが盛り上がっていて、その様子を、口角を軽く上げた近衛が見つめる。


「(雫がセレナだった場合、これを告げる意図は理解出来ます。まさか自分から中身を暴露するはずが無いと誤認させ、セレナの中身から議長と副会長を除外さる事。そして、除外された選択肢の中に悠々と居座る。注目を他者へ逸らす為のブラフです。……ですので、問題はそうではない場合の時)」


 和気藹々と続くゲーム内のチャットとは裏腹に、鹿謳院の視線は険しくなっていく。


「(セレナと雫が別人だった場合。セレナの中の方はあの日、私がコンカフェに居たあの瞬間に店内に居た事を意味します。変装はしておりましたが、最悪の場合は私の姿も見られている可能性すら──)」


 セレナの言葉に翻弄される鹿謳院は右手で素早くキーボードを叩き、震える左手の人差し指をはむはむと唇だけで甘噛みしながら、思考を加速させる。


「(もし、あの場にセレナの中の者が居たとすれば、この俺と一条以外のもう一人別の誰かが居たとすれば、ダリちゃんは気になって仕方がないはずだ。或いは、聞きたくなってしまうかもしれないよな)」


 マンダリナ:副会長さんと議長さんが居たくらいだから、他にも聖桜の生徒がいたりしてなw


「──他に誰か見なかったのか、と。冗談めかして確認したくなる事だってあるかもしれないよな。ダリちゃん」


 マンダリナのチャットが表示されるのと同時に独り言を溢した近衛が、ニヤリと笑う。


 セレナ:えー、どうかなー? 居たと思うけど内緒にしとくw

 マンダリナ:めっちゃ気になるんだけどw

 セレナ:でもダメー! これ以上は内緒です!

 マンダリナ:うーーん、わかったw


 多少未練はあるようだが、それ以上深く追求してこないマンダリナを見た近衛は、机の引き出しからメモ帳を取り出してペンを走らせる。


「(今の反応。ダリちゃんの台詞が虚であれ実であれ、中の人間があの場に居た可能性は極めて高い。これが特定にどう役立つのかは未知数だが……。そうだな、これは今まで俺がやった事のない難解なパズルだと思えば良い。一つ一つのピースの意味がわからずとも、多くのピースをかき集めて真実と言う輪郭を浮かび上がらせる難解なパズルだ。故に、まずは最初の一つ──)」


 メモ帳に書かれた極めて美しい字。


 ダリちゃんはあの日あの時間に、同じ店内に居た可能性が極めて高い。


 必要最低限の言葉を記した後、メモ帳はさっさと引き出しの中に仕舞われた。


「(──中々に鋭い一撃でしたが、一歩届きませんでしたね、セレナ)」


 一方、近衛が一つ目のピースを手に入れた頃。


 鹿謳院氷美佳もまた楽しそうにゲーム画面を眺めていた。


「(そうですね。貴女があの日あの瞬間あの場所に居た事は間違いないでしょう。けれど、私の姿は絶対に見られていません。だって、おかしいではありませんか。副会長と議長を見たとまで言うのであれば、会長を見た事を隠す意味がありませんもの。つまり、私を見てはいない)」


 ゲーム画面上で言葉を交わすフワフワと愛らしい妻を見ながら、鹿謳院はニコリと笑う。


「(この話題を出して来た理由は唯一つ、あの場に私が居たのではないかと言う疑いからです。だから、聞いて欲しかったのでしょう? “他に誰かいなかったのですか”と。ですが、その質問を欲しがった時点で、貴女は自分から何も掴めていない事を白状したのです。念の為に質問は致しましたが、やはり私の名前は出て来ませんでしたね)」


 とは言え、現状何もつかめていないのは自分も同じであると鹿謳院も理解している。


「(互いに何も掴めていない事に変わりはありませんが、まあ良いでしょう。わざわざこんな話題を提供して来た時点で、セレナがあの日、あの店内に居た事は間違いありません。雫なのか、或いは別の者なのかはわかりませんが……本当に運命を感じてしまいますね、セレナ)」


 こうしてまた一つ情報が蓄積されるが、当然これだけで中身の特定に至れるわけでもない。


「──まあ、今日は一先ずこんな所か」


「──ふぅ」


 それに何より、これから忙しくなって遊ぶ時間が減ると言うのに、あまり中身を探る事に時間を費やしていては勿体ない。


 と言う事で、その後は普通に楽園の庭で楽しく遊んだセレナとマンダリナは、仲良くバイバイをしてゲームを終了した。

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