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Level.006 カンストダメージ


 セレナ:同じ学校だってわかってから、ちょっと照れくさい事も増えちゃいましたけど、ダリちゃんがいつも通りで安心しました

 マンダリナ:いつも通りって言うと?

 セレナ:だって、何て言うか、会いたいとか言われるのかなって思ったりもしたもので

 マンダリナ:あー、その気持ちが無いと言えば嘘になるかもだけど、ゲームの中でくらいリアルの事を忘れて楽しく遊びたいとも思うしさ

 セレナ:わかります。現実はちょっと重たい事もありますもんね。私は時々逃げたくなっちゃう事もあるので、ダリちゃんがいつも通りでいてくれるのがとても嬉しいです

 マンダリナ:俺はいつでもセレナの味方だから、何かあればいつでも言ってくれればいいよ

 セレナ:うん! ありがとう


 弱さが垣間見えるセレナのチャット。


 それを見た鹿謳院は軽く息を飲み、頭をフル回転させた。


 セレナは何かに悩んでいる?


 果たして、ここで悩み事を聞くところまで踏み込んでもいいものでしょうか。


 いえ、それは悪手な気がします。


 今セレナが喜んでいるのは私が彼女の現実に干渉しないからであって、現実など関係なしにいつも通りに遊んでくれるマンダリナと言う存在に、彼女は心惹かれていると考えるべきでしょう。


 けれど、セレナの悩みは気になります。


 何か辛い事があるのであれば相談に乗ってあげたい。


 鹿謳院わたしの力をもってすれば、大抵の問題は解決可能なはずです。


 私の──。


 そしてその時、鹿謳院氷美佳の身体に電流が走った。


 マンダリナ:まあ出来る事なら相談に乗りたいとは思うけどさ、でも悩みの種は人それぞれだしな

 セレナ:うん。そう思う

 マンダリナ:それに、異性相手に相談できない事とかも女子ならあったりするだろうしさ、何でも俺に相談すりゃいいってわけでもないだろうからな。だから、無理には聞かないようにするよ

 セレナ:うん、ありがとうダリちゃん


 うんうんとチャットをして、頬を赤らめるエモートをしている可愛らしい女の子のキャラクター『セレナ』の中身は近衛鋼鉄。


 無理に相談事を引き出さずに、女の子に主導権を与えつつ受け止める器の大きな男子キャラクター『マンダリナ』の中身は鹿謳院氷美佳である。


 マンダリナ:でも、もし悩み事が学校生活についての事なら統苑会に相談をするのはいいかもよ?

 セレナ:統苑会に?

 マンダリナ:そそ。統苑会の会長ってわかるだろ?

 セレナ:うん、鹿謳院さんでしょう? 知ってるよ! 怖い人だよね?


「──ぐッ……!」


 セレナが統苑会に来るように仕向ければ、彼女の中の人を知る事も出来て、更には何に悩んでいるのかも全てわかる。


 単純にして完璧な作戦を思い付いたはずだったが、セレナの何気ないチャットがマンダリナの中の人に大ダメージを与えた。


「……な……なるほど。なるほど」


「(一般生徒が私に抱く生の声として受け取っておきましょう)」


 そうして、999,999のカンストダメージをその身に受けた鹿謳院ではあったが、身体を小刻みに震えさせながらもチャットを継続した。


 マンダリナ:ん-w まあそこはどうだろうな?

 セレナ:どうって言うのは?

 マンダリナ:いやさ、俺は時々会長さんと話したりするんだけど、あの人は相談事とかちゃんと親身に乗ってくれるタイプだと思うよ? ああ見えて結構面倒見が良いんだよ、あの人

 セレナ:へー? そうなんだ?


 その時、近衛鋼鉄の身体に電流が走った。


 ダリちゃんは鹿謳院と時々とは言え会話する男子であり、彼女の事を何となく知っている人。


 俺や鹿謳院に対する一般的な印象は『怖い』『近寄りがたい』『畏れ多い』『かっこいい or 綺麗』の大体この中のどれかだ。


 それを否定して、更には面倒見の良さをアピールまでする人物。


 となれば、ダリちゃんは鹿謳院のかなり近い場所に居る男子、なのか?


 基本的に統苑会の執務室に入り浸っているあの女と、接点を持っている誰か。


 順当に考えるならば、同じクラスの男子と言う事になる。


 ダリちゃんは二年二組の男子である可能性が非常に高い。


 いいや仮に二組じゃないにしても、鹿謳院と仲良く会話をする男子に探りを入れて行けば、必ずダリちゃんに辿り着けるはずだ。


 そんな事を考えて、更に探りを入れようとした近衛だったのだが──。


 マンダリナ:そうそう。あでも、副会長しか居ない時は日を改めてもいいかもな

 セレナ:え? なんでなんで?

 マンダリナ:あの人ちょっと怖いでしょ? 全然笑わないしさ

 セレナ:そっかー!


「──グッハ……!」


 ダリちゃんの何気ないチャットがセレナの中の人に大ダメージを与えた。


「……ま……まあ……そうだな」


「(舐められるよりも恐れられた方が、民の統制は易いと言うもの)」


 いつも優しいナイスガイのダリちゃんにすら、怖いと思われている。


 その事実にショックを隠し切れず、カタカタと震える手でマグカップを掴んだ近衛が紅茶を口に運んで心を落ち着かせる。


 セレナ:あ、でもね?

 マンダリナ:うん? どうした?

 セレナ:ううん、前にちょっと副会長さんとお話しした事があったんだけどね。その時、確かにあんまり笑わない人だなって思ったんだけど、凄く優しい人だなって思ったなーって

 マンダリナ:へー? そうなんだ?


 それはもちろん知っています。


 近衛鋼鉄と言う男は自分にも他人にも異常なまでに厳しい人間ですが、出来ない事をやれとも言いませんし、人の努力や悩みを笑うような人間でもありません。


 相手の能力を完全に読み取った上で、その限界値に合わせた命令を下す男です。


 あの男の厳しさは期待の裏返しであり、そこには一切の悪意はありませんからね。


「……ですが」


 それにしても、一見するとただの鉄面皮にしか見えないあの男の中身を見抜くとは、セレナの優しさは天井知らずなのですね。なんと良い子なのでしょうか。


 マンダリナ:だったら話は早いな。会長でも副会長でもいいから、もし気が向いたら統苑会で話を聞いて貰えばいいよ

 セレナ:そっかー。統苑会かー、考えとくね!

 マンダリナ:きっと力になってくれるって

 セレナ:うん!


 和やかに進むゲームの日常。


「鹿謳院の近くにいる誰か──」


「近々相談に訪れる女生徒が居れば──」


 その裏で進む夫婦特定ゲームは、近衛鋼鉄がほんの僅かにリードをしていた。

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