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Level.062 偽りの関係だとしても


 そしてもちろん、二人の日常とは即ち楽園の庭の中。


 セレナ:えーーー! ダリちゃん羽休め行ったんだー!

 マンダリナ:って事で、これはセレナにあげるな

 セレナ:え、ダメだよー! ちょっと待って!

 マンダリナ:何も要らないっての、俺は店がどんな感じなのか見たかっただけだからw

 セレナ:そうじゃなくて、ちょっと待って待って、取引窓一旦閉じて!


 夏期休暇の間は探りを入れ過ぎない方が良いと言う結論に達した二人は、存分に夫婦生活を楽しむ事を決意。


 コンカフェに行った日の夜はセレナがログインする事は無かったので、マンダリナからのプレゼントは翌日の、今日。


 鹿謳院の目的は初めからセレナへのプレゼント目当てだったので、妻が喜んでくれる事だけを楽しみに今日まで生きていたのだが、そこには想定外の悪魔が潜んでいた。


「……なん……ですって?」


 ゲーム画面を見た鹿謳院は、衝撃的な光景に思わず呟いてしまう。


 それもそのはずで、昨日アイアムコードの配布が始まったばかりの、全五種類からなる限定衣装を身に纏ったセレナが映し出されていたのだから、驚くのも無理はない。


 セレナ:私も昨日羽休めに行って、それで全部アイテム揃えちゃったんだぁ

 マンダリナ:いやいやいや、マジで? どうやったんだ?

 セレナ:えっとね、羽休めって全国で三店舗あるから、昨日はそこ行って来たんだよー!

 マンダリナ:おー、マジか。すごw それは流石に想定外だったわ


 昨日の昼過ぎ、一条と別れた近衛はその足で空港に移動。


 転売等々の対策で、システム上一日に一度しかお店の予約が出来ないが、それは同一店舗に限る話。


 と言う事で、日本全国にある三店舗のそれぞれで予約をした近衛は、一日で三店舗を回り全てのアイテムを回収しただけ。


 普通ここまでやる人間はいないので、鹿謳院にとっても、と言うか運営にとっても想定外だったと思われる合法チート。


 新幹線や飛行機で多店舗まで行くような異常行動を取るくらいなら、悪い人間は転売でアイテムコードを購入するだろうし、普通の人は大人しく日を跨いで予約する。


 そんな最愛の妻の異常行動を目の当りにした鹿謳院は、何度か目を瞬かせていた。


「と言う事は──」


「(雫はあの後、副会長と一緒にあの格好のままで日本各地を回ったのでしょうか? リリンクにそれらしい投稿でもあればセレナは確定できそうですけど……。いえ、あの近衛鋼鉄が無断撮影を許可するとも思えませんね。あの男の事です。その様な真似をされようものならスマホはその場で破壊して、代わりに札束を置いて帰られる事でしょう)」


 近衛に対して脳内でとんでもない想像しているが、割と惜しい。


 正解は、勝手に撮影した人から少しだけスマホを借りて写真や動画を全部消去する、である。


「(けれど、そうですね。美月を参考にされた容姿とチャットもそうですが、やるからには徹底的にと言う微に入り細を穿つ性格は、セレナも雫も似ております。ファッションアイテムであれば販売当日には購入されて、私がログインするまでの間に染色まで済まされる徹底ぶり。美月もどうしても欲しいものがありましたら、学校を休んで買いに行かれる事がありますからね)」


 凝り性と言うか、一直線と言うか。


 一条雫がセレナの中の人かどうかはまだ決定していないが、似通っている部分を頭の中に叩き込みながら、特定に向けて再計算をしていく鹿謳院。


 一条であればこのくらいはやりかねないと、納得する鹿謳院が気を取り直してチャットを楽しみ始める一方。


「──クッ……!」


 悔しそうに画面を見つめる近衛鋼鉄。


「(迂闊だった! 俺のダリちゃんであればその程度の事はやってのける可能性もあった。少し考えればわかる事ではないか。だが、一条のアイテムクーポンは橘に渡す為に回収した。もしあの女がダリちゃんであるとするならば、あの後でまた別の店舗に向かったのか? そんな事が──いいや……いいや、あの女であれば普通に有り得るか。いや、いかんな、やはり一条は保留しよう。これ以上掻き回されてはゲーム内に支障が出る)」


 一条雫に探りを入れる事ばかり考えていたせいで、マイフェイバリットダリちゃんの事がすっかり頭から抜け落ちていた近衛は、こめかみを抑えながら自身の浅さを恥じる。


「(今はダリちゃんの中身について考えるな。一条であろうが誰であろうが、今はおいておけ。そんな事よりも俺が今対応すべき事は、妻の為にプレゼントを用意したのにプレゼントがダブってしまった夫への対処だ。なんたることだ)」


 もちろん、常人であれば黙って受け取ると言う選択肢もあったかもしれないが、それは近衛のプライドが許さない。


「(全ては妻たる俺の為に用意した物だ。もう同じ物を持っていると言うのに漫然とそれを受け取り、あまつさえ心にもない感謝を口にするなど、そんな真似が許されて良いわけがない。世の中には優しい嘘と言う都合の良い言葉があるようだが、それは相手にとって優しいのではない。ただ自分が傷つかない為の自分にとって優しい嘘でしかない)」


 もう既に性別を偽ったりしていると言うのに、それ以上都合の良い嘘を吐いて相手の心に泥を塗るような行為は近衛には出来なかった。


 ゲーム画面では必死に謝るセレナと、気にしなくていいとか似合っていると褒めるマンダリナのチャットがポンポンポンと続いており、それを見ながら近衛が対応策を考えた結果──。


 セレナ:あ! じゃあさじゃあさ!

 マンダリナ:はいはいはい、なになに?

 セレナ:私はダリちゃんの交換してくれた靴とブローチを貰うから、ダリちゃんは私の交換した靴とブローチを貰ってよー

 マンダリナ:それは一緒じゃないのか? ていうか、折角染色したのに勿体ないだろ

 セレナ:全然違うよ! ダリちゃんから貰った物は別! ダリちゃんだって私があげたローブずっと使ってるでしょ? 内部データは一緒なのかもしれないけど、誰に貰ったのかで思い入れが違うよー

 マンダリナ:確かに、それはそうかも。おっけおっけ、そんじゃ交換するか!

 セレナ:しよしよー! ダリちゃんに貰ったのはもう染色しないで取っとく!

 マンダリナ:じゃあ俺もこのまま使うわw


 色違いの同じアイテムを交換した二人は早速それを装備。


 大切な人から貰った物はそこに気持ちが乗っかるので、たとえ同じ物であっても全然別物なのである。


 結論、二人は今日も仲良し夫婦。

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