表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/99

Level.046 確定した夫と情けない声


 一方その頃。


「うわー、近衛先輩って服着てた時全然わからなかったですけど、筋肉凄いですね!」


 優月に案内された近衛と橘は、部屋の中で水着に着替えながら話をしていた。


「で、あろう。……ふむ、そうだな。昨今の風潮では男女について言及すれば即座に排斥の対象になるだろう」


「え? ああ、うーん、あれですよね? 男らしいとか女らしいって言ったら怒られてしまう感じの?」


「ああ。世界の流れがそうあるべきと言うのなら、俺としてもそれを受け入れる事になんら疑問は無い。だが、それでも、男は強くあるべきだとも考えている。喧嘩や戦争は論外だが、せめて大切な女を守れる程度の強さは欲しいとは思わんか」


「思います! って言ったら怒られるんでしょうけど、やっぱり好きな人を守りたいとかって気持ちはありますよね! ──ん? え? あ、じゃ、じゃあ近衛先輩って誰か好きな人がいるんですか?!」


「いや? 現状、異性交遊には欠片ほどの興味もない。本と女体が並んでいたとしても迷わず本を取る。その程度の興味しか持ち合わせておらんな」


「え? えー、いやー、それはそれでどうかと思いますけど……」


 近衛の発言を受けた橘は、それはそれで普通ではない気がすると思いながらも、言葉を濁す。


「だが、肉体を鍛え、己を高める努力を惜しんではならないだろう。いずれ興味を惹かれる相手に巡り会った時、そいつを守れないような男でいたくはないからな」


 膝辺りまである水着を履き、上半身に長袖のパーカータイプのラッシュガードを羽織った近衛がそんな事を言えば、モデル顔負けの体型をした超絶イケメンの近衛を見た橘が、うんうんと頷いた。


「同感です! ……うーん。ぼ、僕も高校生だし筋トレくらいはした方がいいんですかね」


「ほう! 筋トレはいいぞ、橘! 入学して以降何かと忙しいかと思い俺からは言わないようにしてやったが、一月以上ある夏季休暇は筋トレをスタートするにはうってつけのタイミングだ。最近は便利な筋トレ補助アプリがスマホでリリースされていたりするからな」


「あー、確かに。勉強でも良い感じのアプリありますもんね。そっかぁ、筋トレとかも今はスマホのアプリで管理しながらやるものなんですね。近衛先輩はどんなアプリを使って、どんな感じにやってるんですか?」


「──仕方のない奴だ。どれ、スマホを見せて見ろ。俺が使っているおススメの筋トレアプリでも入れてやる」


「あ、はい! どうぞです!」


 鹿謳院のせいで、マンダリナの中身を確定させる為に練り上げた完璧な作戦が潰されてしまった近衛ではあるが、作戦が潰されてしまったのなら新しい作戦を立てれば良いだけの話。


「(少々話の切り出しは不自然だったかもしれんが、上手く誘導出来たな。或いは、自分で検索するからアプリの名前を教えて欲しいと言われるかとも考えたが、杞憂だったか)」


 何食わぬ顔で橘蓮からスマホを受け取った近衛は、ストアを開いて筋トレアプリを検索する振りをして今現在、橘のスマホにインストールされているアプリを確認する。


「(なんだ、これは。ねこを集めるソシャゲ、か? こんなアプリをやってるのか、相変わらず面白い男だ。なるほど。ふむ、やはり、そうか。──橘、お前はマンダリナでは無かったのだな)」


 そして、橘蓮のスマホの中に『楽園の旅人(エデンズウォーカー)』がインストールされていない事を確認した近衛は、約束通り必要なアプリを教える事で橘に対する探りを打ち切った。


「必要なアプリはこの二つだ。トレーニングメニューに関しては俺がお前に合わせて都度作ってやる」


「え、いいんですか! あ、でも僕筋トレとかって全然知らないんですけど、腹筋とか腕立てくらいしか」


「問題ない。最近はネット上に筋トレ動画が転がっているからな。参考になる動画のURLも教えてやろう。スマホは返すぞ」


「あ、はい! それにしても──」


 着替えを終えた二人は部屋を出ると、だだっ広いリビングのソファーに腰かけて女子の着替えが終わるのを待つ事に。


 引き続き橘と他愛もない会話をしつつも、ここ二ヵ月あまり続けていたマンダリナの中身探しがようやく終わった事に安堵していた。


「(最早スマホを調べるまでも無く、我が夫ダリちゃんは柳沢に確定した。だが、何事にも確証は必要だ。俺はこの目で見たもの、この身で感じたもの以外の何ものをも信じる事は無い。最後に柳沢のスマホを確認してこの戦いに決着を付けるとしよう)」


 と、橘と談笑しながらあれやこれやと考えていた近衛だったが、思考に埋没するあまりに背後に迫る気配を察知する事が出来なかったようで……。


「お、ま、た、せー!」


「のっ!? な、やめろ! 格好を考えんか、恰好を!」


 忍び寄る存在に気付く事ができず、ソファーに腰かける近衛は水着の上から薄手のラッシュガードを羽織った柳沢に背後から抱き着かれた事で、情けない声を上げてしまう。


「……美月から離れなさい、副会長。汚らわしい」


「その軽蔑は理不尽が過ぎるぞ! 鹿謳院!」


「あはは! 副会長の慌てる姿久しぶりに見たかもーおもしろー!」


「柳沢、貴様……ッ!」


「コウちゃんもレンレンも行こ行こー!」


「あ、うんうん!」


「くっ……覚えていろ」


 可愛らしいドレスタイプの水着を身に着けた優月に手を引っ張られながら、別荘を出た橘と近衛。


 そんな三人の後ろを、三角ビキニタイプの水着の上にスケスケの長めのラッシュガードを羽織る大爆笑している柳沢と、フリルワンピース型の可愛らしいデザインの水着を着たジト目をした鹿謳院が歩きながらついて行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ