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Level.044 ライオンハートなお遊び


「あ、あの、先輩! 車の中で食べられるお菓子とか、もってきました! あと、トランプも!」


「あ、いいねーレンレン! 一応道中摘まめるものなら積んであるけど、折角だからレンレンチョイスのお菓子も食べちゃおっかー!」


「トランプですか。初等部と中等部の修学旅行の時にも思いましたが、日ノ本の民はいつから旅先でトランプに興じるようになったのでしょうね」


「ああ、いえ! 暇つぶしに良いかなと思っただけなので、こう言う旅行は初めてだから何やればいいのかなと思って」


「いえいえ、私は疑問を口にしただけでして、トランプをする事は歓迎ですよ。運と知略、どちらも競える素晴らしい遊具ですからね」


 聖桜の生徒であれば中々真似できないであろう、鹿謳院氷美佳を遊びに誘うと言う高難易度なプレイすらも無自覚でやってのけるライオンハート橘は、こうしてまた一つ伝説を作って行く。


 学園で行わる統苑会の職務を中心とした会話とは違う、プライベートでの会話。


 鹿謳院と柳沢と橘の三人がトランプについて話しながらマイクロバスに搭乗すれば、そこには先に乗り込んでいた二人の人間がいるわけで。


「何をしている、さっさと座れ」


「座れ!」


「な、何をしているはこちらの台詞ですよ、副会長!」


「ん? なにがだ?」


 魔改造された事により、豪華な内装を施されたマイクロバスの中。


 その中へ足を踏み入れ、中を見た直後。


 鹿謳院は驚きのあまり珍しく語気を強めてしまう。


「何に驚いているのか知らんが好きな席に座っていいぞ、鹿謳院。俺が許す」


「許す!」


 それもそのはずで、マイクロバスの中に置かれたソファーの上には、まるでこの場所の主人であるかのように横向きに寝そべる近衛の姿があって、そんな近衛の頭の近くにちょこんと座った柳沢優月が、彼の言葉を真似て遊んでいたからだ。


「ちょ、ちょっと美月? 本当にあんな男が一緒でいいんですか?」


「え? ああ、でも副会長なんて普段から大体こんな感じじゃないですか? 好きにさせておけばいいんですって」


「それは……はい。確かに、それもそうですね。普段から下品でしたね」


「おい、聞こえているぞ」


「近衛先輩! トランプやりませんか!」


 三者三様、十人十色。


 辛うじて規律が保たれている気がしないでもない学園と違って、プライベートの集まり故に各々が好きな発言をして好きに行動をする。


 休日の一行は実にアバウトである。


「トランプか、良かろう。この人数であればポーカーが妥当か。ディーラーは俺が務めてやる、さっさと席につけ」


「何を勝手に決められているのですか」


「そうですよー。最初はババ抜きからですよねー、ミカちゃん!」


「あ、確かにそんな空気ありますよね。とりあえずババ抜きみたいな」


「誰がそんな事を決めた。トランプと言えばブラックジャックかポーカーしか有り得ん。ふむ、ブラックジャックも悪くはないか」


「ブラックジャックならユヅもわかるよ、コウちゃん!」


「と言う事だ、最初の競技は優月にもわかるブラックジャックに決まった。各々席につけ、橘はトランプを渡すがよい」


「なんで決定権がユヅと副会長にあるんですか。ミカちゃんも私もレンレンもババ抜きって言ってるのに、民意を無視は良くないと思いまーす」


「この俺とお前達三人の発言権が同等だとでも思ったか? 俺の決定が即ち民意だ」


「どんな暴君ですか」


「あ、でも僕はどっちでも大丈夫ですよ? ババ抜きもブラックジャックもどっちもわかりますし、優月ちゃんもそれが良いって言うならそっちでも」


「この場で我が意を汲みとれるのはお前しか居ないようだ、流石は橘だ」


「流石は橘だ。素晴らしい!」


「こらユヅ! 年上になんて口の聞き方をしてるの、ダメでしょ!」


「あ、いえいえ、僕は全然気にしないので」


「もう何でも宜しいので、早く車での移動を開始して貰いましょう。トランプで何をするかは皆様にお任せ致します」


 とても統苑会の面々が四人も居るとは思えない、纏まりのない空気。


 呆れた鹿謳院が溜息をついてそんな事を言えば、後は近衛が好き勝手に決定するだけ。


「さあ座れ。折角だから何かを賭けるのも良いと思うが、金以外となると何が適切か」


「賭けですかー。うーん、何か賭けるようなものありますっけ?」


「副会長も美月も、それは流石に問題行動ですよ」


「なんだ、鹿謳院。この俺に負けるのが怖いのか。まあよい。そう言う事なら今回は鹿謳院に免じて優しく相手をしてやろうではないか」


「……下手な煽り文句ですね、副会長。私が敗北を恐れて勝負を拒否しているとでも?」


 わちゃわちゃと会話をしながらも、ようやく全員がソファーに腰かけると、最後にゆっくりと腰を下ろした鹿謳院が近衛の安い挑発を鼻で笑う。


「ですが、ええ、構いませんよ。私は皆さまの身を案じて賭けを辞めましょうと申し出ただけですので。どうなっても良いと言うのであれば受けて立ちましょう」


「良い返事だ。気に食わん奴ではあるが、勝てぬと分かってこの俺に挑む貴様のその姿勢だけは評価に値する」


「統苑会の会長選挙で敗北した事をもうお忘れになったのですか? 相手になってさしあげます」


「ふん。橘、トランプをこちらに」


「あ、はい!」


 だが、受け流すかと思われたやっすい煽りに、鹿謳院は簡単に乗せられてしまった。


 どのような煽りや挑発を受けようとも、普段の鹿謳院は涼しい顔で受け流すのだが、それが近衛鋼鉄からの煽りの場合、普段は100%あるはずの煽り耐性が0%まで低下。


 挑発されれば最後、いとも容易く乗っかってしまう残念な性格をしている。


「(ここで格の違いを見せつけるのも良い戯れになりましょう。良い機会です。この男の鼻っ柱をへし折って差し上げましょう)」


 なんて事を考えている鹿謳院ではあるが、次の言葉を口にした瞬間に周囲から憐みの視線を向けられる事となった。


「──それで、ブラックジャックとはどのような遊びなのでしょうか? 漫画にそのような作品があったと記憶しておりますが、トランプの漫画だったのですね」


 僅かに首を傾げた鹿謳院の口から飛び出してきた言葉。


 それを聞いた面々は、何とも残念な気持ちになりながら彼女を見た。

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