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Level.036 盤面を破壊する最善手


 インストールとアカウント連携だけは出来たが、そこまで。


 アプリで何が出来るのかを調べはしたものの、それだけ。


 使い方がわからない鹿謳院はスマホ画面を凝視していた。


「(マンダリナがスマホ画面に表示されていますが、どうせならセレナを表示してはくれないでしょうか。学校に居てもスマホを開く事でセレナに会えるとなれば、私のQOLは爆上がり致しますでしょうに)」


 楽園の庭においても、覚束ない操作からゲーム内で挙動不審になっていたマンダリナを見て、セレナこと近衛が心配になって声を掛けた事で出会いを果たした二人。


 あの近衛鋼鉄が心配になって思わず声を掛けてしまう程に、ゲームがド下手くそな鹿謳院には、ゲームのお約束やアプリの類似性が全く理解出来ていない。


 大体のゲームの操作感が似通っているように。


 多くのアプリもまた似通ったユーザーインターフェースを採用する事で、初見の人間であっても直感で操作が出来るようになっている。


 だが、鹿謳院にはテレビゲームやアプリに関する経験が圧倒的に不足している。


 割とわかりやすい造りをしている方の“楽園の旅人”のユーザーインターフェースを見ても、全然ピンと来ていない様子。


 その結果、両手で持ったスマホの画面をただ見つめるだけの美しい少女が一人、背中に冷や汗を流していた。


「(変なボタンを押せば最後、取り返しのつかない事になる可能性も……。事は慎重に運ばなければなりませんね。……こ、これなんてどうでしょうか、メールの絵文字に似ておりますのでこちらはメールですよね。あ、合ってました。セーフです)」


 目をぐるぐると回しながら、少しずつアプリを操作する鹿謳院。


 セレナ:ダリちゃーん? おーい?


 そんな彼女がふと画面を見ると、ゲーム画面ではセレナのチャットがずらりと並んでおり、慌ててスマホから目を離してキーボードを叩く事に。


 マンダリナ:おっと、悪い悪い!

 セレナ:あ、いたいた。寝落ちとかしちゃったのかなって思ったw

 マンダリナ:ちょっとウォーカー見てたらそっち夢中になってたわ、ごめんごめん!

 セレナ:えー、私と一緒にいるのにアプリに夢中とかちょっと妬けちゃうんだけどw

 マンダリナ:いやいや、そんなんじゃなくてどんなアプリなのかなって思ってさ

 セレナ:うんうん、少し触ってみたけど便利そうだもんね! ただ、ゲームにログインしている間はインベントリの確認とか一部の機能は使えないみたいだから、その辺はログアウトしてから確認が必要だね!

 マンダリナ:だな!


 たった今アプリを導入したらしいセレナが、既に自分よりアプリに詳しそうな現実を目の当たりにした事で、鹿謳院は益々焦っていく。


「(要らぬボタンを押下した際にスマホが爆発する事を考え、実験用のスマホを用意する必要がありますね。遺憾ではありますが、今日の昼も近衛君に色々言われてしまいましたからね。現代に生きている以上、もう少しこの板きれについて造詣を深める必要がありそうです)」


 そんなに難しくもないアプリの操作に直面して、スマホの勉強を決意する鹿謳院。


「(このアプリを使いこなす事が出来れば現実世界でもセレナとのやり取りが可能になります。朝起きた時も、送迎の車の中でも、休み時間のふとした瞬間でも。このアプリさえあれば、私はいつでもどこでも美月と連絡を取り合う事が出来てしまう。……なるほどです。若者がSNSに傾倒する気持ちが少し理解出来た気がします)」


 仮にセレナが柳沢美月であれば、電話番号もメールアドレスも、リットリンクのIDも何もかもを知っているわけだが。


 それはそれとして、ようやく手に入れたセレナとの現実での繋がりに、頬を緩ませる鹿謳院がウキウキでチャットをする、一方その頃。


「これで王手──いいやチェックメイトだ、ダリちゃん」


 楽園の旅人アプリを起動してアプリ画面のフレンドリストを開いた近衛は、フレンドリストに登録されているマンダリナと言う名前を確認して静かに呟いた。


「(後は橘か柳沢のスマホを確認するだけで良い。柳沢のスマホを確認するのは多少骨が折れるとは言え、骨が折れるだけで不可能ではないはず。橘のスマホであれば適当な理由を付けて見せて貰えば終わりだ。シミュレートは完璧、勝利は確実、後はどちらがダリちゃんであるかを確認するだけの、ただの作業。特定ゲームはこれで終わりだ)」


 そんな事を考えながら、再びゲーム画面を見た近衛。


「長いようで短かったな」


「(橘と柳沢どちらがダリちゃんであったとしても、俺は自分の正体を明かすつもりはない。これからも騙し続ける事になるが……どうか、許して欲しい)」


 笑顔でチャットをするマンダリナこと鹿謳院氷美佳。


 少し寂しそうな顔でゲーム画面を見つめるセレナこと近衛鋼鉄。


 これで特定合戦も終わりだと考える近衛だが、物事がそう単純に運ばないのは世の常


 特定ゲームの終焉に向けた一手であると考える近衛だったのだが、実際には全くの逆。


 二人がゲームアプリ『楽園の旅人』をスマホに入れたこの瞬間から、お互いの中身を特定する夫婦特定ゲームは新たな局面に突入。


 スマホアプリを導入した事で一体どうなるのか。


 純粋に喜んでいる鹿謳院とチェックメイトと考える近衛だが、アプリを導入してしまった今この瞬間に盤面が更に複雑になってしまった事を、この時の二人はまだ知る由も無かった。

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