表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/80

Level.028 甘え上手な妻とスーパーダーリン


 帰宅早々『楽園の庭(エデンズガーデン)』にログインした二人は早速合流。


 そこでは、セレナが投げキスをするようにハートを飛ばすエモートを送り、マンダリナが片膝をついて腕を広げるエモートをしてそれを受け止めていた。


 特定のプレイヤー以外にしか見えない個別チャットで会話をしているとは言え、珍しく人の多い街中でイチャイチャするくらいには感情が抑えられなかったらしい。


 セレナ:超忙しかったよー

 マンダリナ:学校が忙しかった感じ? プライベート? 

 セレナ:内緒ー! 学校の用事で忙しかったかもーw でも詳しくは内緒!

 マンダリナ:学校の用事かー。おつかれおつかれーって事で、どうする? 今日は久々だけどデイリー消化する? ちょっと他の事する?

 セレナ:うーーーーん、デイリーしたいけど戦闘久々だからミスったらごめんねw

 マンダリナ:大丈夫大丈夫、さらっと流して行こw


 合流したら後はいつもの流れ。


 楽園の庭にログインする事で毎日発生する、デイリーミッションと呼ばれる経験値やお金が沢山貰えるクエストを消化しながら、仲良くゲーム攻略をしていく。


「(学校の用事とは上手い表現です。部活動とも勉強とも受け手次第で如何様にも想像が出来ますからね。もう少し詳しく聞いても良かったのですが、露骨な詮索は心象を悪くするだけ。もちろん、わかっておりますよ。副会長に連れまわされて疲れている美月が今求めているのは、夫であるマンダリナの包容力)」


「任せなさい、セレナ」


 ゲーム画面にはいつもより少しだけテンションが高く見えるセレナがピョンピョンと飛び跳ねており、鹿謳院はそれを見ながら口元を柔らかく緩める。


「(少々テンションを上げ過ぎたか? だがしかし、一週間も最愛の妻に会えなければ世の夫は寂しくて泣いてしまうはずだ。多少オーバーなくらいに親愛表現をしておいた方が安心するだろう。ダリちゃんは今、妻たるこの俺の愛に飢えているはずだ)」


「全てこの俺に任せろ」


 マンダリナの映るゲーム画面を見た近衛は、軽く息を吐きだすように微笑み、思考を展開する。


「(とは言え、いい加減にダリちゃんと橘が同一人物であると言う確定情報を入手したい所だ。あやつしか適合する者が居ないから消去法で断定したが、確たる証拠は欲しい。ゲームで罠を張り現実で刈り取るか、現実で罠を張りゲームで刈り取るか。さて、どうしたものか)」


 何処かにあるはずの突破口を探し求める近衛。


「(尤も、近衛家にて俺に与えられた権限は少ない。出来る事は限られている。まあ、一条を使えばどうにか出来ん事もないだろうが、何と説明する。橘宅に潜入しパソコンへアクセス、楽園の庭で使用しているキャラクター名を調べろと? 命じれば即日遂行するとは思うが……。何だ、その指示は、不審が過ぎる。少なくともこの俺が下すべき命令ではない)」


「仕方あるまい」


 どうすれば、セレナがダリちゃんのリアルを探っているとバレる事なく中の人の特定に至れるか。


 聞いたら教えてくれるとは思うものの、そうなるとこちらの情報も話す必要が出て来る。


 そして互いの素性が割れたら最後、セレナとマンダリナの関係が今の状態に戻る事は二度と無い。


 マンダリナにだけ素性を聞いて自分だけ話さないと言う選択肢もあるにはあるが、それは信頼関係の崩壊を意味する。


 一週間ぶりにマンダリナと遊んだ事で、これまで放置してきた中の人物の特定について考えを巡らせることしばらく。


 複数の物事を同時進行で考えられる、ハイパーマルチタスクな近衛の脳が導き出した結論は。


「(今は難しい事を考えるのは辞めて、ダリちゃんとの時間を楽しむか)」


 近衛鋼鉄らしくもない問題の先送りだった。


 セレナ:え、これくれるんですか?

 マンダリナ:どうぞどうぞ、セレナが居ない間にイベント進めてたらいくつか貰えたから

 セレナ:ありがとう! 大事にするね!

 マンダリナ:まあセレナもイベント進めれば貰えると思うけどな

 セレナ:でもダリちゃんに貰ったのを大事にするよー! 銀行にあずけとこっかなw

 マンダリナ:いやいや、装備しろってw


 マンダリナがセレナにプレゼントしたのは服の上に装備可能なファッションアイテムの一つで、尻尾でハートの形を作っている猫のチャーム。


 今現在、楽園の庭で開催されているイベントを進める事で入手可能な誰でも貰えるアイテムではあるのだが、もちろん、出来る夫マンダリナはただそのアイテムをプレゼントしたわけではない。


 セレナ:うーん、そうしよっかな? この色可愛いし、つけちゃおっかな?

 マンダリナ:そりゃ良かった。気に入ったなら装備したらいい

 セレナ:運営もお洒落な色のチャーム配るようになったよねー!

 マンダリナ:だな


 マンダリナが何でもない風に渡したプレゼント。


 しかし、実際にはオシャレが大好きなセレナが気にいってくれるようにと、一週間かけて彼女の大好きな猫のチャームを何十個とかき集め、更にはそれぞれ違う色に染色を施して、その中の一つから今日のセレナの衣装に合う物だけをプレゼントしていた。


 スーパーダーリンであるダリちゃんは、この程度の事であれば妻に悟られる事なく難なくやってのけるのである。


 セレナ:装備しちゃったー、どう?

 マンダリナ:うん、ピッタリだな。良く似合ってるよ


 ニコリと笑うセレナと、同じように笑い返すマンダリナ。


 久し振りとなる楽しい時間は、緩やかに穏やかに過ぎて行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ