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Level.019 駆け引きは慎重に


 帰宅すると同時にPCを立ち上げて、いそいそと『楽園の庭(エデンズガーデン)』にログインするセレナとマンダリナ。


 学校生活の殆どを統苑会の執務室で過ごす二人は、日々ストレスと戦っている。


「俺の読書を邪魔するとは、あの女にも困ったものだ」


 最近何かと読書の邪魔をしてくる鹿謳院氷美佳。


「美月との会話の邪魔ばかりして、あの男にも困ったものです」


 柳沢美月との会話を邪魔してくる近衛鋼鉄。


 PCデスクに向かう二人は、椅子に腰かけながら深いため息を吐いていた。


 だけど、大丈夫。


「(ダリちゃんが居なければ、俺の寿命がストレスでマッハとなり世界が悲しむ所であったな)」


「(まあよいでしょう。学校では難しくとも楽園の庭(こちらのせかい)では存分に話せますものね)」


 だって、二人には大変仲の良いゲーム内の妻(夫)がいるのだから。


 セレナ:ダリちゃんこんばんはー!

 マンダリナ:こんばんは、っと。悪いな、今日ちょっとログイン遅くなったわ

 セレナ:ううん、私も今日は今インした所だよー!

 マンダリナ:おけおけ、そんじゃいつも通りデイリー消化からしていくとすっかー

 セレナ:はーい!


 挨拶もそこそこに、二人仲良く冒険に旅立つセレナとマンダリナ。


 いつも通りクイックパーティーを組んでダンジョンに潜り、ばったばったと敵を薙ぎ払えば一休み。


 セレナ:あ、聞いてよダリちゃんー

 マンダリナ:どうした?

 セレナ:リアルの話だからあんまり内緒なんなんだけどね

 マンダリナ:うん? 何かあった感じ?

 セレナ:うんー


 いつも通り適当にチャットをしていた所、久しぶりにセレナの口からリアルの情報を聞き出す機会が訪れた事で、冷静を装いつつも鹿謳院は内心でガッツポーズをした。


 この世界ではお互いにリアルの事をあまり気にせずに、楽しく遊べる関係でいたいですよね!


 以前そんな事を言っていたセレナに対して、その時はその発言に全面的に同意したマンダリナこと鹿謳院氷美佳であったが、事情が変わった現在ではとにかく中身の情報が知りたくて堪らない。


 しかし、ネットゲームにおいて男が女のリアル情報を必要以上に聞き出そうとする行為は単純に気持ち悪がられる傾向にある、と言う事を鹿謳院は知っている。


 確かに、仲の良い間柄であればリアルの連絡先を交換して、ボイスチャットをするような事も特別に珍しくは無い昨今。


 セレナとマンダリナの関係値は、当の昔にラブラブカップルを超えた熟年夫婦の域に達していて、ソウルメイトとして魂の融合を果たしている。


 そんな訳で、本来であればいつオフ会をしても全くおかしくはないのだが、そうもいかない事情がある。


 両者共にリアルの性別を偽って始めてしまったが故に、セレナとマンダリナは互いに性別を隠したまま付き合わざるを得なくなってしまったのだ。


 そして何より、相手のリアル情報を詮索すると言う事は自分のリアル情報を話すと言う事でもある為、それがより一層にお互いの中身探しを困難にしていた。


「(夫たるこの私からあれやこれやと詮索するのは気が引けますからね、我慢強く待って良かったです)」


 口元に手を当てながらそんな事を考えるのは、バリバリの御令嬢。


「(ブラフを挿みつつ情報を小出しに。相手の出方を窺う。ダリちゃんに嘘を吐くのは少々心苦しいが、妻たるこの俺の嘘だ。一つ二つは許せ)」


 こめかみに指をあてながらそんな事を考えるのは、バリバリの御令息。


 セレナ:こないだね、昼休みに図書室で本を借りに行ったんだけどね?

 マンダリナ:うん

 セレナ:そしたら、統苑会の副会長さんと柳沢さんが来ててね

 マンダリナ:へー? 

 セレナ:二人してすっごい沢山の本持ってて、凄かったんだよー

 マンダリナ:ああー、なんか知ってるかも? 図書室に献本したんだっけ? 誰に聞いたんだっけな

 セレナ:うんうん、そうみたい!


「(昼休みに副会長が図書館に……先週の話ですね。この間と言う言葉で日付を誤魔化そうとするなんて可愛いですが、残念ながら副会長の話であれば私に筒抜けです。さて、貴女を確定させる情報を見つけましょうか、セレナ)」


 セレナが溢した記憶に新しい情報。


 いつの出来事であるか、日付をぼかそうとするセレナの話法を拙くも可愛く感じていた鹿謳院は、どのようにしてセレナと美月を確定させる情報を聞き出そうかと、ゲーム画面を見ながら微笑む。


 常人の思考速度を遥かに超越した、高速思考を可能とする鹿謳院氷美佳。


 その天才的な頭脳が、今まさに勝利の方程式を構築し始めたその頃。


 もう一人の天才が、マンダリナの発言に僅かな綻びを見出していた。


「(献本か。……ふむ、なるほど。確かに先日俺は図書室へ向かったが、到着直後に全て柳沢に丸投げして新書を読み始めた。果たして、あの時の俺を見て献本をしに来たと考える者が存在するだろうか? そもそも、俺が図書室に献本してる事を知っている人間は少ないはずだ。なんせいつも橘にやらせているからな)」


 マンダリナのリアルを特定する為の罠のチャット。


 返答次第で展開を変えていく予定だったチャットはしかし、張り巡らせた罠に誘導する前振りの段階でマンダリナが躓いた事で、近衛は慌てて思考を修正する。

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