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Level.114 緊張する理由が何処にあるのか


 先輩である越智について歩く一年生男子二人は所在なさげだが、そんな後輩の不安を和らげるように越智が優しく話しかけているうちに、女子も登場。


「乾愛理! 入りまーす!」


「失礼しまーす」


「何ですか。入る時に挨拶をする決まりでもあるんですか」


「特にありませんわよ」


 続いてスタジオに現れたのは、男子の燕尾服と同じく紺色のイブニングドレスをその身に纏った統苑会の女子グループ。


 乾が元気よく登場すると、その後に柳沢や一条、白川と続き、男子も女子もそれぞれが同じデザイン同じ色の服で合わせる事で統一感を演出しているわけだが──。


「お待たせいたしました。ドレスの着付けは使用人も慣れていないものでして」


 続いて現れた鹿謳院がその身に纏うのは、他の女子と同じデザインではあるが、燃え盛る炎のような真っ赤な色のイブニングドレス。


「ふむ。全員揃ったようだな」


 そして、最後に現れた近衛もまた、他の男子と同じデザインでありながらも、その色は紺ではなく夜闇のような艶やかな黒の燕尾服。


「さあ! 全員揃いましたわね。この私が美しく収めて差し上げますわ!」


「それはいいんですけど、白川先輩だけ映れなくないですか?」


「わたくしは後で合成しますので構いませんわ。皆様の写真に美しいわたくしを飾る事で、写真の美しさを底上げして差し上げますわ!」


「そう言う事でしたら! 私が白川先輩を美しく撮ります! 写真! 下手くそですけど! ……それでもっ!」


「自分で下手と言っておきながら、どうしてそんなに堂々としておられるのですか。会計はこちらに来なさい。その辺の機材に触れて壊すような事はしないように」


「はい! 議長!」


「何でもいい、さっさと済ませるぞ」


「もお~、鋼鉄ちゃんったらせっかちさんなんだから~」


「とは言え、リョウちゃんとてこの手の撮影は手早く済ませた方が良いと考えているのだろう?」


「それもそうね~。こんな男の子みたいなお洋服着させられても困っちゃうものねぇ」


「まあそう言うな。その服もとても似合っているぞ。無論、俺の次にな」


「や~ん!」


「橘も良く似合っているではないか」


「あ、ありがとうございます! あ、でも、鈴木君の方がその」


「あいつはこういう時でもない限り正装をせんからな。見慣れないだろうが、直に慣れるだろうよ」


 張りぼてとは言え本場さながらのカジノセットが用意されたスタジオには、八人の美男美女とプラス橘が揃い、まずは緊張を解すように会話を重ねる。


 白川はレンズ越しに見える過度な緊張や不安が嫌いなので、自然体とまでは言わなくとも全体的にリラックスした雰囲気が出来るまではカメラを構えようともしない。


「鹿謳院会長、綺麗です! きっとこの世界に一人お姫様が居るとしたら! それは会長の事です!」


「そ、そう? ありがとう、愛理。でも、愛理もとてもよくお似合いですよ」


「知っています!」


「そこ強く言う所じゃないからねー、アイちゃん」


「会計は謙遜の美徳を覚えた方がいいんじゃないですか」


「一条議長もとても綺麗です! もし私が男の子なら! きっともうメロメロになっていました!」


「でしょうね」


「いや、雫の謙遜も何処行ったって話だからね?」


「柳沢先輩もとても綺麗で──」


 そして、白川が今現在様子を窺っているのは鹿謳院。


 ちょっと元気な乾を中心に展開されるハイテンションな会話を続ける女子グループの中でも、彼女だけが明らかに緊張した面持ちなので、もう少し場に慣れて貰いたいと考えている所。


「(鹿謳院家の方はこの手のドレスを着られる機会が殆ど無いと聞きますからね。場に慣れていないと言いますよりも、服に慣れておられない御様子。バニースーツの時も冗談で話していましたのに、初めは採用されて驚いてしまいましたけども、やはりこちらにして正解でしたわね)」


 そんな白川が考えている通り、鹿謳院は慣れないドレスを着てガチガチに緊張していると言うか、正確には本日撮る写真について緊張している様子。


 白川が本日撮りたい写真は最低でも三枚。


 パンフレットの表紙を飾る統苑会全体での写真が一枚。


 聖桜祭のイメージ写真として、統苑会のメンバーがカジノのスタジオで遊んでいる様子を一枚。


 最後に、黒と赤。トランプのスペードとハートをイメージした鹿謳院と近衛のツーショットが一枚。


「(もちろん、わたくしは美しいです。統苑会には美しい方も多くおられますが、それでも鹿謳院様と近衛君こそが最も美しいですわ。被る事など無いと考えておりましたテーマ発表の投票では、前代未聞の同数決着。聖桜の皆様が求められているのは、やはりこのお二人。宣伝用のポスターとして是非とも撮影いたしませんと)」


 と言う事で、鹿謳院が緊張しているのはそれが原因らしい。


「(副会長と私のツーショットが衆目に晒されるだなんて、それも、う、腕を組んで撮影するだなんて、そんな事があって良いはずがありません。……ありませんが、恐らくこう言う事を否定する所がセレナに怖がられてしまうのでしょう。学園の為にも、セレナの為にも、逃げるわけには参りません)」


 白川が撮りたいのは会長と副会長、氷鉄の統苑会が力を合わせて生徒を迎え撃つイメージポスター。


 美しく優雅な鹿謳院と近衛が腕を組んで余裕の笑みを浮かべる、そんな画が撮りたいようなのだが、残念な事に鹿謳院の緊張が解れない。


 それでも写真は撮らないといけないし、撮影に使える時間も限られている。


 スタジオ自体は白川のモノなのでいくらでも使えるのだが、聖桜祭の準備で忙しいこの時期にただ写真を撮る為だけに何時間も費やしている暇はない。


「では! 私達は一足先に学園に帰還します! 鹿謳院会長、近衛会長、またいつかお会いしましょう!」


「ええ」


 そうこうしている内に、ツーショット以外の写真は撮り終えてしまって、スタジオには鹿謳院と近衛と白川だけが残されてしまう事になってしまった。

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