Level.113 逃げ切り衣装撮影
しばらくの間、のらりくらりと続いた会話に変化が訪れたのは一瞬。
「ディーラーも悪くないとは思いますが、統苑会は今回プレイヤーとして生徒連合に立ち向かうのですよね」
「ええ、そうですわ。──ああ、でしたらディーラーと言う立ち位置は不自然かもしれませんわね」
「なるほど! 今回は統苑会と生徒連合との熱い戦いですもんね!」
「あら~、そうなると、あたしたちはお客様として着飾った方が良いのかしら~?」
「さあ? 皆さんやたらとディーラーに拘っておられましたので、ここは私も一石暴投しようかと思っただけですので」
「普通に投げて下さって構いませんのよ」
あれよあれよと、衣装案の方向が転換。
「でも、いいんじゃないですか? そっちの方が私も衣装選び楽しいですしー、アレですよね? カジノのドレスコードに合わせた衣装にしよーって事ですよね?」
「わたくしもその方が好ましいですわ。バニースーツが禁止されたのでしたら、いっそのことプレイヤー側として構図を練り直した方が面白い画が撮れそうですわ」
「ですよねー。ミカちゃんと副会長はどうですかー? あ、レンレンもタケルンもちゃんと聞いてる?」
「うむ。悪くないのではないか」
「ええ。宜しいのではないでしょうか」
「聞いてます聞いてます」
「あ、え? 一応聞いてました、はい」
「はーい。それじゃあ──」
ディーラーからプレイヤーへ。一瞬にして方向性が変わると、衣装選びのプロフェッショナルである柳沢を中心にしてどんどん話が進んで行く、そんな中。
「(やはり、雫なのですか……セレナ?)」
「(やはり一条、貴様がダリちゃんなのか?)」
弁当を食べ終わってお茶を飲んでいる鹿謳院と、左手に持った本を読み進める近衛は、会話に参加しながらも頭の中では完全に別の事を考えていた。
「(いいや、今ので一条と決めつけるのは早計か──)」
「(確かに、話の起点を作られたのは雫ですが──)」
そこで思考を区切った二人が視線を向けたのは、一条ともう一人。
「(話を広げたのは白川だ)」
「(雫の話を拾い上げたのは桜花です)」
「(一条が話し始めた直後。会話の意図が不明瞭な状態でいち早く受け止め、乾とリョウちゃんに話を渡した)」
「(雫が起点となり、桜花が拾い上げ、愛理と書記がそれを即座に理解された。話しの起点は間違いなく雫ですが、判断が難しい所です)」
「(無論、たったこれだけの会話でダリちゃんを特定する事は出来ない)」
「(そもそも、今日この場でその提案をされると言うリスクをセレナが理解していないとは考えられません)」
「(一条がダリちゃんであるとすればあまりにも迂闊に過ぎるが、そう思わせる事でミスリードを誘っているとも考えられる。つまり──)」
「(最も疑わしきは起点となった雫ですが、彼女の意見を一瞬で理解して受け止められた他の方々も、機を窺っていたと考えれば辻褄は合います。つまり──)」
今回はこれ以上の追跡は不可能。マンダリナ(セレナ)に上手く逃げ切られてしまった。
二人同時にその結論に達した所で、鹿謳院と近衛は軽く息を吐き出した。
「(まあよい。ダリちゃんが鹿謳院に意見出来るだけの強い関係を築いた誰かである事は間違いない。鹿謳院を見張っていれば遠からず尻尾が掴めよう。焦る必要はない)」
「(致し方ありません。ですが、セレナが統苑会のどなたかに擬態されている事は掴んだのです。後は貴女の尻尾を見つけて愛でるだけ。何も焦る必要はありませんね)」
そんな事を考える二人は軽く口角を上げると、特定の為に費やしていた思考を一度打ち切る事に。
その後、柳沢と白川の二人が中心となってパンフレットの衣装決めの話し合いが行われ、無事に決定した。
と言う事で、昼食が終われば各々が聖桜祭に向けての仕事を再開する。
まだ高校課程が修了していない橘は授業を受けざるを得ないのだが、その他の統苑会メンバーはそれぞれの仕事に邁進。
統苑会以外の生徒達も学校の聖桜祭に向けて精力的に動いており、学園の敷地内には夥しい数の工事業者が足を踏み入れて、学園の至る所を本場のカジノさながらに魔改造している。
そうは言っても、聖桜祭でよく使われる場所と言えば講堂である。
そんな巨大な講堂は大きな催しにピッタリなので、今回も中等部と高等部の生徒がカジノの会場に選んだのはこの講堂。
約三千あった席は聖桜祭のテーマ発表が終わった翌日には全て撤去され、広々とした講堂を全部使って一つの大きなカジノを作ると言うのが、今回の生徒側の一つ目の要望。
中等部と高等部の有力生徒が手と手を取り合う事で発生する莫大な予算を使い、信じられない程の人員を動員しての大規模短期工事。
講堂を大カジノホールとして展開して、校舎の方には小カジノや賭場を開帳。学園全体を巨大なカジノに作り替えている真最中であるように、一般的な高校の文化祭と聖桜祭はほんの少し違う。
統苑会や生徒会の仕事は、そんな生徒達の動きや業者の動きを全て把握して調整、聖桜祭が開催されるまでの間に全生徒の希望を完全再現する事にあるので、ちょっと忙しい。
そんなちょっと忙しいこの日は、白川桜花の持つスタジオで聖桜祭の為の宣材写真を沢山取る日。
白川が用意したカジノセットのスタジオには、メイクを終えた統苑会のメンバーが次々と足を踏み入れる。
イメージは昼ではなく夜の為、男子生徒は燕尾服を着用し、女子生徒は地面すれすれまで伸びたロング丈のイブニングドレスを着用。
「あたしもドレスが良かったわ~ん」
「し、しし、失礼します!」
「な、なんだか、窮屈な服ですね。ははは……」
まずは紺色の燕尾服を纏った越智や橘、鈴木が姿を現す。
普段から美しい越智は完璧にメイクアップされた事で益々輝き、いつもは覇気のない橘も馬子にも衣裳と言った感じで、鈴木に至っては眼鏡を取ってヘアスタイルを整えたせいで誰かわからない謎のイケメンになってしまった。




