Level.109 どちらでも可
マンダリナの中の人物に関する情報を一度全てリセットして思考を立て直す事にした近衛だったが、そんな彼は一つ大きな釣り餌を確保する事に成功。
セレナ:久しぶりー! ダリちゃん!
マンダリナ:いやー、一週間ぶりくらいか。やっぱこの時期の聖桜は忙しくてあんまり遊べないなー
セレナ:ねー、寂しいー
マンダリナ:まあクラス毎にやる事は違うだろうけど、あんまり無理しないようにな
セレナ:ダリちゃんも体調崩さないようにね
楽園の旅人アプリで今日はログイン出来そうだとセレナが告げれば、マンダリナがどうにか時間を作って会いに来る。
忙しい合間を縫って逢瀬を重ねる二人だが、その心境は複雑。
「さて……」
ポツリと声を漏らした近衛はマンダリナとチャットを続けながらも、頭の中を整理していく。
久しぶりに会ったマンダリナのいつも通りの様子に安堵する近衛だが、今日は楽しく遊ぶ為にログインしたわけではないので、表情は真剣そのもの。
「(今回やるべき事は簡単だ。ダリちゃんを通じて鹿謳院の意志が操作できるかどうかの確認。やたらとバニースーツに拘っているあの女が、パンフレットの衣装変更をするかどうかを検証する)」
昨日決まったばかりの、聖桜祭パンフレットにて統苑会メンバーが着用する衣装。
バニースーツに決まってしまった衣装を、マンダリナを揺さぶる事で変更できるかどうか。
「(今更俺が何を言っても、鹿謳院に衣装変更をする気が無い事は確認済みだ。しかし、もしダリちゃんが鹿謳院に意見できる程の立場の人間であれば、セレナが嫌がる衣装を回避しようとアクションを起こす可能性はある。無論、何の意味も無い可能性もある。いいや、高い確率で何も起きないだろう)」
やけに意固地になっている鹿謳院の状況を、もしかすると先日マンダリナとしたチャットで揺さ振りを掛けた結果なのかもしれないと考える近衛だが、仮説はあくまでも仮説。
「(会長の事を面倒見が良いと評する誰かと言う線から、かつてダリちゃんの中身を鹿謳院の近く居る誰かであると推測したが、確たる証拠など何もない妄想に過ぎん。先日のチャット内容……二年連続で和服は有り得ないと言う話や、テーマ重視の衣装が望ましいと言う話が、ダリちゃんを通じて鹿謳院に伝わっていると考える事もただの妄想に過ぎない)」
それでも可能性はゼロではない。
何の手掛かりが無い状態なのだから、たとえ限りなくゼロに近い可能性であっても検証可能な仮説は調べる価値がある。
「(衣装変更が無ければそれはそれで良い、それが当然だ。その場合、俺は今まで通り一つずつ特定の為のピースを集めて行くだけだ。……だが、もし万が一にもあれだけ意固地になっている鹿謳院がバニースーツから衣装を変更するような事があれば、ダリちゃんの中の者を大幅に絞る事が出来る)」
つまり、この検証はやり得なのである。
「──よし」
仕掛けるか、と心の中で呟いた近衛はチャットを打ち込んでいく。
セレナ:うんうん、そうかも?
マンダリナ:だよな?
セレナ:でも、そう言う事なら今年は学園全体がカジノになるの楽しみだよねw
マンダリナ:だなー。楽しみだけど大変そうでもあるw
セレナ:確かにw
久しぶりに会えた事でのらりくらりと続いているチャットは楽しそうで、事実として近衛も楽しんでいるのだが、それでもやるべき事はやらなければならない。
セレナ:あ、カジノと言えばさ
マンダリナ:うん
セレナ:今年のテーマも決まったから、もう統苑会の人達の衣装も決まってるのかな?
マンダリナ:どうだろ、決まってそうではあるな
セレナ:ねー。カジノだから安直にバニーガールのお洋服とかしそうだよねw って、統苑会の人達はそんな服着ないかー、着たらヤだよねw
マンダリナ:んーw どうだろうな?w
近衛が意気揚々とぶち込んだチャットに、マンダリナは平然と返事。
とは言え、チャットだけでは中の者の思考を完全に読み取る事は不可能なので、しばらく会話を通じてバニースーツだけは絶対に嫌だと言う強い意志表示をする事に。
マンダリナが統苑会に全くの無関係な者であっても、統苑会や鹿謳院の関係者であっても中々に返答に困る話題だが、それでも近衛は統苑会のメンバーがバニースーツを着る事を断固拒否する考えをセレナを通じて展開。
「(俺とて本音を言えばバニーガールを見たい。そも、バニースーツが嫌いな地球人男性など存在するはずが無いからな。だがしかし、この検証をしないわけにはいかない。検証の結果、鹿謳院の意志が変わりバニーガールが見れなくなったとしても、俺はダリちゃんに繋がる情報が手に入る。検証の結果、鹿謳院の意志が変わる事がなければそのままバニーガールが見られる。どちらに転んでも俺に不利益は無い)」
統苑会の人達がバニーガールの姿になるなんて嫌だよねー。
と言う話を展開する近衛が見つめるゲーム画面の向こう側。
「な、なるほど」
近衛と同じチャット画面を見つめるマンダリナの中の人間が、背中に冷や汗を流しながら呟いていた。
「(セレナはバニースーツ否定派だったのですね。安心致しました、私と同じです。けれど、このタイミングで堂々とバニースーツの話題を出して来られた所を見ますに、相当な怒りが感じられますね。ど、どなたも否定されなかったので、良かれと思って合わせたのですが……)」
こんなはずではなかったのに、また自分はセレナに嫌われてしまう行動をとってしまったのかもしれない。どうして自分はこうも上手くいかないのだろう。
そう考えた鹿謳院は、キリキリと胸が締め付けられるような想いに襲われ、軽く目を伏せた。




