Level.106 最高の再考
「でも、会長も近衛先輩もギャンブル弱くないですか?」
「……」
「……」
そして、良い感じに睨み合っていた二人の心に、橘の何気ない言葉がグサリと突き刺さると、鹿謳院と近衛の視線が自然と橘蓮に向かう。
「え! 鹿謳院会長と近衛副会長! ギャンブル! 弱いんですかッ!」
「弱くは、ありませんよ。本気を出せばどうと言う事はありません」
「勝負は時の運とも言うからな。だが、俺は勝つべき時には必ず勝つ男だ」
「私は! ジャンケンくらしかわからないですけど! たぶん、強いはずです! たぶん!」
「毎度思いますが、会計のその自信は何処から湧いてくるのですか。まあ、恐らく私が一番強いですけどね。昔からよくポーカーフェイスだと言われるくらいですので」
「(それは一条先輩の愛想が無いだけなんじゃないですか)」
「それは私の愛想が無いだけではないかとでも考えているような顔をしていますね、庶務橘。私を前にいい度胸です」
「ちょっ、心読むのやめてくれませんか?!」
「一条先輩はお愛想の塊ですよ!」
「お愛想ですと微妙に意味が違う気もしますけどね」
橘と一条と乾がワイワイ話している様子を横目に見る二人。
ギャンブル弱い発言を受けた二人のうち、本当にダメージを受けているのは一人だけ。
「(確かに。ご指摘の通り、夏期休暇中に行われた学友との賭場では思うような戦績を残せませんでした。ですが、あれらはただの遊びです。私の無意識が勝利を欲していなかったに違いありません。それに、優月ちゃんに勝って欲しいと言う願いは叶いましたので、実質私の勝利と言っても過言ではありません)」
もちろん過言である。
「(あれから二度と敗北をしまいと研究に研究も重ねました。これから聖桜祭が始まるまでの間は使用人を相手に勝負勘も養うと致しましょう。そうですよ。私の運がこの男に負けるはずがありません)」
しかし、鹿謳院も近衛の煽りさえ完全に無視する事が出来れば、それなりに強い可能性もあるので、本当の実力は未知数。
そして、近衛もまたダメージこそ受けてはいないが、自身の運に自惚れるような人間ではないので、気を引き締めていた。
「(夏期休暇中は誰もカウンティングすらしていないお遊びだったが、聖桜祭ではそうはいかんだろう。既にプロのディーラーを十数人雇う事も決まっているからな。ルーレットはもちろん、スロットマシンまで用意するクラスが現れたから、チップの稼ぎ方も千差万別だ。……油断は出来んが、時間は十分にある。この俺の勝負に運は介在しない。必勝の策を組み上げようではないか)」
昼食を取りながら聖桜祭に向けての話をする時間は緩やかに過ぎて行き、そんなこんなで、昼休みが終われば再び各自の作業に邁進。
統苑会は橘以外の全員が、とっくの昔に高等部課程修了試験を通過しているので、授業中もそれぞれに動いている。
だが、テーマが決まったと言う事は、早急に決めなければならない事が一つあるのを忘れてはいけない。
放課後の統苑会執務室には、鹿謳院と近衛、柳沢と白川の四人が、いつぞやの話し合いで先送りにした問題を解決する為に集合。
「──何? 女子は和服、男子が洋服で決まりでは無かったのか?」
「あの時は希望を口にしただけであって、決定した記憶はありませんよ。桜花が申し上げた通り、テーマが決まってから衣装を選び直しても良いと言う所で話が落ち着いたはずです」
「そうですわね。一先ず折衷案を採用したと言うだけで、決定まではしておりませんでしたわ」
「私はどれでもいいんですけどー、どっちにしてもパンフレットの衣装決めは早めに終わらせてしまいたいですねー。早め早めに仕事は済ませておきたいですから!」
「ふむ。言われてみればそうだったかもしれん。確かに、決定したわけではなかったか」
と言う事で、先日先送りにした聖桜祭パンフレットに掲載する、統苑会メンバーの衣装についての話を再開していた。
「(二年連続の和服は回避致しましたよ、セレナ。これで私に対する評価は持ち直す事でしょう。後は彼女が希望される衣装さえわかれば良かったのですが……。あの時はまだテーマ発表前。テーマに沿った衣装が一番である、としか仰っていなかったのですよね)」
「(テーマに合わせた衣装選択も出来るとは。和服ゴリ押し女かと思っていたが、意外にも協調性があるのだな。とは言え、聖桜際ではカジノだけではなく“手本引き”や“丁半博打”、“花札”や“盤双六”を催す賭場も開帳される。極道の女をイメージした和服も選択肢としては有りだ)」
鹿謳院も近衛も本当は何でも良かったのだが、数日前に楽園の庭でした会話のせいで、鹿謳院の中では今年のパンフレットで和服を着る選択肢だけは消滅していた。
セレナファーストな思考をしている鹿謳院にとって、未だ中身の判然としない彼女の好感度を下げる真似は御法度なのである。
その甲斐あってか、多少はセレナの中の人からの評価が上がったような、上がってないようなと言ったところ。
「テーマは遊戯、運否。裏テーマにギャンブル。これを踏まえた上で今年度のパンフレットの表紙を飾る統苑会の衣装を決めましょうか」
「はーい」
「ですわね」
お洋服選びはとても楽しい。
特に普段着る事のない衣装の場合は選んでいる最中は勿論のこと、初めて袖を通した衣装を纏う自分を見るだけで、心身共にテンションがあがるものである。
執務机からテーブルに移動した鹿謳院と、柳沢と白川の三人が楽しそうに話し始めた様子を見て、自分の出る幕が無いと判断した近衛はパソコンに視線を移した。




