Level.105 味方と書いてライバルと読む
聖桜祭のテーマが決まった事で学園全体が慌ただしく動いているが、お昼ご飯を食べたり休憩する時間くらいは普通にある。
「──ふむ。勇者か」
「えっと、はい。統苑会に挑んで来ると言うは、どう言う感じなのかなって思いまして」
「言葉通りの意味でしかないが、心配する事は無い。俺が率いる統苑会に敗北の文字はない」
「率いているのは私です。お間違えなきよう」
「などと言っているが、次の聖桜祭が終わる頃にはどちらが真の王であるか、民は気付く事になるだろう」
「裸の王様ほど見ていて面白い生物はいませんからね」
「なんだ、鹿謳院。男の裸体が好きだったのか、いい趣味をしているな。この俺の玉体であれば見せてやっても構わんぞ」
「……セクハラで訴えても良いのですよ」
「それは普通に止めろ」
いつもはテーブルでお弁当を食べる鹿謳院もこの時期だけは執務机で食べるようで、いつも通り近衛と言い合いをしているお昼休みの統苑会執務室。
「今のは近衛先輩が悪い、ですよね?」
「そうかもしれません! 鋭いですね! 橘君!」
「あ、えっと、はい」
「私から見ればどっちもどっちですかね」
裸がどうのと言い争いをしている鹿謳院と近衛とは別に、橘、乾、一条の三人がテーブルで昼食を取っていた。
「それはそうと、勇者の話であれば以前したはずですよ。低品質な頭部パーツですね、庶務橘」
「……悪口のバリエーション豊富ですよね、一条先輩って」
「私を持ち上げた所で何も出ませんよ。悪口以外には……ですけどね?」
「流石は一条先輩です! 尊敬します!」
「(え、尊敬する要素何処かにありました?)」
とも言えず、ドヤ顔をしている一条の隣で瞳を輝かせている乾をチラリと見た橘は、黙って焼きそばパンを頬張る。
「まあ良いでしょう。本来の勇者の意味は勇ましき者、勇敢なる者を指す言葉ですが、聖桜学園における勇者の意味と言えば唯一つ──」
「統苑会を倒す者! ですよね!」
「……その通りです。声が大きすぎて鼓膜が痺れる事以外はとても良い子ですよ、会計乾」
「ありがとうございます!」
褒められた事で満面の笑みを浮かべる乾と、そんな彼女を一条が真顔で見つめること数秒。乾には皮肉がまるで通じないと理解した一条は、何事もなく会話を継続させる。
「聖桜学園において統苑会は絶対です。所属する九名は誰もが皆、何かしらの力を保有している事は言うまでもなく。九名が力を合わせる事で、中等部と高等部を合わせた千人強の全ての生徒を捻じ伏せる事が出来る存在でなければなりません」
いえ、普通に無理ですけど?
なんて事を言えば引っぱたかれるかもしれないので、口が裂けても言わない橘。
「聖桜祭は発表されたテーマに沿って学園全体を飾る行事であると同時に、全校生徒が一丸となって統苑会を打ち破る為の戦場でもあります」
「テーマによっては勝負し辛い年もありますけどね! 去年は勝負がなかったので、寂しかったです!」
「毎年勝負するわけではないんですね?」
「まあ、テーマ次第と言った所ですかね。食、繁華街テーマとなると売上勝負が基本になりますから。店舗の出店をしない統苑会とは勝負のしようが無かったのですよ」
「なるほど」
「ですが、この数年だと去年の食テーマ以外の全ての年で統苑会との勝負が発生しています。劇も、詩歌も、ファッションも。私が中等部に上がる前にあった知力も。全ての聖桜祭において、生徒側は統苑会の打倒に向けて舞台を整えましたからね。知力の一つ前の芸術テーマの時は勝負がなかったようですけど、基本はあると思った方がいいですよ」
「な、なるほど。勝負ですか……」
「今年はカジノですから! 勝負にもってこいですね!」
「──ああ、そうだろうな。勝負方法は生徒側が決定して、果たし状を突き付けて来るわけだが、今回の場合は凡その予想はつく」
「予想と言うのは?」
鹿謳院との言い争いが一段落付いたのか、ここで近衛も会話に参加。
エナジーバーを十秒足らずで食べるだけの近衛は、いつも通り左手に持った本に目を通しながら昼休憩を過ごしている。
今日の一冊は『How to Stop Over~~……』と言う、長いタイトルの英語で記された本。
どれだけ忙しくとも昼休みは読書をすると決めている近衛は、本を読みながら少し離れたテーブルで昼食を取っている三人に、主に橘に向かって話しかける。
「単純だ。聖桜祭の終了時に最も多くのカジノチップを保有している者。これ以上明確な勝者は存在せんだろう」
「それは、確かに」
「十中八九そうなるでしょう。ですので、雫も愛理も、橘君も、今回の聖桜祭は統苑会の全員で対処をする必要が出て来るかと思います。今のうちに存分に英気を養って下さいね」
「私は! いつでも! やる気に満ち満ちています! 会長!」
「最終日までに生徒側の千人強が統苑会を上回るカジノチップを確保すると、統苑会の敗北が確定しますので、そうならないように稼ぐ必要があるでしょう。庶務もしっかりと稼ぐのですよ」
「は、はい……」
「統苑会に敗北は許されません。ですので、聖桜祭が始まりましたら統苑会の九人でカジノチップの過半数を確保する為にも、聖桜祭の期間中に一人当たりの獲得ノルマを設けて全員で──」
「ふん。随分と弱気な事を言うようになったではないか、鹿謳院」
「……お言葉ですが、私の何処が弱気だと」
「統苑会の会長ともあろう者が腑抜けた事を言うなと言っている。くだらんノルマを課す必要はない。そもそも、来場者数が不明な時点でノルマを考えても意味がなかろう。どう計算するつもりだ」
「計算は……確かに。副会長の言う通り、生徒や来場客に配布されるカジノチップの合計が一億円分と言うのも、仮の数字ですからね。来場者数如何によってチップは増減すると考えられます」
「そう言う事だ、一条。統苑会にノルマなど不要だ。そも、来場者が増えれば発行されるカジノチップはそれだけ増える。ノルマなど考えた所で意味が無い。それになにより、九人仲良くお手手を繋いで生徒連合に勝つ気か? 少なくとも二年前の鹿謳院であれば、そのような事は絶対に口にしなかっただろうよ。勝者は唯一人だけでいい、そうではないか?」
「……いいでしょう。会長選で懲りたかと思っておりましたが、その鼻っ柱、もう一度へし折って差し上げます。そも、統苑会の勝利など絶対の通過点に過ぎません。その上で、誰が聖桜の王たるかを、皆に今一度証明しようではありませんか」
「良いだろう、受けて立ってやる」
お箸で卵焼きを挟んだまま睨みつける鹿謳院と、相変わらず本から視線を外す事なく彼女の言葉を受け止める近衛。
「(この私に向かって弱気ですって? 毎度毎度、本当に腹の立つ男です。ですが、丁度良い機会です。私としても負けっぱなしは性に合いませんからね。私が勝ったらこの男を皆の前で土下座をさせて、その上に腰を下ろすとしましょう)」
「(随分とつまらぬ者になったと思ったが、杞憂だったか。この俺を前にして恐れずして挑まんとするその気概……。やはり、この女はこうでなくてはな。それでこそ統苑会の会長だ。たとえ一度と言え、この俺を下した力をもう一度見せてみろ)」
「何をにやけておられるのですか、余裕のつもりですか」
「当然だ。俺の勝利は揺るがぬからな」
机の下でペタペタと足を動かす鹿謳院と、涼しい笑顔を浮かべる近衛。
中等部の三年間、聖桜祭で毎年頂上決戦を繰り広げて来た二人の勝負は、どうやら統苑会になっても継続するらしい。




