Level.104 全然合法
「カジノ! 楽しみです! やった事ないですけど! お金がいっぱい稼げる事は知っています!」
「お金は賭けませんよ、愛理。聖桜祭の間でのみ使用可能な専用通貨を発行する、と言った所に落ち着くのではないでしょうか?」
「そのようだな。中等部からの要望は来場者に一人につき一万円分のチップの配布とある。一万円分の配布となるとチップの数は膨大になるが……。まあ、構わんだろう。現物のチップとは別に、聖桜祭で使用可能なチップを管理するアプリを作れば良いだけのことだ」
「そうですね。アプリ作成は外注でも構わないでしょう。業者の手配は私の方で致しますが──」
「最低でも! 現物のチップも一億円分は用意して欲しいです! たぶん! そのくらいです!」
鹿謳院が話していると、その言葉を遮った乾が元気よく発言。
「一億円分ですか。それは構いませんが、どうして一億なのですか?」
「中等部が四百五十人、高等部が六百三十人! 会わせて千八十人の生徒! これまでの聖桜祭は生徒とその保護者以外に来場者する事はなかったのです! 平均して三千人から四千人! 今年から一般開放で来場者が沢山増えて、二倍から三倍に来場者が増えたら!」
「ふむ。そうだな、その考えの下であれば、最低でも一億と言うのは妥当な数字だ」
「来場者が一万人以上となれば最低でも一億円分のチップが必要と言う計算ですね。カジノに関しては完全に門外漢ですので、最終的にどの程度の準備が必要になるかは現時点では判断し兼ねますが」
「そうね~。でも、足りなくなるよりは余ってしまう方がずっとマシよね~」
「それもそうですわね。チップのデザインは完成いたしましたので、鹿謳院様のパソコンにお送りしますわ」
「ありがとうございます、桜花」
「俺の方にも送れ、白川。精査する」
「畏まりましたわ」
話をしている間にも白川と越智は爆速でチップのデザインを仕上げて、それを会長と副会長に提出。
基本となるデザインは一つで、後はカラーバリエーションの違いだけ。
一円用のホワイト、十円用のレッド、百円用のグリーン、五百円用のブラック、千円用のパープル、一万円用のイエロー、十万円用のブラウン、百万円用のオレンジ。
「ふむ。俺は問題ないと判断する。GOだ」
「私も異論有りません。こちらのデザインで受注致しますね」
とりあえず、全八種類の一億円分のカジノチップを、仮想通貨として用意する事に決定。
「お金が沢山! 楽しみです! 一万円分もお金があれば! 美味しい物食べ放題です!」
「チップはあくまでもカジノ用ですわ。各部が提供する飲食物や学食は、普通にお金を出して購入するしかありまわせんわよ? 乾さん」
「そんなー!」
「いや、一概にそうとも限らんだろう」
「と、言いますと?」
「そうよね~。だって、聖桜祭で使える一万円分のチップですものねぇ。あたしだったら現実の一万円よりもチップの方が欲しいわ~」
「……ああ。なるほど、そう言う事ですの。カジノチップを現金と交換する方も現れると、そのようにお考えですのね?」
「当然、現れるだろう。どのような手段を使ってでも、カジノチップを大量に確保したいと考える者は確実に現れる」
「そうでしょうね。今回は明確な勝者が判定出来るテーマとなっておりますから、一枚でも多くのチップを確保したい。そのようにお考えになられる方は多々おられる事でしょう」
「それでは! 最初に貰える一万円分のカジノチップを! 誰かに買って貰えるのですか!」
「それは法的に問題御座いませんの?」
「無論、カジノチップの換金は許可せん。だが、聖桜祭にて発行される記念チップを個人間で売買する行為には、何ら違法性はない」
「それもそうね~。玉を弾いて遊ぶ三転方式のお遊戯が法の下に許されているのですもの~。たかだが学園祭のカジノごっこのチップを個人間で買い取ったからと言って、それが法に抵触するような事はないのよ~」
「アレですね! 換金所を聞かれたパチンコ屋さんが! 何処とは言いませんが皆さんあちらの出口から出て行かれますよ──と言っている! アレですね!」
いつものハイテンションで愛らしい声をがらりと変化させて、淡々とした台詞を口にした乾だが、次の瞬間には元通り。
「そのような事よく存じておりますわね、乾さん」
「ドラマの撮影シーンで見ました!」
「どのようなドラマですか、それは。もう少し出演なさるドラマは選ばれた方が宜しいですわ」
「無論、聖桜祭においてチップの換金は認めん。基本的には獲得したカジノチップは記念品として持ち帰るか、統苑会で回収して処分する。だが、あくまでも個人間であれば好きにチップの売買をすればいい」
「ですが、売買レートに関してはある程度の規定が必要ではありませんか? 際限なくレートが上がって行けば争いの火種になるかと」
「……ふむ。鹿謳院の言葉も尤もだ」
「そうね~。もしあたしが勇者を目指す生徒だったら、一円チップ一枚を百円千円でも買っちゃう事だってあるかもしれないわね~」
「仮に全部で一億円分のチップを用意するとしましたら、半分の五千万円分のチップを確保した時点で勝利ですものね。一円チップを一枚百円で買い取ったとしても、五十億もあれば半数の確保が出来てしまいますわ」
「その程度の金であればつぎ込む輩も現れるかもしれん、か……。だが、問題は無限につり上がっていく売買レートの方だろう。一般客の中には高額買い取りを提示された時点でカジノチップを売り払う者も現れるかもしれん。そうなれば競技性が損なわれる」
「一円チップが一枚百円で取引されるとなれば、来場者は無条件で十万円を獲得できてしまいますものね」
「カジノチップの売買取引は、生徒間においてのみ有効とした方が良いかもしれんな。或いは、禁止措置を取るか」
「そうですわね。一般客を巻き込むとややこしくなりますわ」
「でも、闇取引までは防げなさそうよね~」
「こちらにバレないように、一般来場者からカジノチップを買い取る者が現れる可能性は十分に考えられますわね」
「心配ない。その問題は容易に解決可能だ」
「私もそこに関しては心配しておりませんよ。一般客からカジノチップを買い取った者は、それが露呈した時点で聖桜祭への参加資格を剥奪すれば良いだけの話しですので」
「うむ。俺も同意見だ」
「監視はどうするのですか! 鈴木君の眼にも限界はあると思います!」
「そこは生徒同士が勝手にやってくれるだろうよ。本気で勝ちに来る者が居るとすれば、余程の馬鹿でもない限り、一般客から一万枚や十万枚のチップを買い取る程度の事で一発失格になるリスクを冒そうとは考えない」
「そうでしょうね。それでも、お金で勝利を買おうとする方が現れるとすれば、それこそ一千万枚二千万枚を買い取らなければ話になりません」
「うむ。だが、もし仮に一千万二千万単位のチップの買い取りをすれば、そんな目立つ真似をして他の生徒が気付かないわけが無い。最優秀クラスを目指す者達も、勇者を目指す者も、どちらも一人ではないからな。互いの派閥が強力な監視体制を敷く中で不正を行う事は、まずもって不可能だ」
「ええ。余程の愚か者でもない限り、そのようなリスクは冒せませんわ。そもそも、金で得た勝利なんて虚しいだけですものね」
全員パソコンやスマホで作業をこなしながら、次々に話を纏めて行く。
二十日ある準備期間で最高の舞台を整える為にも、統苑会は全力で働かなければならないので、口を動かしても誰も手を止める事はないのである。
「そう言えば、鋼鉄ちゃんのクラスは毎年最低限の予算だけで戦ってたわよね~」
「あれは俺からのささやかなハンデだ。尤も、俺が率いるクラスと言う時点で勝利は確定していた故、ハンデも何もなかったかもしれんがな」
「や~ん、相変わらずカッコイイわ、鋼鉄ちゃん」
「中等部の一年から三年まで、近衛君のクラスは常に最優秀でしたものね」
「私も! 一度くらい勝ちたかったです! 詩歌、自信あったんですけどね……!」
「確かに、乾に不手際は無かった。だが、一流の歌手やアイドルを用意した程度でこの俺に勝てると驕った事が敗因だ。俺は偶像には負けん」
越智と白川、乾と近衛が昔話で盛り上がりながら作業をする中。
「(この男のせいで、いつも最優秀を逃していましたのですよね。聖桜祭で一度も勝てなかった事は心残りではありますが、会長選で雪辱を果たしたと考えましょう。そうです。最終的に勝利を掴んだのは私なのです。留飲を下げようではないですか)」
同じく中等部の頃、生徒側として参加していた聖桜祭について思い出していた鹿謳院は、机の下で不機嫌そうに足をペタペタと動かしていた。




