Level.102 拮抗する二人の王
「どのテーマが選ばれるのか、まだ誰も知りません。けれど、決めるのは生徒の皆様です。テーマ選びには徹底したランダム性を取り入れておりますが、この方が宜しいでしょう?」
舞台に向かって歩きながらも白川の話は続いていて、橘を始めとした今年から聖桜に所属した外様の生徒達は、どうしてここまでしてランダムに拘るのかを理解する。
「厳格なルールがある遊びこそが最高の競技性を持つものです。明確なルール、明確なシステム、公平な審判。全員で公平なスタートを切るからこそ、最優秀クラスの栄光が輝くのですわ。スタートラインは全員が同じ。何処まで走るか、誰が一番にゴールをするのか。皆様はそれを二十日間で示すので」
聖桜祭は中等部と高等部が全員参加する、各クラス対抗の特大規模のお遊びである。
だがしかし、たかがお遊び、されどお遊び。
やるからには全力で取り組むべきであって、全力で競い合うのであればルールの設定は必要不可欠である。
と言う事で、文界を含めて誰か一人でも事前にテーマを知っている者が居れば、その時点で公平性が失われてしまうのは言うまでもない。
なので、テーマ選びに関しては毎年ランダムにランダムを重ねて、更にランダムを徹底して決定する事になっている。
公平性の欠けた遊び程つまらないものはないので、聖桜祭におけるテーマ選びのランダム性は絶対なのである。
「さあ、投票は終わりになりまして? ワタクシがこの階段を上った時点で今年のテーマは決定いたしますわよ?」
舞台前の階段に到着した白川がそう言って、今一度生徒の方を振り返り最終確認をした所で、タイムリミット。
「投票お疲れ様でした。それでは、生徒より選ばれた一名のスポットライトを残して、後は全て消灯して下さいませ」
コツンコツンと足音を立てながら階段を上り切った彼女が、マイクに向かって静かに声を掛けたのだが──どう言う訳か、スポットライトは二つが点灯したまま。
「……このワタクシの筋書きに不手際は許しませんわよ。集計が終わったのであれば早く消しなさい」
僅かな進行の不備だが、それでも不備は不備。
美しくない事が大嫌いな白川が少しばかりご機嫌斜めな声でマイクに話しかけるが、それでも、一向にスポットライトが消える気配はない。
いよいよテーマ発表と言う所で静まり返っていた講堂は、その様子に再び騒めき始める。するとそこに、舞台袖から慌てた様子で現れた生徒会の者が、白川に駆け寄って一枚のメモ紙を渡した。
メモを受け取った白川が内容を目にすると、ただでさえ大きな目が更に大きく見開かれ、見間違いではないのかとキョロキョロと確認し始める。
まさか、統苑会が何らかのアクシデントを起こしたのか? そんな事がありえるのか?
そう考えた生徒達だが、少し悩む素振りを見せた白川が再び口を開いた事で講堂内は再び静寂で包まれた。
「ワタクシとした事がとんだ醜態をお見せ致しましたわ。……ええ。ええ。聖桜の長い歴史の中、このような事もあるのかもしれません。いいえ、このような珍事はもう二度と起きないかもしれませんわ」
消える事の無いスポットライトに照らされている者は二人。
赤い照明に照らされた鹿謳院氷美佳と、青い照明に照らされた近衛鋼鉄。
「生徒投票の結果、会長と副会長の得票が全くの同一となりました。ワタクシが把握している限り、これは前代未聞の事態ですわ」
その瞬間“おおおおー”と言う、どよめくような生徒の声が講堂に木霊する。
「──けれど、何も問題は御座いません。副会長、失礼。会長も、失礼致しますわ」
二人からカードを受け取った白川が再び演説台に戻れば、鹿謳院と近衛を照らしていたスポットライトもようやく消灯。
演説台に立った白川に全てのスポットライトが集中した所で、話が続いた。
「お決めになられたのは生徒の皆様です。であれば、私は今ここに、文界の権限を持ってこの二枚のカードを一つにする事を宣言。そして、一つになったカードをもって、今年度の聖桜祭テーマとして発表致しますわ」
聖桜祭はテーマによってがらりと雰囲気を変える。
去年の『食』も、一昨年の『劇』も、一昨々年の『詩歌』も。
テーマごとに全く別のお祭りになるので、このテーマ発表の瞬間は誰もが緊張する。
「──あら、これはまた……。ふふふ」
演説台で先に二枚のカードを目にした白川は思わず笑ってしまい、そのせいで他の者達は余計に気になるようで、講堂は全体的にソワソワしてしまう。
「それでは、発表致します。──今年度の聖桜祭のテーマは『遊戯』と『運否』です。正しく今のような状況にこそ相応しい言葉かもしれませんわ」
そうして、テーマが発表されると同時に講堂は再び喧騒に包まれる事となった。
テーマ発表と同時にスタートラインが切られた事で、各クラスを率いるリーダーを中心に、聖桜祭に向けた情報共有が開始されるのは毎年の事。
だがそれでも、統苑会の者が話しを始めれば殆どの者は静かに聞き耳を立てる。
「それにしても、遊戯と運否とは面白いまたテーマですこと。二つで一つのテーマと考えますと、今年の聖桜祭の形は凡そ決まったかもしれませんわね。私達の年齢では馴染みはありませんが、スリリングな遊びは世界中に溢れておりますもの」
白川がゆっくりと話す度に、一度は消えた舞台上の八名を照らすスポットライトが再び点灯していき、真っ暗な講堂の中で統苑会の九名だけが眩い光を浴びる。
「さあ、テーマ発表は終わりました。どうぞ皆様、存分に競い合い最優秀クラスを目指して下さいませ。──そして願わくば、我ら統苑会を打ち破る『勇者』の誕生を、心よりお待ちしておりますわ」
ニコリと笑った白川桜花が最後にそんな事を言えば、生徒全体にピリリとした緊張感が走ったわけだが……。
「以上を持ちまして、聖桜祭題目発表式を終了致します。どうぞ、皆様の健闘をお祈り申し上げます」
そんな生徒の空気を知ってか知らずか。演説台の白川と場所を交代した議長が涼しい顔で締めの言葉を口にする。
そして、光を浴びる九名の生徒が舞台裏に優雅に消えて行けば、暗かった講堂にようやく明かりが戻った。
統苑会が退場したその後、講堂はしっちゃかめっちゃかの大忙しになるのは毎年の事。
限られた時間を最大限に活用しようと各クラス各生徒が動き早速行動を開始。聖桜祭で能力を知らしめる事で次期統苑会入りを目指す者や、生徒会入りを目指す者、単純にお祭りが楽しみな者など。
たかが文化祭、たかが運動会、たかが遊びと侮る者は聖桜の地には一人として存在しない。
それはそれとして、統苑会と言う組織のヤバさを改めて痛感した橘はこの日、白髪が増えた。




