Level.101 美しい題目発表会
九月も中旬に差し掛かった、ある日。
聖桜学園の中等部と高等部の生徒が全員、大講堂に集合していた。
中高の生徒と教師を合わせた千人以上が集合する講堂。
その前面にある舞台上には九名の生徒が堂々たる姿で立っており、舞台手前には十六名の生徒が後ろ手を組んで直立している。
よく見たら一人だけ青い顔をしているが、概ね堂々とした舞台上の九人の生徒に、大講堂の視線が集中する。
「これより、聖桜祭題目発表式を行います」
そして九人のうちの一人、演説台に立った統苑会議長が開始の言葉を口にすれば、会場はシンと静まり返る。
「まずは文界、白川桜花よりお言葉を頂きます。どうぞ」
「──皆様ごきげんよう」
次に名前を呼ばれた白川が、一条の代わりに演説台に立てば発表式が始まった。
聖桜祭題目発表式。
ただ聖桜祭のテーマを発表するだけの集まりであって、それ以上でもそれ以下でもない。
そんな訳で、まずは文界より聖桜祭の歴史について軽い説明。
文界の話が始まると同時に講堂の照明は静かにゆっくりと光量を下げられていき、演説台に立つ白川を除いた八名が舞台上から姿を消せば、舞台上には白川がただ一人残される事となる。
五カ所からスポットライトを浴びる白川桜花の姿だけが、真っ暗な講堂の中に浮かび上がる状況に、生徒の緊張が徐々に高まっていった所で、聖桜の生徒であれば誰でも知っているような歴史説明は数分で終了。
仕方なく話さなければならない説明が終われば、いよいよテーマ発表に移るわけだが──。
「それでは皆様、大変長らくお待たせ致しました。──今年度の聖桜祭テーマ発表式をー、開催致しますわー!」
それまで粛々と話していた白川のテンションが急激に上昇。
演説台に設置されていたマイクを左手で取った彼女が、キメポーズを取りながらマイクを天井に向ければ、彼女を照らしていたスポットライトが消灯。
同時に、大講堂の四方八方にスポットライト出現したかと思うと、陽気なBGMが講堂に木霊し始めた。
照らされた場所は八カ所。
それぞれのスポットライトにつき一人の生徒が照らされているわけだが、言うまでもなくこの八人は白川を除いた統苑会のメンバー。
舞台から一番遠い場所にある出入り口付近を照らすスポットライトの中では、左手をズボンのポケットに掛けて、天高く掲げた右手の人差し指と中指の間に真っ白なカードを挟んだ近衛鋼鉄。舞台に向かってゆっくりと歩く姿に、大衆は釘付けに。
そして、そんな近衛の少し隣を見れば、両手で持った白いカードを胸の前に掲げる鹿謳院氷美佳がいて、近衛同様に堂々とした歩みで舞台に向かって進む姿に、周囲の生徒は心を奪われる。
更に、そんな二人から視線を上げれば、講堂壁面のキャットウォークを照らすスポットライトの中を一人の女生徒が歩。左手に持ったカードを振りまわしながら、満面の笑みを浮かべて舞台に向かって歩く乾愛理の姿も。
比較的舞台に近い場所を照らすスポットライトの中には、青い顔を通り越して白い顔になった橘蓮が精気の宿らないガンギマリの瞳を見開きながら、右手に持ったカードを頭の上に置いている姿もある。
それぞれの場所に出現にした統苑会メンバーが、手に持ったカードを掲げながらゆっくりと舞台に向かって移動すれば、再び舞台上に八名が集結する。だが、八名が舞台に戻る頃には、演説台に居たはずの白川の姿はそこにはない。
何処にいるかと思えば、先程近衛が出現した舞台から一番遠い出入り口を照らすスポットライトの中に、今度はマイクを持った白川桜花が出現した。
「舞台上の八名が手に持つカードには、生徒投票により厳選された八個のテーマが振り分けられておりますわ」
そうして、左手にマイクを持った白川が話し始めれば、講堂の視線が一度は彼女に集まるが、それも一瞬。
「さあ皆様、舞台の上を御覧下さいませ!」
そう言った白川が右手を舞台に向けて真っ直ぐに向けると、彼女の腕の動きに合わせて、先程近衛が舞台に向かって歩いた通路に明かりが灯され、光の道が浮かび上がった。
「今回選ばれた八個のテーマはそれぞれ、知力、偶像、遊戯、旋律、創造、運否、証明、プロフェッショナルとなっておりますわ」
テーマを口にする度に、舞台上の八人を照らすスポットライトの色が切り替わっていったが、最後は全員同じ色の普通の照明に戻って、それを確認した所で白川が言葉を続ける。
「誰が何を手にするか、残念ながらワタクシも存じ上げておりません。けれど、これだけでは不十分です。公平性に欠けますものね。会長と副会長、カードシャッフルをお願い致しますわ」
白川に命令された事で生徒会の者が一人舞台上に上がると、統苑会のメンバーより一枚ずつカードを回収していき、それをまず副会長に渡せば一度目のシャッフルが始まる。
その間も白川の話は続いていて、聖桜生徒は話しを聞いたり舞台を見たりと大忙し。
「聖桜祭の主役は誰が何と言おうとも貴方達生徒ですわ。統苑会と生徒会の役目は皆様をより優雅に、より美しく輝かせるお手伝いをする事」
副会長がシャッフルしたカードの束を舞台に上がった生徒会の者が受け取ると、今度はそのカードの束を会長が受け取ってシャッフルを開始。
「これより舞台上の八名に、再びランダムなカードが一枚ずつ配られていきます。そうなれば、誰がどのテーマを手にしているのか、どれが何のテーマなのか、もはや舞台上の八名も知り得ませんわ」
そして、会長がシャッフルしたカードを再び生徒会の者が受け取ると、今度はそれを一枚ずつ統苑会の八名に手渡していく。
こうする事で、誰がどのテーマが書かれたカードを持っているのかは誰にもわからなくなる。
「けれど、それでもまだ公平性には欠けます。どうせ示し合わせた手品なのだろうと、そう思われる方もいますものね。ですがご安心下さいませ。であるからこそ、最後の選択は生徒の皆様に委ねるのですわ」
八人全員にランダムにカードが振り分けられた所でようやく、舞台から遠くに立っていた白川が光の道の上をゆっくりと歩き出す。
「さあ、皆様! この道を通ってワタクシが舞台に戻るまでの間に、生徒全員で八名の中から誰か一人を指名しなさい」
白川がそう言うと、舞台上の八名を照らすスポットライトの色が再びパッと切り替わって、全員違う色に変化。
「どうぞ、座席に取り付けられているタッチパネルからお好きな色を選択して下さいませ。皆様が御選びになった一名から、カードを譲り受けますわ。リミットはワタクシが舞台に辿り着くまで。さあ、どうぞ。存分にお選び下さいませ」
座席のタッチパネルには、舞台上の八名を照らすスポットライトの色と同じ八色のボタンが表示されていて、聖桜学園の生徒は次々に推しを照らしている色を選択していく。
その間も、スポットライトに照らされた白川が光輝く道をゆったりと歩いていて、生徒総会ではいつも静かな生徒達も、この日ばかりは無礼講と言う事で、講堂内は大変な喧騒に包まれていた。




