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第35話 とある駆け出し冒険者の初挑戦

【エピローグ】


 初めてのダンジョンへの挑戦。それは冒険者であれば必ず一度は通る道であり、その恐怖を乗り越えたものこそが冒険者としての人生を歩むことのできる――、いわば試金石。モンスターから駆け出し冒険者たちへの洗礼のようなものです。


 ダンジョン一階から三階層までの間に何度かの戦闘を行い、薬草などの次回のダンジョン攻略に必要な物資を回収して戻ってくる。


 同じ村で育った仲間たちとギルドでの初心者講習を受け、先輩冒険者さんたちから剣や弓、盾の使い方を教わってようやく挑戦することが叶います。


 万が一の可能性。万が一の危機にも対応できるようにシミュレーションを重ね、打ち合わせを行った上での挑戦です。万が一の事態など、滅多に起こるはずもなく、何事もなく私たちはギルドへと戻り、「これからもよろしく!」と祝杯を上げる予定でした。


 これから始まる長い冒険者人生の第一歩。

 いつかは「懐かしいね」「あんなこともあったね」と笑い合える思い出の一ページ目。


 そう信じて挑んだダンジョンで私たちは、――モンスターに囲まれていました。


「や、やめっ、こないで……!」


 既に矢は尽き、剣は折れ、戦意は喪失しています。

 三人いた他の仲間たちも同じように壁を背に、訪れるであろう死に恐怖していました。


 ファルムンドのダンジョンに、異変が起きていたことは聞き及んでいます。


 だからこそ私たちは訓練期間を長く取り、ダンジョンが正常に戻り、駆け出し冒険者に再び解禁される日を待ったのです……!


「なのに、なんで……! どうして……!」


 異変は、去ったはずなのに――、


「どうして、こんなところにドラゴンがいるのよぉ……!?」


 真っ黒な、紫色のオーラを纏うそれは、ゆっくりと首をもたげ、口から煙を燻らせながら私たちを見下ろします。


 デッドバイドラゴン。

 ダンジョン内で遭遇するドラゴン種の中でも最強の存在。――それが、二体……?


「いやぁあああああ!」


 ドラゴンがブレスを吐き出そうとし、私は頭を抱え悲鳴をあげてしまします。

 冒険者たるもの、最後の一瞬まで生き抜くことを忘れるな、と先輩に教わったのに、無理です、本能がそうさせるのです……!


「ぇ……、あれ……?」


 ――しかし、終わりは訪れませんでした。


 いつまで経っても静寂があるだけで、恐る恐る顔を上げると、そこには、そこには、「ひ、ぁ、ァア………、」すかる、すか、る、すかかかかかか「ァアあ…………、」そこで私の初めてのダンジョン挑戦の記憶は途切れました。


 気がついた時、私たちはダンジョンの入り口でひとまとまりになって眠っていたそうです。


 先輩冒険者さんたちに伺ったところ、それは「ファルムンドの悪夢」として有名であり、駆け出し冒険者に訪れるファルムンドダンジョンの悪意。

 新たに冒険者になろうとする者への洗礼なのだそうです。


 その晩、私たちはファルムンドの街を後にし、別の駆け出し冒険者向けのダンジョンのある街へと旅立ちました。

 ファルムンドのダンジョンは、力あるものしか受け入れない。

 そんな噂を耳にするようになるまで、そう時間はかかりませんでした。


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