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第30話 師匠と弟子


 何かがおかしい、と、長年に渡る冒険者の勘がそう言っていた。


 初めてダンジョンに潜ったのが六歳の頃。

 十五の時には「奈落」と呼ばれていたダンジョンを踏破し、剣聖の名を与えられた。


 それから十年と少し。

 ただひたすらに強いモノを追い求めてきた冒険者人生だが、ドラゴンどもを相手取るヘタルの様子が何やらおかしい。


 力任せに向かってくる相手を片っ端から倒し続けている。

 それは私が教えた戦術だ。

 ダンジョンでは逃げることで好転する状況とそうでない状況の判断が非常に難しい。


 ダンジョンは生き物だ。

 油断すればその悪意に絡み取られる。

 ――故に、一人で潜る場合には正面から、力でねじ伏せる力が必要とされるのだ。


 ヘタルは私によく似ていた。

 弱い癖に強い相手に挑むことを快感として覚える強者の素質を備えていた。

 だからこそ私は奈落のドロップアイテムである「確殺の小太刀」を貸し与え、試練を貸した。


 ファルムンドのダンジョンは上階層ならば駆け出し冒険者御用達ではあるが、下層から続く暗黒領域は私でも一人で踏破するのに苦労する。


 その奥に控えるダンジョンの大主人など、奈落並みか、それ以上の怪物であると踏んでいた。

 十に一つ、……いや、百に一つ生き残ることができたのであれば、それでいい。


 ダンジョンに死はつきものだ。

 最低限、生き延びる術は教え込んだ。


 あとは賽の目がどう転ぶか。

 私の弟子が、ダンジョンの魔物となるか、肥やしとなるかは蓋を開けてみてのお楽しみだった。

 正直、あまり期待はしていなかった。暇つぶし程度に考え、旅の合間に生存確認ぐらいはしてやろうと思っていた程度だ。


 ――しかし、ヘタルはダンジョンの脅威に打ち勝った。


 下層に踏み入ることは出来ても最下層。深層。暗黒領域など踏破出来ぬだろうと考えていた私の予想を遥かに上回り、大主人を討伐するに至った。


 冒険者がダンジョンに挑む理由。それは名誉と金であることが主だが、大主人を討伐し、ダンジョンを踏破した者には神々の祝福が与えられる。

 

 ドロップアイテムか、もしくはそれに匹敵するスキル――。

 そして、ヘタルに与えられたのはおそらくは後者だ。


 つまり、今のアイツは世界を変革しうるワールド・アイテムである「確殺の小太刀」に並ぶ存在となった。

 そして、私の見立てでは、あいつのスキルはモンスターを倒せば倒すほどに力を増す類のものだ。


 通常、冒険者には限界というものが必ず訪れる。

 それは人間としての限界だったり、想像力の限界だったり、己の、意識の限界であったりと様々な要因に起因するのだが、自己評価の低いヘタルは、その限界というものを知らない。限界はまだまだ先にあるとすら考えている。


 ヘタルは、モンスターと戦えば戦うほど強くなれる。

 強くなったヘタルはきっと私を超えてくれる。


 ――だから準備をした。


 クソめんどくさいと思いながらも二体のデッドバイドラゴンを育成し、霊龍山のドラゴンどもに魔力を注ぎ込み。蘇生した。


 そしてヘタルがドラゴンどもを倒し、さらなる力を身につけ、その結果、私を超えてくれれば、――私は私を超える戦いに挑むことができる……!


「こい! ヘタル!!」


 空を舞うドラゴンは次々と落ちていっている。


 しかし、後半になるにつれ、強大な力を持つドラゴンをぶつけるように指示を出してあるため、徐々にその勢いは落ちつつある。

 このままいけばカース・スカル・ドラゴンにたどり着く前に力尽きかねない勢いだ。

 ――だが、「そんなものじゃないだろう!? お前の力は!」


 私は叫ぶ。私は祈る。どうか、その程度ではないことを証明してほしいと。

 そして、私を超える冒険者に育ってほしいと!


「うずうずするのです」

「焦ったくて堪らないのです」


 両側に控えさせているデッドバイドラゴンが身じろぐ。

 これらのドラゴンはすべてこの二体の活躍によるものだ。


 相当にしごいてやって、その恨みが私に向くのではないかという期待もあったのだが、意外にもこの双子のドラゴンはヘタルに向けられ続けている。


 元々の飼い主を倒されたと言っていたからその恨みもあるのかもしれない。


 とにかく、この二体のドラゴンはヘタルに執着しており、自らがトドメを足したいと思っているのだ。


「もういいでしょ? なのです」

「もういっていいでしょ? なのです!」


 グルルと喉を鳴らしながら一対のデッドバイドラゴンが私に機会を伺ってくる。


 ようやく半数を超えたところだが、ヘタルはすでに限界が近いらしい。

 動きが鈍くなり、攻撃を躱すのではなく、受ける回数が増えてきていた。

 さすがに私も張り切りすぎたらしい。


 ダンジョンに潜り初めてまだ一年と少し。

 これぐらいの数のドラゴンを開いて取らせるには時期尚早だったか――。


「仕方がない。残りは明日にして、今日のところはトドメをさして来ていいぞ」

「やりやした! なのです!」

「はいなー! なのです!」


 嬉しそうに二体のデッドバイドラゴンが宙を駆け巡るヘタルへと首をめぐらせ――、「ぁ」


 その時になってようやく私はその違和感の正体へと思い至る。

 気づいた時には遅かった。

 空高く。

 晴天をさらに切り裂く漆黒の闇――。



「デッドバイ・スカル・デーモン!」



「「ぴぎゃっ」」と、今にヘタルへ飛びかかろうとしていたデッドバイドラゴンたちの首が弾け飛び、続く閃光が跳ね上がってカース・ドラゴンへと伸びる。


「迎撃だ」


 手短に命じると魔素による防御壁が展開され、ヘタルの次弾を完全に防ぎきり、余波は森を揺らし、大地を切り裂いた。


 そして、防御壁はそのまま攻撃へと転用される。

 未だ、ドラゴンの群れと戯れているのはヘタルの生み出した分身だったのだろう。

 本体は乱戦に乗じて雲の上から私の元へと接近。


 一撃で決めるつもりだったのだろうが、詰めが甘い。


「死ぬんじゃないぞ、愛弟子――」


 未熟な弟子へと手を下す。

 ヘタルが闇で世界を切り裂いたように、私は光で世界を切り裂こう。



「――ライトオブ・ジャッジメント」



 光の柱は、再びダンジョンを貫いた。


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