表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/36

第29話 神罰と冒険者


 終末の日。世界の終わり。神の怒り、神罰――。


 きっとこの光景を見ている人間がいるとしたら、恐れ慄き、逃げ出すことも忘れることでしょう。


 私は、ご主人様がデッドバイドラゴンの手によって地面に叩きつけられる瞬間に体に鞭打ち、その着弾地点へと体を滑り込ませました。


 結果的にご主人様は自分で衝撃を吸収し、私の出る幕はなかったのですが、続けて行われたドラゴンたちの一斉放火にさすがのご主人様も驚いたご様子です。


 サーペントドラゴンのウォーターカッターで火球を切り裂き、進路を確保すると空に舞い上がって手近な一体を素手で殴り飛ばします。


 ドラゴンの皮膚は硬く、鱗で覆われておりますから、通常であれば人間の一撃など痛くも痒くもない。

 むしろ、素手で触れれば人の肌ではドラゴンどもの高熱に耐えきれず、焼け爛れてしまいます。


 ――しかし、さすがは私が見込んだお方でした。ご主人様と呼ぶに相応しいお方です。


 その手はゴーレムの力を纏い、殴り飛ばした反動で更に空高く舞い上がるとデッドバイドラゴンの力を使ってドラゴンどもを高所から一斉に焼き払います。


 ドラゴン対ドラゴン。


 古の伝説にでも語られそうな光景でしたが、高度の魔力耐性を持っているドラゴンに炎は通じません。

 激しい空中戦が繰り広げられ、多勢に無勢。劣勢どころか御身ただ一人で世界を滅ぼしかねないドラゴンの大群に追われるご主人様はとても見ていられませんでした。


 決して、ご主人様が劣っているというわけではありません。


 数の暴力による圧殺です。


 たとえどのような破壊力を有していても、当たらなければ意味がない。

 当てたところで、当たらなかった個体がいるのなら反撃に遭う――。


 そうやって少しずつ、ドラゴンの数を減らしてはいくのですが、数は減っているのに次第にご主人様は追い込まれていっているようにも見えました。


 そうです。そこで私は気付いたのです……!

 最初の一撃以降、デッドバイドラゴンが動いていません!


 その上、ご主人様のお師匠様が乗っているスカル・ドラゴン、……いえ、あれはその上位種、カース・スカル・ドラゴン……! 数千年前に滅んだと言われる、かつて地上に栄えた旧人類を滅ぼしたとされる伝説の――、「大変でございますね。ご主人様」「え、エメ……!? なに……!?」


 それまで観戦に徹していた私が突然話しかけたのでご主人様は驚かれました。

 そうでしょうね。こうなることがわかっていたので、私は沈黙を貫いていたのです。


「ここです。ご主人様の服の中」

「ひぇ!?」


 激しくドラゴンどもを相手取りながらご主人様は自分の服の中にいる私を見下ろします。

 ええ、はい。いまの私はご主人様の体にまとわりついて、インナースーツ。

 まぁ、簡単に言えば肌着か下着のような形で一心同体です。


「な、なんで……!?」

「置いていかれると寂しいので」

「はぁ!?」


 柄にもなく、ご主人様は大声で反応なさいます。

 いやはや、戦闘中は気が高ぶるのでしょうね。ちょっと可愛いです。


「ですがご主人様。こういった時こそ、心に余裕を持っておかねば不測の事態に対応できかねますよ?」

「そんなこと、言ったって、数がっ……――、んぁひゃっん……!」


 聞きました? んひゃん、ですって。


「えぇええええめぇえええええ……!?」


 眼前に迫っていたドラゴンをフレイム・ゴーレムの一撃で乱暴に叩き落とすとご主人様は怒りに頬をひくつかせます。


 若干その頬は恥じらいで赤くなっているのがなんとも可愛らしい。

 あと、手がメラメラと燃えているのがちょっぴり怖いです。


「敵は、小さい個体から順に襲ってきております。このままでは消耗した後、あのカース・スカル・ドラゴンとデッドバイドラゴンを相手取ることになるかと」「そ、なんなこと言ったって……!」


 話の途中でしたがご主人様は再びデッドバイドラゴンを纏い、空を駆け巡ります。

 後ろから飛んでくる火球を避け、旋回し、空中で纏っている力を切り替えて交差する際に地獄鎧武者の居合斬りでドラゴンたちを一刀の元に下します。


「近づくことすら、できないのに……!」


 ご主人様は必死でした。

 こんなに必死なご主人様を見るのは初めてです。


「では、こういうのはいかがでしょう?」

「へ……?」


 忠実なるメイドたるもの、主人のピンチに助言の一つや二つ授けることができなくて、何がメイドでしょう?


 私は暴れ狂う風に負けないよう、触手を伸ばし、ご主人様の耳元で作戦を伝えます。

 所詮はモンスターの浅知恵。一蹴されても構いませんでした。


 ――ですが、さすがは我が敬愛し尊敬し慈愛深きご主人様!


 私が作戦を伝えると「うん、わかった」とただ頷き、行動に移してくださったのです!


 私は肌で、全身でご主人様の熱を、鼓動を感じながら自らにも熱いものが込み上げてくるのを感じました。


 まさに一心同体。


 これから先、これからもずっとご主人様と共にある為にも、このようなところでドラゴンの餌食になってたまるものですか!


「愛しております。ご主人様」


 するり、と耳元に伸ばした触手で顎に触れれば、無言で切り落とされてしまいました。



 ご主人様は照れ屋さんでございますねっ?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ