第二章 悪夢が目覚める(1)
「ああ──!」
私は突然目を覚まし、全身が汗でびっしょりと濡れていた。
冷たい汗が額から大粒の滴となって流れ落ちる。
胸は激しく上下し、まるで深海から逃れたばかりのように息が荒い。
周囲は静まり返っている。
空気にはまだ夢の中の重苦しい気配が残っているようだ。
私は周囲を見回した。
見慣れたオフィスは静寂に包まれ、私の呼吸音だけが広い空間に響いている。
「夢……」
私はかすれた声でつぶやいた。
自分が本当に悪夢から覚めたのか確信が持てない。
現実と夢の境界を見極めようとしていたその時、突然肩に手が置かれた。
全身が震え、思わず悲鳴を上げた。
心臓が見えない爪で強く掴まれたような感覚だった。
「先輩!」
同僚の桐生涼太の声が耳元で響いた。
その驚きと心配の混じった声が、私を深い恐怖から現実へと引き戻した。
「あ……涼太か……」
ようやく自分が現実にいることを認識し、内なる恐怖を抑え、急速な呼吸を整えようと努めた。
「驚かせないでくれよ!」
涼太の手に持っていたコーヒーカップは、私の悲鳴でひっくり返り、熱い液体が彼の白いシャツにこぼれ、暗いシミを作った。
彼は眉をひそめ、急いで紙ナプキンでシャツを拭きながら、困ったように笑った。
「先輩、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫、大丈夫……」
私はぎこちない笑みを浮かべ、震える声で答えた。
「ただの悪夢を見ただけだ。ごめんよ。」
「気にしないでください。」
涼太は笑顔で手を振り、再びシャツを拭き始めた。
その軽い口調から、私の失態を気にしていないことが伝わってきた。
「先輩は本当にお疲れですね。こんな遅くまで仕事をして。」
彼は私のデスクの上の書類に目をやり、少し興味深そうに尋ねた。
「これは新しいゲームの企画書ですか?」
彼の言葉は、私をあの奇妙な夢の余韻から現実へと引き戻す合図のようだった。
デスクの上の書類は静かにそこにあり、何事もなかったかのように見える。
しかし、胸の奥にある得体の知れない寒気は、依然として消え去らなかった。