第一章 名前を纏う男(1)
私は暗川遊人、26歳。この退屈で冷たい街で生きている。
ゲームデザイナーなんていう、表向きにはそれらしい職業についているが、実際のところ平凡でつまらないサラリーマンだ。
果てしなく続く仕事と無意味な日常に埋もれ、まるで止まることのない機械の一部になったような感覚だ。ただ、キーボードを叩く音だけが単調に響き続ける。
生活も仕事も、この街の空のように灰色だ。
薄暗く、息苦しい。
毎日繰り返されるその循環が胸に積もり、言葉にできない倦怠感を生み出している。
まるで、いつまでも消えないネオンの光が冷たくて重い膜となり、自分を包み込んでいるようだ。
今日も同じだ。
会社を出ると、冷たい風が顔に叩きつけてきた。骨まで凍るような寒さだ。
人気のない薄暗い道。
コンビニのネオンが濡れたアスファルトに映る。その光は割れた鏡のように歪み、見ているだけで不安な気持ちになる。
ふと目をやると、壁には「新人類」と書かれたポスターが貼られていた。
党首の及原誠が不自然な笑みを浮かべ、「唯一」を象徴するポーズを取っている。
その表情は蝋人形のように硬く、冷たい。
私は顔をしかめ、すぐに目をそらした。
嫌悪感が胸に広がる。
誰が政権を取ろうが、関係ない。
どんな仮面をかぶっていようと、結局は役者に過ぎない。
この街と同じだ。私の生活も、何ひとつ変わらない。
コンビニに入り、棚からおにぎりを一つ手に取る。
レジに向かいながら、自分が機械の一部になったような感覚がまたよぎった。
おにぎりを一口かじると、硬く乾いた米粒が歯に当たる。砂利を噛んだような感触だ。
思わず眉をひそめ、舌打ちした。
「……ったく」
低く呟いた声が、自分でも聞き取れないほど小さい。
だが、苛立ちよりも、自分がそれすらどうでもいいと思っていることのほうが、むしろ不快だった。
家に早く帰りたい。
そう思っていると、視界の端に妙な影が映った。
暗がりから、一人の男がふらつきながら現れた。
足元は不安定で、まるで酒に酔っているようだ。
服はボロボロで、見るからに浮浪者のようだった。
私は眉間にしわを寄せ、不快感が胸に広がった。
「……なんだ、この男。酔っ払いか?浮浪者か?」
心の中でそう呟く。
だが、その男が近づくにつれ、わずかな不安が胸をよぎった。