ガリ勉丸眼鏡王子の素顔は絶世の美男子!? 〜地味仲間だと思っていたのに。婚約破棄したいのに逃げられません!〜
「…………誰!?」
「私だよ?」
「いや、誰っ!? 眩しっ! 目が潰れるっ!」
人生でこのときほど焦ったことはない、と思います――――。
ガリ勉丸眼鏡王子様ことクラウス殿下とは、王城図書館で出逢いました。
この国の貴族ならば使い放題、借り放題の素晴らしい図書館なのですが、利用者は基本的に王城勤務の文官様くらいしかいません。
王城図書館は資料になるような書籍が多いのが特徴です。貴族街にある新図書館は物語系の書籍が数多く揃えられているので、皆はそちらを利用するのだとか。
今日も私は王城図書館でひとり、資料を読み漁っています。
この国は雨が多く、河川氾濫などの被害も少なくないため、過去のデータを見直して危険だと判断するタイミングや河川堤防の高さの割り出しなどを行っていました。
「…………やぁ」
「おはようございます」
いつからか、毎朝のように図書館に来られるようになったクラウス王太子殿下。
もっさりと首筋まで伸ばした灰色の髪と瓶底丸眼鏡。背は高めのはずなのに猫背のためそんなに大きくも見えないので、王太子なのに威圧感どころか存在感も怪しい方です。
もっさりな焦げ茶色の髪で、同じく瓶底丸眼鏡の私としては、とてもホッと出来る相手でもあります。
出席必須の夜会に出ると、貴族のご令嬢ご令息たちは、それはそれは煌々しい方ばかりで、目が潰れそうになります。正直、もっさり地味仲間の殿下といるほうが心休まります。
色んな意味で、人は見た目が一番です。
朝の挨拶をしたあとは、各々で勉強や資料漁り。
出逢った頃は四人掛けの机を一つ挟んだ所で。
二ヵ月経つと、隣の机で。
半年経った今は、何故か同じ机の向かい側にいます。
殿下が机にドサドサと資料を置きはじめました。いつもながら壮観なほどに積み上げて行かれるのですが、二時間もすると、ほとんどの資料を確認し終えているのです。
速読の能力がとても羨ましいです。
「エレオノーラは今日も氾濫データ?」
「はい。そろそろまとめ終えますので、次は人工放水路の候補地の確認です」
「ん。伯爵は君のような娘がいて誇らしそうだよ」
お父様が国の災害対策部におり、興味を持った私が勝手に手伝っているのですが、少しでも役に立てているのなら嬉しい限りです。
「このまま文官目指すの?」
「どうでしょうか。お父様的には早くどこかの貴族と結婚して孫が……とか言っていますが」
王城文官としての採用試験は年一回のみ。男女関係なく採用されますが、資格は二十歳以上から。
来年に二十になりますし、試験を受けてみたい気持ちはあります。
「結婚!? え、え、でも……婚約者はいなかったよね!?」
クラウス殿下がガタリと立ち上がると前のめりになり、珍しく声を荒げていました。
「あ、はい。ですがそろそろ決めようかといった話はあるようですよ?」
「……………いつ……間に、……った…………なのに」
「はい? 何か仰いました?」
ボソリと呟かれたため、よく聞こえませんでした。クラウス殿下は気にしないでと言いますが、妙に焦ったような空気が気になって仕方ありません。
伸びきった前髪の下にある瓶底眼鏡。その隙間から金色の綺麗な瞳が一瞬だけこちらを睨んでいるような気がしました。
――――不機嫌?
「急用を思い出した。また明日ね」
「えっ、あ、はい。また――――」
パタパタと走り去る殿下を見送り、目の前に残された資料の山を見て呆然。
「あれ? これ、私が片付けるの…………?」
昨日の謎の後始末にもやもやしつつも、今日もいつも通りの氾濫案件の資料漁り。
「おはよう」
「……………………おはようございます」
昨日の恨みのせいで挨拶が遅れたのは、許してほしいです。
ジロリと殿下を睨むと、苦笑いされました。
「昨日の、聞いてる。ごめん」
「…………別にいいですけどねっ」
「んっ。エレオノーラのそういうとこ、好きだよ」
「っ!?」
殿下のもっさり灰色髪の隙間から見えるお顔が、燃えているように真っ赤です。
ってか、いま『好き』とか仰りやがりました?
「えっ? え?」
「昨日、伯爵に確認した。エレオノーラの婚約者は、まだ決まってないって。だから、その……」
「その?」
「私と……結婚してほしい」
「けっこん………………結婚んん!?」
クラウス殿下の言葉を復唱したところで、脳みそにやっと意味が届きました。
王太子殿下と、結婚。
――――私が? なぜ?
「ここで出逢って、ずっと好きだったんだ。君の勤勉さとか、話の内容とか……凄く、凄く好きなんだ」
「ででででも、殿下は…………将来国王陛下になられるので…………社交性も地位もあり、見た目も艶やかな方が望ましいかと…………」
「私は君がいい!」
ハッキリとそう言われて、嬉しくないはずもなく。
殿下と二人でゆっくりと過ごす図書館での時間は、私にとってとても幸せな時間で、いつか終わりはくるかもしれないけれど、一生大切にしたいと思えるかけがえのない時間だったのです。
そんな時間を、これからも続けられる?
「っ、わわわわわわたしも……殿下のことをお慕いしておりました」
顔が熱い。物凄く、熱い。
「っ! じゃぁ、今から私が婚約者でいいよね? 私と結婚してくれるよね? ねっ?」
「はっ、はい!」
「やった!」
もっさり灰色髪の隙間から見えるクラウス殿下のお顔は、真っ赤でいて破顔していました。
地味仲間でもある殿下ですが、両陛下は美男美女です。そもそものポテンシャルが高いせいか、ちょっとだけキラキラして見えました。
――――くっ、眩しい。
◇◆◇◆◇
衝撃の告白の翌日には、両家で婚約証書へサイン。
半年の婚約期間を経て、とうとう結婚式当日――――。
「…………誰!?」
「私だよ?」
「いや、誰っ!? 眩しっ! 目が潰れるっ!」
お父様とバージンロードを歩き、祭壇の前に到着。 そこで待っていたのは、白銀のサラサラヘアーオールバックで光り輝く金色の瞳を持った、どことなく見たことのある美男子。
髪はアフガン・ハウンドかというくらいサラキラしてるし、睫毛はビッシバッシ。瞳は蜂蜜かと思うくらいに透き通った金。
鼻筋はしっかりと通っており、形の良い唇はどこのご令嬢よりもうるツヤ桃色。
何この絶世の美男子は。
「いや、眼鏡外しただけだけど」
「その声はクラウス殿下!?」
「え……判断材料は声なの?」
声以外、いつもと違いすぎるのですが?
キラキラと光り過ぎですが、というか眼鏡はどこに!?
「キスするとき邪魔だろうから外したよ?」
「誰と!?」
「いや、エレオノーラ以外となんて、ありえないでしょ?」
「え……無理。無理無理無理」
婚約破棄したい! 物凄く、婚約破棄したい!
こんなにも眩しい人間と同じ空間にいるとか無理。
婚約破棄したい!
「んー、結婚式の途中じゃ、無理かな?」
「ですよね!」
――――婚約破棄したいっ。
そんな私の願いなど完全無視で結婚式は進み、目が潰れそうなほどに煌々としたクラウス殿下にブチュッと口づけされ、無事に結婚式が終了しました。
「慣れて?」
「無理、眩しい! 眼鏡かけてくださいっ!」
「んー? 面白いからやだ」
「あの状況で婚約破棄できなかったのは仕方ないので、離婚したいです!」
「んふふふ。面白いからやだ。逃さない」
ガリ勉丸眼鏡王子は多少ドS王子でもあり、絶世の美男子王子でもありました。
眩しいものに滅法弱い私としては、逃げたいのですが、どうやら無理なようです。
「ほら、ベッドに行くよ」
「べべベッドで何を……」
「初夜に決まってるでしょ?」
「むーりー!」
「んははは」
クラウス殿下は、なぜかとても楽しそうです。
―― fin ――
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ではでは、またいつか、何かの作品で。
笛路