転機は訪れる②
人生、いつどこでどんな経験が役に立つかわからないわけで、たまたま営業をしていた。たまたまマネジメントをするようなポジションを経験していた。たまたま研修時の指導員の覚えが良かった。そのおかげで、はじめましての業界入社1ヵ月で、私は20人編成の警備隊の責任者に抜擢されました。
この頃、精神的なプレッシャーって相当なものだったともいます。スーツのコーディネート間違えたって、契約したマンションの部屋に不具合があったってそうそう人は死にません。ですが、警備の現場で起きる最悪の出来事って『人命が失われる。』ことなんですよね。その最悪の事態が起きないように、訓練もしなくてはいけないですし、社員の意識付けもしなければいけないですし、そもそもこんな大人数預かったことなんてないですし。全力でサポートするとか言っていた会社の補助はほとんどなく、部下たちもほとんどが未経験者。頼ることができない中で、休みも返上して試行錯誤する日々でした。。。
で、はい。身体壊しました。自分でも思っていた以上にプレッシャー感じていたみたいです。そりゃそうですよね。人命がかかってくるかもしれないうえに、部下を持つということは、その部下たちの人生にかかわることですから。ここでの仕事がつらくつまらないものであれば、その人の時間はつらくてつまらないものですし、退職なんてさせちゃったら、その人の人生も狂う可能性が出てきます。
ある日。なんとなくのどの調子が悪くて咳が出ていたのですが、突然その咳き込みがひどくなったんですね。強い衝撃の後、目の前に床が見えました。朝礼後の配置前の時だったと記憶しています。あ、誰か倒れたんだな、巻き込まれたんだな、大丈夫かな。そう思っていたのですが、
「隊長大丈夫ですか!?」
誰かのこの一言で、自分が咳き込んだまま倒れてしまったことを理解しました。すぐに起き上がって、数分後には自分でもびっくりするくらいなんともなくなるんですが、そうやって咳き込んで一瞬気を失って倒れることが頻発するようになりました。
咳き込んで失神する。自分でも体験したことない症状に怖くなり、私は初めて『呼吸器科』を受信しました。たまたまいい先生に出会え、すぐに診断が出ました。
『咳失神』
『咳喘息』
それが診断された病名でした。咳込みが激しいと呼吸ができなくなり、酸欠になって一瞬気を失うそうです。ただ、咳が収まれば問題ないので、数分後には嘘のように何事もなく元に戻ります。咳が出るのは風邪などではなく喘息の症状で、どちらも『極度のストレス』からくるものだそうでした。
この時、私の心に不安とか苦しみとか、そういう感情ではなく、湧き上がってきたのは不思議と『怒り』の感情でした。
『こんな状況になるまでやらせ、何のサポートもしてこない上司が悪い。何かあったら全部上司のせいにして、部下も自分も守ろう。』
と思ったんですね。私のたぶんいいところなんでしょうけど、ストレスを抱えやすい性格だというのは自分でも自覚しているんです。でも、そのストレスが限界ぎりぎりまで来ると、心が完全に壊れる前にある種の防御反応が出るみたいで、『THE・必殺 責任転嫁』が発動されます。
メディア関係の営業をしていたときは、営業中に自然と涙が出てきたり、ストレスとプレッシャーで壊れそうになって、訪問先のインターホン鳴らしたと同時に営業したくなくて嘔吐しちゃった時があるんですね。本当につらかったんだと思うんですが、その時の取引先のおばさまについつい営業がつらいということをこぼしちゃったんですよ。飲み物をいただきながらおばさまにいただいた言葉が、
「ご家族もあって、仕事をしなきゃいけないのはわかるんだけど、こんなになってまでやらなきゃいけない仕事なの?」
というものでした。ああ、その通りだよなと思いました。こんなこと仕事にしているような酷い会社で、わざわざ身体壊してまでやっていくような仕事じゃないなって考え、翌日に退職願出したんですよね。訪問先で初対面の男がいきなり嘔吐していたなんて、迷惑この上ない状況なのに、飲み物をくださったばかりか後処理までやっていただいて、もうどのおうちの方か忘れてしまったのですが、本当に感謝しています。その節はご迷惑をおかけしました。お陰様で今では元気にやっております。
そういうわけで、今回も無事(?)に上司のせいにできた私は、心がぐっと軽くなりました。やることは一緒なんですが、20代中心で、警備業も社会人も初めてですみたいな子たちに、どうやってプロ意識を持たせようかと悩みに悩み、実践した単純明快な方法、それは『挨拶』でした。
挨拶って、①誰にでもできて、②すぐに出来て、③特別な技術はいらず、④やらないよりやった方がいいことで、⑤誰の迷惑にもならず、⑥お金もかからない。このことを、全員と面談して納得してもらい、とにかく感じよく元気のいい挨拶をするように指導しました。
不思議なもので、元気に明るく挨拶をしていると、相手も返事をくれることが多いですし、勝手に評判も良くなっていきます。
「なんか、最近の警備隊の人たち雰囲気よくなったよね。」
そんな声が聞こえ始めると、ある日、クライアント先の役員さんが来訪され、
「いろいろな施設を回ったが、ここの警備隊は実に気持ちのいい挨拶をしてくれて、皆さん元気ににこにこ働いていらっしゃる。今日は楽しく仕事ができた。」
と、お褒めのお言葉をいただいたんですね。そうしたらみんな喜んじゃって、仕事の質は上がるし、自己研鑽しますって資格取得なんかし始めちゃうし、私の預かった警備隊は、クライアント様先の数ある警備隊の中でも1番の評価をいただくに至りました。
今、最近の情報を聞いていると、『挨拶なんてタイパ(タイムパフォーマンス)が悪い。』とかで、ロクに挨拶もしない方が増えているそうですね。でも、若い皆さん、挨拶って人間関係を円滑に気づくために間違いなく必要なコミュニケーションです。先に述べた通りで、挨拶ひとつで、お金も時間もかけずに、最大級の評価を得ることができます。
お金も時間もかけずに『評価』される。これこそ、最高のタイパじゃないですか? よく知らずに使ってますけど。
あ・・・明るく
い・・・いつでも
さ・・・先に言えば
つ・・・つらいことはない
昔なんかで読んだっけかな。まとめると、
・ストレスはためてもいいことないので、発散できるような思考回路を持つこと。
・挨拶は手間も技術もお金もかからない最高のパフォーマンス、元気に明るく実践しよう。
・人生の転機はどこで起きるかわかりません。タイミングを見間違うな。
ジメジメした気持ちは挨拶で吹き飛ばして、いやでも仕事しなきゃいけないんだから、朝は元気に挨拶して、楽しく仕事をした方が『心の健康』にいいってことです。それが30歳、40歳、50歳と年齢を重ねるにつれ『人格』につながっていきます。
「お疲れ様です!」
「・・・別に疲れてない。」←昔、気難しい上司に言われたムカつく一言。
こういうやり取りにならないようにしてくださいね!