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若人よ! ~学生のうちから考えてほしい事~ 【完結】(就職や将来へのヒント集)  作者: 水野忠


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クレーム体験談

 JR西日本など、多くの企業が『カスタマーハラスメント』に対しては毅然とした対応をすると発表しました。それに引き続き、様々な会社が理不尽なクレームには『NO』を突き付ける方針を公言し始めています。接客や営業を経験してきた身としては、それはすごくいい試みだと思います。


『お客様は神様です。』


 かつて、そうおっしゃった大物歌手がいらっしゃいました。私も含め、多くの接客や販売、営業関係者がこの『呪いの言葉』に苦しんできたと思います。もう営業職じゃないのでぶっちゃげて言いますが、確かに、拝みたくなるようなお客様はいらっしゃいました。急な依頼で、取引後に残業して対応していましたら、申し訳なかったとお寿司の差し入れをしてくださった方もいましたし、私の対応に感動されてお食事をご馳走してくれた方もいらっしゃいました。


 ただ、いくら神様と言っても中には『貧乏神』とか『鼻紙』みたいな方もいるわけでして、お客様だからって何でも許されると思うなよ! と言いたくなる方も一杯いらっしゃいました。


 ある日の出来事です。私がまだ23歳とか24歳くらいの頃でした。礼服を購入されて、納品も完了したお客様からお電話があり、礼服にサービスで付いてくるネクタイセットを受け取っていないと申し出がありました。確認したところ、担当した女性従業員が渡し忘れていたようなので、その日、店舗には主任と私しか勤務していない日でしたので、私がお届けに上がったんです。お電話をいただいてから15分くらいで訪問したところ、なぜかブチ切れていらっしゃる老夫婦が。。。


「こんなに時間がかかって何していやがった! 呼んだらすぐに来い!」

「お前はあの担当した女じゃないな。何しに来た!」


 女性従業員は本日お休みで、電話を受けたのが自分だったのでお届けに上がったことをお伝えしたのですが、どうやら担当した本人が来ないのが気に入らなかったらしく、その後夫婦の中では、『渡し忘れたミスがあったのだから、担当者本人か責任者が届けるのが筋だろう。』ということなのでしょうね。


「お前みたいな雑魚が来ても話にならん。その前に頭が高い!!」


 と、男性に肩をつかまれ強制的に跪かされ、そのまま土下座させられました。『頭が高い』とか、時代劇でしか聞いたことなかったんですが、後にも先にも実際に聞いたのはその時だけですね。そのまま、玄関の石畳の上に正座させられて、ご夫婦から交互に罵倒されることたっぷり2時間。今考えるとよくあれだけ罵詈雑言が続くものだと思いますが、当時はそのまま殺されるんじゃないかって怖かったですね。


 別に、少し大きな家でしたが普通のご家庭のようではありました。やの付く自由業の方ではなかったと思いますが、やってることはそれ以上ですね。


 2時間の正座の後、


「お前みたいな雑魚じゃ話にならん。責任者呼んで出直してこい!」


 と、玄関に取り残され、電気も消され、痛くなった足でヨロヨロと車に戻りました。足がしびれて運転が危なそうだったので、とりあえず、休みだった店長に連絡を入れてすぐに来てほしいと、クレームの件を報告しました。


 だいぶ渋られましたが、とりあえず行くというので待っていたんですが、そこからまた1時間以上かかってるわけですよ。後で聞いたら、そこまでブチ切れるお客様なんてそうそういないと思っていたそうです。説明したんですが、大げさに言ってるんだろうくらいにしか思わなかったんですよね。それで、女性従業員も交えて合流して、なぜか私も同行して再訪問。


「馬鹿面が雁首揃えて何しにきやがった!!」


 はい。相変わらずブチ切れていらっしゃいます。ここで人生2度目の『図が高い!』を聞くことになるんですが、そこから三人そろって仲良く正座でお説教が1時間半。私合計3時間半の正座ですよ。女性従業員は泣き出すし、その鳴いたことに関してまたブチ切れていらっしゃいますし、内容けっこう覚えてるんで書き込みたいんですが、コンプライアンスに引っ掛かるであろう罵詈雑言なんで詳細は書きませんが、そのまま飛び降りしてもみんな納得するよねってくらいの罵詈雑言と人格否定でした。


 とどめには、洗濯桶に入れた山盛の粗塩を、お相撲さんかなってくらいの量と勢いで顔面に投げ付けられ外に追い出されました。目に入って染みるわ耳に入って聞こえないわいたいわで散々ですね。塩まみれで店舗に戻った時、何時間も一人で頑張っていた主任が唖然としたのは言うまでもありません。


 もう20年以上前の話なんで、今では笑い話にできるんですが、そういう人もいるんですよ。世の中には。今だったら逆に訴えてやるくらいのことはするんでしょうけど、まだまだ若僧だった私。加えて、お客様至上主義の会社と洗脳教育。お客様には逆らえない呪縛にかかっていたんですね。


 さて、今回のこのお話。今だとどういうことになるのか少し解説です。


① 罵詈雑言 ⇒ 刑法231条 侮辱罪 1年以下の懲役か30万以下の罰金

② 玄関先で扉を閉めて正座 ⇒ 刑法220条 逮捕監禁罪 3月以上7年以下の懲役

③ 正座や土下座を強制 ⇒ 刑法233条 強要罪 3年以下の懲役

➃ 塩を顔面に投げつける ⇒ 刑法208条 暴行罪 2年以下の懲役か30万以下の罰金


 うん。極悪人じゃないか。。。今なら間違いなく訴えられますね。当時は私もまだ世間知らずの若造でしたので、録音など記録しておくことに考えも至らず、とにかく耐え忍ぶしかできませんでした。


 さて、まとめますと。こういう理不尽MAXな人が、残念ながら現在においても存在しています。これからお客様商売を志す方がいらっしゃいましたら、『お客様は神様です。が、いろいろな神様がいる。』ということを覚えておいてほしいのと、危なそうなら上席に報告する事と、理不尽な要求には乗らなくてもいいということを押さえておいてほしいです。


 上記のお客様ですが、今の私だったらどうするか。上司に電話するふりしてボイスレコーダーのアプリ起動して、証拠抑えたうえで警察に連絡ですね。しかるべき大人の対応をいたします。


 世の中、社会に出ると本当に理不尽なことが多いです。中には泣き寝入りして我慢してしまう人もいるでしょうし、当時の私のように『対応策』を知らずに我慢する人もいるでしょう。『悪』は悪として毅然として対応し、しかるべき機関に対応してもらうようにしましょう。自分が傷つかないようにしてくださいね。

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