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[参]暁の想い (第五十七話 変わりゆく心、後談)

 なんなの。皆、本当になんなの?

 拓磨様も雫も、寄ってたかって華葉、華葉って。


 もうその名前は聞きたくない。拓磨様の一番は私でなくちゃ嫌なの。

 全部あの子に託せだなんて、そんなの考えたくもないのに……!



 雫の言葉に耐えきれず、私は拓磨様の屋敷を飛び出してきてしまった。

 式神であることを疎ましく思っているのに、こんな時ばかりは自分が鳥であったことに感謝をしている。都合が良すぎる考えなのは分かっているけど、私はどうしても大人になんてなれなかった。


 しばらく皆と顔を合わせたくないな。

 いっそもう、帰るのやめようかな……。


 そんなことを思いながら、当てもなくただ朦朧と空を飛び回っている私。

 とりあえず今は、頭の中を空っぽにして、何も考えたくなかった。


 私の日付感覚が狂っていなければ、今日は拓磨様の魁最終試験日のはず。あの方のことだから、きっと最終試験も難なく突破することでしょう。

 だって拓磨様の上を行く陰陽師なんて、この都にはいないんだから。


 私の自慢の主、安曇拓磨様。ずっとずっとお慕いしてきた、愛しい人。


 本当は私だって、拓磨様が決めたことを応援したいに決まってるじゃない。雫が無理をして屋敷を飛び出し、魁の停止を求めたにも関わらず、あの方は試験の受験を決めた。相当の理由であれば、私も雫のように納得できたはず。

 でもその理由が華葉のためだなんて、どうやって受け入れたら良いのですか。


 あなたにとって〝理由〟があるとすれば、全て私たち家(・)族(・)の(・)た(・)め(・)だと思っていた。

 私はあなたの家族になるべくして、なったのに。


 拓磨様は覚えていないでしょうね。私はあなたの式神になるよりももっと前に、あなたに一度お会いしているのです。

 里山で人間が仕掛けた罠にはまった山鳥の私を、幼いあなたは手に怪我を負うのも構わず助けてくださった。そしてあの時のお優しい瞳が忘れられず、私はあなたに恋をした。


 そう、一目惚れです。私はあの時から拓磨様がずっと好きだった。

 だから御礼がしたくて必死に彼を探して、ようやく見つけたのに私は烏の襲撃に遭い、命を落とした。


 でも再び拓磨様は助けにきてくれた。

 そして彼が陰陽師であると気づいた私は、精霊化を望み、式神となったのです。


 大好きなあなたと一緒にいたい。これが私が式神になった理由。

 あなたの一番になれないなら、私なんて、もう……。



 結局この日は帰り辛くて、夜は高い木の上で眠った。夜通し鳥の姿でいるのは久しぶりで、懐かしく思った。

 次の日も、帰るキッカケを完全に失った私は、町中を鳥と人の姿を変えながら一人彷徨った。その途中に風の噂で魁が拓磨様に決まったことを聞いた。


 ほらね、やっぱり。思ったとおり。

 良かったね華葉、あなたのために拓磨様は自分を犠牲になさったのよ。


 あなたにそんな価値があるの? 妖怪のくせに拓磨様を独り占めするなんて。

 そもそも妖怪であるのに、陰陽師である彼にお世話になろうだなんて、最初から無理だったのよ。きっと拓磨様はあの子に騙されている、そうに違いない。


 ……違う、そうじゃない。分かってる、あの方がお優しいからだ。


 あぁ、私が式神でなく人であれば、彼と結ばれることができるのに。

 私はどうして式神なのですか?


〝私たちは所詮、拓磨様によって生かされている作りモノですわ。暁〟


 雫の言葉が胸に刺さる。

 所詮私は、ツクリモノ――――。



「おや、暁ではないか」


 川岸で自暴自棄になっていた時、雅章様に出会った。そして雅章様は私に、魁であればどんな術も思いのままと言う。


 知らなかった。それなら私を人にしてくれることも可能なの?

 そうなれば私、拓磨様と夫婦にもなれるはず。そんな期待に胸が膨らんだ。


「しかし……其方が懸念するとおり、華葉がいる限りは拓磨と一緒になれぬな」

『では、どうしたら良いのですか?』


 最後の味方はこの人しかいないと思った私は、彼の薄ら笑いに気づきもしなかった。私は雅章様のある要望を聞き、それを承諾してしまった。


 この時、私がもっと雅章様に注意していれば。この人に出会わなければ。

 それよりも、私がふて腐れずに早く帰って『ごめんなさい』と言っていれば。



 ――後悔は当たり前のように、先には立たないものなのだ。


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