表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖かし桜が散るまでに  ~人嫌いの陰陽師と、人を愛した妖怪  作者: 貴良 一葉
第二幕 開花 ~絢爛、咲き乱れの時~
30/97

第二十三話 心力を作る方法

 〝多量の心力(しんりょく)を消費しながら、多量の心力を作り上げる〟


 そう告げて中庭のド真ん中を陣取った私の後に、華葉かよう・暁・雫の三人娘が続いてやってきた。

 その様子を後ろ目で確認しながら、ふぅと小さく溜め息を吐きつつ空を見上げる。


 雷龍らいりゅうの一戦後、早朝の修行をしながらずっと考えていた。どうやったら奴に勝てるのか、どうすればもっと強くなれるのか。

 雷龍の妖力は桁違いだ。何らかの理由で父上から奪った心力の分が減っていたとしても、今の私が持つ心力では到底敵うものではない。それは先日の戦闘でも嫌というほど思い知ったところだ。


 勿論、修行を続ければ自ずと心力は上がっていくだろうが、それはごく僅かな量だ。どれだけ毎日修行を重ねても急激に増える代物ではない。


 そして、それ以前に。


拓磨たくま様。心力を消費しながら作るとは、どうゆうことですの?』


 空を見上げたまま動かない私の背に、雫が問いかけた。


「雷龍を倒すには心力を増やすだけじゃ駄目だ。いくら増えたところで、奴と戦っている間に使い切ってしまえば終わりだからな。戦いながら作ることが必須なのだ」


 奴を倒せるくらいの心力量にするには、日頃の修行では途方もない時間がかかってしまう。その前にこちらがやられてしまうのは明白だ。

 とすれば、あとは〝使い切らないように〟するしかない。


『心力を使いながら、作る……? え? そんなこと出来るんですか?』

「誰しも日頃から常に心力を消費しているものだ。式神を動かしていたり、屋敷に結界を張ったりしているからな。その上で修行を行っているのだから、出来なくはないだろう」


 暁の問いに答えると、彼女は感心したような抜けた表情を浮かべた。

 簡単に答えたが、実際やるとなるとかなり厄介だ。例えるなら、飯を作りながら食うようなもの。余程の食い意地を張っている奴はさて置き、普通であれば「作る」と「食う」の動作を分けるはずだ。

 仮に少量であればその作業は造作ないであろうが、大食いが大量に飯を作りながらとなると一気に困難となる。そして私は行うべきは正にそれだ。


 ……いかん。飯に例えたばかりに、私が食い意地を張っているようではないか。


「それで、どうやってやると言うのだ? 雷龍は待ってくれぬぞ。我々は何をすれば良い、拓磨」


 華葉に急かされ軽く咳払いをした。全く、何故妖怪である彼女の方がしっかりしているのか。

 私はクルリと彼女たちの方を振り返った。実のところ格好つけてここに立ったものの、これと言って確たる方法が分かっているわけではない。恐らくはそんな方法を誰も知りはしない、前代未聞の挑戦なのだ。

 思い当たる方法をシラミ潰しに実践し、自らの力で探していくしかない。


「これから私は、まず手始めに五芒結星ごぼうけっせいを発動させ、その中で心力を作ることを試みる」


 五芒結星自体が心力を大きく消費する術だ。式神の維持、結界の維持、五芒結星の発動。これほどの消費の中で心力を作る精神統一を行ってみれば、あるいは何か成果でも課題でも見えてくるかも知れぬ。

 時間がない今だからこそ、とにかく色々やってみることだ。大丈夫、私にはこうして目の前に力を貸してくれる家族がいる。


「華葉。お前には私が心力を作ることに失敗した場合、お前のあの術で私に心力を送ってほしいのだが、頼めるか?」

「なるほど、拓磨の心力を切らさないように見張れ。……ということだな? 安心しろ、拓磨のためなら何でもやる」


 華葉のあの心力回復術は、今回の修行には欠かせない力だ。結界は兎も角としても、暁と雫を消すわけにはいかないからな。この無謀とも言えるやり方が試せるのも、彼女の存在は大きく心強い。


「雫には、父上が残した書物で調べてほしいことがある」

たける様の、ですか』


 意外な頼み事をされた雫は、少し目を見開いた。これまで私は、私を含め母上の書物を読み漁らせていたものの、父上の書物に手をつけることはあまりなかったからだ。

 だが考えてみれば、あの男が莫大な心力を有したには、何か特別な方法があったはずなのだ。あのクソ親父の力を借りるのは不本意だが、今は手段を選んでいる場合ではない。


 父上が書物に残した根拠などもないが、調べてみる価値は十分ある。


『心力についての書物ですね。承知しましたわ』

『拓磨様! 私は、私は?』


 雫の横で暁が今か今かとピョコピョコ飛び跳ねていた。

 やる気満々のようだが、彼女には地味な担当しか残されておらず、正直かなり言いづらい。


「暁は焚き火の番と、妖気の監視をしてくれ」

『え……えぇー!?』


 案の定、仕事内容を聞いた彼女はうな垂れてしまった。

 しかしこれは重要なことだ。五芒結星には五つの気が不可欠。夜でもない限り近くには松明などの火の気がなく、地味に火を焚き続けるしか方法がない。


 そして妖気は、五芒結星で集中している間、恐らく私は五行以外の気まで把握出来なくなるであろうから、妖怪の出現に気付けない状況になる。雑魚妖怪なら他の陰陽師に任せれば良いが、ぬえ白狼はくろう並の妖怪が出ないとも限らない。そこに私が出陣しないのはかなり不自然だ。

 暁であれば私よりも、遠く僅かな妖気にも気付くことが出来る。地味であるが彼女にしか出来ないのだ。


『あーかーつーき。何ですの、その態度は。ご命令ですわよ』

『うぅ、……分かりました。謹んでお受けします』


 雫に諭され、暁は渋々承諾した。


 早速彼女たちは持ち場に付き、離れた一角から暁が作った焚き火の炎が上がったところで、全ての準備は整った。初めから上手くいくとは思ってないが、それでも期待と不安が交錯する。


 まず予め〝金〟の気を探った。今は戦闘の場ではない、焦る必要はない。

 右側、正面、左側……。――――捉えた。


「始めるぞ」


 一の点、青木せいもく

 二の点、黄土おうど

 三の点、黒水こくすい

 四の点、赤火せきか

 五の点、白金はっこん


 五行点、掌握。


「急々如律令(にょりつりょう)、五芒結星……!」


 私の周りを、赤白い光の星が囲った。




「……心力を回復する式神? 拓磨がですか!?」


 その頃、陰陽寮・御頭おかしらの間では些か裏返った僕の声が響き渡っていた。


 月光妖怪との戦いで負った傷もようやく完治し、身体も動かせるようになった僕は、闇烏やみがらすから父上の呼び出しを聞きここへ向かったわけだが。

 そこで父上から聞かされた言葉に、僕は心底驚いてしまったのだ。


蒼士そうし、声が大きいよ」

「し、失礼。しかし、そんな報告これまで一度も。……おい闇烏、お前の仕事は情報収集であろう!」


 闇烏をキツく睨みつけると、彼はバツが悪そうに震え上がった。ところが父上に「まぁまぁ」と宥めるように押さえられてしまい、僕は再び父上に視線を戻した。


「闇烏を叱りつけるな。私が彼を口止めさせておったのだ、許せ」


 そんな話を聞けば、お前は身体に無理してでも拓磨に追いつこうとするだろう? と言われると、僕はそれ以上何も言えなくなってしまった。

 恥ずかしいが父上の言うとおりだ。相手が拓磨のこととなると直ぐに頭に血が昇ってしまう、僕の性分を理解した父上の判断は正しい。僕の身体を心配したその優しさに、ただ感謝をするばかりだ。


「ですが妙ですね。式神には術が使えないとされておりますが」

「そう、それなのだ。このところ拓磨は屋敷の結界も強化しており、彼の心力を持たなければ入れなくなっておる」


 心力を回復する式神……。そう言えば前に、鵺との戦いで奴は急激に心力を回復したことがあったが、あれもその式神の力なのだろうか。

 あの時そんな式神の姿はなかったと思うが。むしろ、別の妖気を感じた覚えがある。


 いずれにせよ、屋敷に父上の使いも入れぬとは。

 拓磨、何を隠している?


「調べてくれようか? 蒼士」

「御意」


 僕は父上に一礼し、闇烏と共にその場を立ち去った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓↓↓ランキングに参加しております。よろしければ応援お願いいたします!↓↓↓
小説家になろう 勝手にランキング
cont_access.php?citi_cont_id=645757984&size=88    ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ