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妖かし桜が散るまでに  ~人嫌いの陰陽師と、人を愛した妖怪  作者: 貴良 一葉
第一幕 花芽 ~薄紅の花が開く時~
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第零話 桜を愛でる者 ※表紙あり(末筆)

 其方、花見と言えば何の花を思い浮かべる?


 ……あぁ、言わなくても良い。花は四季折々で数えきれぬほどあろう。

 好みの花も人それぞれ、聞いたところで十人十色だ。


 だが恐らく〝花見〟と言うならば、多くの者が同じ花を思い浮かべるはずだ。


 淡い紅の、小さくて可憐な花。

 

 私が生きた平安時代はこの花を「花が()()木」と呼び、「咲く」に複数形の「」を語尾につけたものを転じて、呼び名をつけたそうだ。


 もうお分かりだな? そう、その花は「サクラ」という。

 この時代、〝花〟と言えば桜のことを示すほど、桜は花の代名詞であった。


 多くの人は言う。「桜は散るからこそ美しい」と。

 あぁ、確かにそうだ。


 だが、忘れてくれるな? 花が舞い散った後も桜は生きているのだ。


 青々とした葉を付け、陽の恵みを蓄える季節。

 新芽を出し、紅葉が始まる静かな季節。

 凍えるような寒さに耐え、次の陽を夢見る季節。


 そんな途方もない時を待ち、やっと再び開いた花は五日ほどで散ってゆく。

 だから人は彼らを「儚い」というのだ。


 見よ、彼らの生命力を。何という力強さ。何という忍耐。



 しかし、花の散った桜を注目する人が、どれほどいよう。

 花のない桜を(さかな)にするものが、どれほどいよう。

 彼らは今だって、こんなにも懸命に生きているのに。


 ――私は知っている、〝彼〟はそんな桜をどんな時も愛でているのを。

 その温かな目に見つめられ、優しい声をかけられ、大切に触れられて、桜はどんなに幸せであったろう。


 桜もずっと〝彼〟を見守ってきた。

 幼き頃に出会ってから、苦しい修行に励んだ時も、愛する母を亡くした時も、その後も必死に生きたことも、ずっと見守ってきた。


 桜は、この男を好いていたのである。


 ……あぁ、何故私がこんな話をしているかって?

 何故だろうな、不思議と桜を見ていると、いつもこのような話をしてしまうのだ。



 さて、其方はもっと〝彼〟のことを知りたくはないか?

 ならばそろそろ、私はこの辺りでお(いとま)しよう。


 しかしどうかな?

 彼は家族と桜以外とんと興味のない、妖怪討伐ばかりの陰陽馬鹿ときた。

 其方の相手もしてくれるかどうか。


 ……まぁ待て、彼は決して悪い人ではない。

 ただ、ちょっとばかり心を閉ざしてしまっていてな。家族としか口を聞かぬのだ。



 ほら、見ろ。彼がまた庭の桜を見上げているぞ。

 もうすぐ咲く桜、楽しみであろうな。


 私の話はここまでだ。

 ではまた、会う時まで。ゆるりとしていくが良い。



  挿絵(By みてみん)

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