かたわれ
それは人魚の恋に似ていた
叶ってはいけない恋になんて意味はあるのだろうか。
スマホについた揺れるストラップを眺めながら考える。
ありきたりな、男女のキャラにお揃いの衣装を着せたペアストラップ。
片割れの行き先を想う。
急に兄弟が増えたのは中学生の時だった。
それまで母親との2人家族だったのに、ある日改まった母親に言われたのは
「再婚しようと思うの」
家族の増員の提案だった。正直、物心ついてからここまで2人で生きてきたのに今更増えることに抵抗感がなかったわけではなかったが、それでも。ここまで母親が自分のために生きてきてくれたことが分からないほど子供ではなかった。
再婚だったのは母だけではなかった。そして、向こうにも子供がいた。
急に出来た「兄」という存在に慣れず、私は彼を「君」と呼んでいた。
母と義父は嗜めたが、彼は笑ってそれを受け入れた。
どこかぎこちなく私たちは家族になっていった。
君が卒業旅行に行った時、買ってきたのがペアストラップだった。
「はい、お土産」
渡されたものを見て思わず絶句する。
彼女がいる気配がないから知識がないかもとは思っていたがここまでだったとは。
既に向こうのスマホに付けられている片割れを見ながら問う。
「これの意味知ってるの?カップルで「知ってるよ」」
真っ白になった頭で見た君の顔はもう覚えてなかったけど。
それでも君は泣いていなかった。
その後、君の態度は以前と何も変わらず。
身構えていた私はいっそ拍子抜けしたものだった。
その時から今まで気付かなかった君の優しさに気づいていった。
与えられているのが当たり前すぎて気付けていなかっただけだった。
気付いてしまえば、募る想いが増すことを止めることはできなかった。
「好きです」
ぽろりこぼれ落ちようとした私の言葉は相手の唇に吸い込まれていった。
近すぎて、君の顔を見ることは叶わなかったけど。
それでも君は泣いていなかった。
いつの間にか君は地方に就職を決めていた。
何も教えてはもらえなかった。
教えてもらえると思わなかった。
引っ越しの日、ぼろぼろと涙をこぼす私をみて母と義父が笑う。
彼らは私の涙の本当の意味を知らない。
涙で滲む視界で君の顔は分からなかったけど。
それでも君は泣かなかった。
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お題
「それは人魚の恋に似ていた」で始まり、「それでも君は泣かなかった」で終わる物語を書いて欲しいです。
作成:酒