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ヴァンパイアお嬢様の凱旋  作者: みゅにえ〜る
優しいお嬢さん
3/12

前菜にぴったりですわ♪

(衣類の次は、やっぱり住処が欲しいですわ。ですが…)


キリエは周囲を見回す。

この国のどの建物も古びており、崩れてしまったきり放置されている物もある。


(良い場所を買って改装するか、土地を買って新居を立てる事になりそうですわね。)


キリエはポケットから、1枚の金貨を取り出す。

残りはこれ1枚。

両替などとてもこの国には期待できないので、使い道は慎重に選ぶ必要がある。


(それにしても、何故わたくしは地上に居たのでしょう。安置省に転売ヤーでも居たのでしょうか。)


先ずは魔界に帰る。

それがキリエの目下の目標である。


「お願い誰か!息子を助けて!」


中年女性の叫ぶ声が、キリエの耳に届く。

正義感と言うよりも好奇心から、キリエは声のした方へと向かった。

声の主は、既に崩れかけているビルの前で泣いている。

その隣には、困り果てた様子の若い男も居た。


「どうかしたんですの?」


キリエは女性に聞く。

その場には声を聞きつけ助けに来た物も居なければ、キリエの様な野次馬も殆ど居なかった。

此処はそう言う国だった。


「息子とその友達がこの中に居るんです!お願いです、助けてやって下さい!」


女性は悲痛に訴える。

それを、所有者が制止する。


「無理ですよ奥さん!この建物はダンジョン化してしまっているんです!」


「じゃあ貴方が冒険者を依頼して頂戴!貴方、此処の所有者なのでしょう!?」


「…すみません、今の僕に、そんなお金は…」


「じゃあどうするのよ!」


二人の喧嘩をよそに、キリエは廃ビルの入り口付近に立ち、すんすんと鼻をならす。


「お母さん。その子供達は4人ですの?」


「ええ、そうです!今頃何処かで怯えている筈です!お願いです!助けて下さい!」


キリエは次に、男の方を向く。


「この建物は貴方の物ですのよね。」


「ええ、まあ。とは言っても、無理やり押し付けられただけですが。」


「わたくしがこのダンジョンを潰しますので、この細長い建物をわたくしに下さいな。」


「え?貴女、冒険者なんですか!?」


「早く答えて下さいまし。」


「ええ!勿論ですとも!」


返答を聞いたキリエの口が、にいっと笑みを作る。


(かつてはただただ鬱陶しかっただけのダンジョン化現象に、これ程までの好感を持ったのは初めてですの。ふふ。)


キリエの体が黒い霧に包まれる。

5秒後。

霧が晴れ、中からゴシックロリータドレス姿に戻ったキリエが現れる。

キリエの右手に鋭く赤い光が束なり、そこに精巧な薔薇の彫刻細工で彩られた真紅の剣を形作る。

キリエの左手に鈍く黒い霧が集まり、そこに精巧な髑髏と薔薇の彫刻細工で着飾った黒色のピストルを形作る。


「【紅剣シャルロテ】、【死銃メシェドラ】。久し振りに出番ですのよ!」


そう言ってキリエは、廃ビルの中へと歩み入った。


石製の一本道。

両サイドには浮遊する壁があるが、四角い穴が空いていたり、上部と下部に隙間があったりと、飾り程度の機能しか果たしていない。

天井は無く、青黒い空は何処までも続いている。

壁の外側も同様で、四角い窓から見えるのは、少量の浮遊する石と、上にも横にも下にも何処までも続く青黒い空間だけである。


「う…何ですの此処…薄ら寒いですの…」


キリエの背後でドアが閉じ、そのまま消えて無くなる。

仮に次に誰かが入ってくるとしても、此処とは別の場所から侵入するだろう。


「おーい!誰か居るんですのー?」


キリエは呼ぶが、返事は無い。

少しつまらなそうな顔をすると、キリエはそのまま歩み始めた。

コツコツと言う、ブーツの奏でる華やかな靴音が虚無に響く。

5分程進むと、少し後ろまでは一本道だった物が、大きな広場になった。

その広場は円形で、中央には茶色い獣の皮を巻いて作られた大きなテントがあり、その周囲にはふた周りほど小さいテントが散立している。

キリエがその広場に足を踏み入れた瞬間、キリエの背後の道は浮力を失い奈落に落下し、テントからは続々と敵が出てきた。


「まあ可愛い♪ゴブリンですの♪」


緑色の肌。

小柄な身体。

ギラギラとした大きな黄色い瞳。

獣の皮や骨で出来た、無骨で原始的な武器や防具。

下級魔族、[ゴブリン]である。


「これは武器なんて持っている場合じゃありませんわね♪」


キリエが両手を離すと、剣は光となって消え、銃は霧となって解けた。


「腹を満たす肉を食らう時は、祝福を受けし銀食器を持って食すること。飢えを満たす血を喰らう時は、武具は持たず、自らの手と牙で喰らう事。魔族に伝わる伝統的なマナーですわ♪」


中央の大きなテントが内側から破壊され、体長3m程の恰幅の良いゴブリンが姿を現す。

ゴブリンの長、[ゴブリンロード]である。


「命の恵みを齎し給うこの縁に、心よりの感謝を。《魔速》」


紅い稲光を伴い、キリエは最も遠くに居たゴブリンの背後まで一瞬で移動する。

ゴブリンが反応する間も与えずに、キリエはその緑色の小さな体を抱き上げ、細く筋張った首に齧り付く。

哀れなゴブリンは金切り声をあげて抵抗するが、優しく抱き上げているキリエの手を振り払う事は叶わない。

周囲のゴブリンは各々の武器(丸太を切り出しただけの棍棒や、長年手入れされていない剣)でキリエを攻撃し続けるが、漆黒のゴスロリドレスに軽いシワが出来る以上の事は起こらなかった。

1万5000年振りの食事を楽しむキリエは、どんなに切られ殴られても彫像の様に少しも動かず、ただただ喉と腹を血で満たしていた。


(あっさりとした塩味と、舌の奥に広がるほのかな酸味。飲み込む時に喉の奥より湧き上がる、癖のない旨味。おやつ感覚で飲み干せる、腹慣らしにはぴったりの食事ですわ♪)


木乃伊になったゴブリンを、キリエは場外まで投げ捨てる。

頭の足りないゴブリン達は相変わらずキリエを攻撃し続けていたので、キリエはその中からもう1体拾い上げ、4秒程で飲み干す。

3体、4体と犠牲者が増えていく毎に、漸くゴブリン達の中に恐怖が芽生え始める。

しかし、この場所にキリエの逃げ場が無いのと同じ様に、ゴブリン達の逃げ場も無い。

故にゴブリン達は、出てきたテントの中に引き篭もっていった。


「ダンジョンと言うのは本当にいい場所ですわ〜♪向こうから獲物がやってくるんですもの。貴方もそう思うでしょう?」


キリエはゴブリンロードを見上げる。

ゴブリンロードの習性上、手下が一定数倒されない限り動く事は無い。

そんな無能王にキリエは微笑みかけると、狩りを続けた。


「もしも〜し♪誰か居るんですの〜?」


キリエはそう言って、テントを地面から片手で引き剥がす。

そこには、頭を抱え蹲っているゴブリンが居た。


「見つけた〜♪」


キリエの目は半分閉じ、声は少しとろけている。

吸血を繰り返した吸血鬼は、トランス状態に陥る。

気分は高揚し、意識は混濁し、味覚と嗅覚は鋭くなり、それ以外は極端に鈍くなる。


「あはぁ。あははははぁ。これこれ…これですわぁ…」


6体目を飲み干したキリエの意識は、夢見心地に落ちる。

視界はぼやけ、意思と現実がかけ離れていき、キリエは本能のままに血を喰らう化け物に落ちる。

10体目を飲み干し、雑魚が残り2体になった時、漸くゴブリンロードがその背負っていた棍棒を構える。


「…ん〜?」


キリエの身体が一瞬だけ紅い稲妻に変わり、光速でロードの肩の上に移動した後に元に戻る。

巨大な右手がキリエの頭上から迫るが、キリエの尻尾が3倍まで長くなり、それが鞭の様にしなってその手を弾く。

キリエはその間に、ゴブリンロードの首筋に齧り付いた。

ごくり、ごくりと、キリエの喉が動く。

ゴブリンロードは何度もキリエに手を伸ばすが、その度に少しづつ強い力で弾かれ、四度目では右手の指の4本全てが切断された。

ゴブリンロードは今度は左手で彼女を引き剥がそうとしたが、その前に意識を失い、切り倒された巨木の様に意識を失う。

キリエの尻尾の先端からは赤紫色の液体が滲み出ており、それが尻尾を伝って流れていたので、尾全体についていた。

指を失った巨大な右手の切り口が、赤黒く変色し、甘ったるい臭いを漂わせる。

1分後、キリエはすっかり枯れ果てたゴブリンロードからその口を離す。

キリエの腹は、胃の場所ピンポイントでぽっこりと膨らんでいた。


(ゴブリンの血が熟成され…酸味が薄れて旨味が強くなった感じですわね…程よく脂と塩味が乗っており、前菜にぴったりでしたわね…)


キリエの瞳が、ゆっくりと残った2体の雑魚を見据える。

すると2体は、場外に身を投げてしまった。


「つまんないですわねぇ。」


キリエは棺を召喚すると、蓋を開け、手だけを突っ込む。

召喚獣と同じ原理で召喚する棺は魔族にとってのプライベートスペースで、本当に愛し合っている恋人でも無い限り、誰も入れないし、誰も入りたがらない。


(うぅ…流石に酔い過ぎましたわ…)


キリエは召喚した棺から紅い注射器を取り出し、自身の首に突き刺す。

アサバと言う花から作る液体で、殆どの生物にとっては致死量0.02gの超猛毒だが、吸血鬼達の間ではきつけ薬として使われていた。


(匂いがしないと言う事は、子供達が入ってからダンジョン化した様ですわね。)


ダンジョン化する建物に誰かが居た場合、その者はその建物の中に取り残される。

扉、窓、隙間の一片、その全てがダンジョンに繋がった状態になるからである。

逆に言えば中の者はいつでもダンジョン攻略に乗り出す事が出来るので、実力さえあれば脱出は可能だった。


「生き物の匂い自体はしますが、かなり遠いですわね。はぁ…と言う事は…」


キリエはゴブリンの間に現れた、次の場所へと続く一本道を歩きながら溜息を吐く。

次なる間は、直ぐに現れた。


「やっぱり無機物でしたの…つまらないですわ…」


岩石をつなぎ合わせて人型にしただけの、2m程度の茶色い石像が4体、それぞれ四隅に鎮座している。

中央には、四隅にいる物と同じ形の、10m程の巨像が立っている。

キリエが次の戦場に足を踏み入れた瞬間、例の如く退路は落下し、今度は5体同時に動き出す。


「お人形に興味はありませんの。」


キリエの左手に、【死銃メシェドラ】が現れる。

彼女はそれを片手で構えると、巨像の方に向けて1発づつ、計5発発破する。

弾丸は巨像の胴体、或いは頭を貫き、その後ろの壁や地面にめり込んだり、或いは貫通し最果てへと飛んで行った。

体内の核を的確に破壊された[ロックゴーレム]達と[メガロックゴーレム]は、起動早々ただの岩石に戻され、倒れて崩れた。

奈落から次の道が浮上してくる。


「次はきっと生き物ですわね。流石にそろそろ、‘歯ごたえ’のある獲物を所望しますわ。」


銃を5発放っただけだが、キリエの腹は引っ込んでいた。

ゴブリンの血では、キリエには足りないのである。

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