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ヴァンパイアお嬢様の凱旋  作者: みゅにえ〜る
優しいお嬢さん
12/12

若く健康な男女を10人づつ頂戴♪

黒く細長い車の中。

フレディエラ合衆国外交大使ラーガムは、腕時計型端末の表示するホログラムを眺めながら、今後のスケジュールを確認していた。

髪はヘルメットにも見える程にかっちりと整えられ、今後の激務にも耐えうる強度を誇っている。


「ドゥーンハイド王国に外交だと?攻め落とせば簡単に手に入るだろうに。」


ラーガムは文句を垂れる。


「今はその攻め落とす為の兵力すら惜しいんでさぁ。」


ラーガムの隣に座る、赤鎧の騎士ケイガが返答する。


「ご心配なさらずとも、この後のお仕事は全て転移魔方陣が使えます故。」


ラーガムの後ろに座る、老魔導士バチも続く。


「ま、上の思惑としては、あの国を取り囲む森まで全部利用したいんだろうね。攻め込みでもして、折角の天然の要塞が焼けちまったら本末転倒って話さ。」


バチの隣に座る赤鎧の女騎士、シサイナは言う。


この車内には、雇われ運転手を含めた5人が居た。


「まあ良い。」


端末の電源が落ちる。

ラーガムは顔を上げる。


「金貨1000枚での買収だっけか。あの国にとっては大金だろうな。」


それを聞いたケイガが、くすりと笑う。


「ま、使い切る前にちゃちゃっと終わらせて、国土をそのまま頂き、渡した1000枚回収するって流れだろ?」


「まあな。さて、あのド田舎にも、最期くらいは栄華を見せてやろうか。」


大使達を乗せた車は、過酷なオフロードをものともせず森を抜ける。

車はそのまま、城まで続く一直線の道を走り抜け、正面入り口の前に辿り着いた。


「ん?」


ラーガムは違和感を抱きつつ、四人は降りる。


「変ですな。昼間だというのに衛兵の1人も居ないとは。」


バチはそう言いながら、長く伸びた髭を摩る。


「と言うか人っ子一人居ないじゃん。どうなってんのこれ。」


シサイナは、頭の後ろに手を回しながらぼやく。


「もしかして勝手に滅んじまったとか?」


シサイナはそう言うと、半開きのドアから城の中に入って行った。


「あ、こらシサイナ!勝手に突っ走るな!」


ケイガもそれに続く。

残された二人も、赤い鎧に付いていった。


「中までがらんどうだとは、参ったね。こりゃ。」


ラーガムは空っぽのエントランスを進みながら呟く。


「待てお主ら。」


不意に、バチが二人の騎士を止める。


「扉の向こうに、何か巨大な気配を感じるぞ。」


バチは杖を構えながら、扉の前に辿り着く。


「お主ら、警戒せい。この国の国王は、魔力なぞ持っていなかった筈じゃ。」


バチは、そっと扉に触れる。

元から半開きになっていたドアが開く。


「ん?何か居るぞ!」


ケイガは臨戦態勢に入る。

片方の手すりを枕に、もう片方の手すりに膝を掛け、玉座にキリエが寝ていた。


「あらぁ?遅かったですわねぇ。」


キリエは玉座に座り直す。

足は組み、両手は手すりに、視線は少し低くして見下す様に。


「悪路の中ようこそ我が国へ♪歓迎致しますわ♪」


キリエは華奢だが、翼の体積分、椅子が足りなかった。


「待ってくれ!我が国とはどう言う事だ!エウロ王はどうした!」


ラーガムは荒い言葉で問う。


「エウロ王?ああ、あの人はもう“此処には居ません”わよ。」


キリエはそのままの意味のつもりで言った。

しかし、不信極まりない登場を果たした魔族の言葉がそのまま受け取られる事など無かった。


「どう思う、バチ。」


ラーガムは小声で問う。


「十中八九、この国はどうやら乗っ取られてしまった様ですな。」


「あり得るのか?」


バチはキリエの方を見る。

キリエは4人に蔑む様な視線を向けながら、足を組み直したり、尻尾や翼を動かして寛いでいた。


「あれだったら、やりかねませんな。」


ラーガムはキリエを眺めながら、暫し思慮に耽る。

幸の薄い中年男を相手取るつもりが、今目の前に居るのは常識知らずのわがままお嬢様。

その高貴な身なりは、それなりの財力も醸し出している。


「どうしましたの?用があるから、わざわざ此処に来たのでしょう?」


キリエは首を傾げる。


(手をこまねいている暇は無いか。)


ラーガムは覚悟を決める。


「我々は、フレディエラ合衆国より参りました外交隊で御座います。早速本題に入りますと、我々は貴女様の御国の一部を、来るべき戦争に備え、駐屯地として借り入れたいと考えております。」


ラーガムの要件を聞いたキリエの尾が止まる。


「駐屯地ですの?この国に?」


「勿論只でとは言いません。」


ラーガムは、懐から金貨袋を取り出す、


「今回は前金として、金貨1000枚を用意しました。」


「………」


キリエは尾を伸ばし、金貨袋を引っ掛けて手元まで持ってくる。

中を確認するが、全ての金貨が魔力を帯びており、偽造通貨は見当たらない。

キリエはそれを、ラーガムの足元に投げ返した。


「正気ですの?」


「と、言いますと。」


ラーガムの頬を、冷や汗が垂れる。


「この国を貴方も見たのでしょう?此処はお金もありませんが、お金で買える物はもっと無いんですの。こんなはした金を貰ったって、何の役にもたちはしませんわ。」


素人ならば、交渉決裂と諦めただろう。

だがラーガムは、少なくとも素人では無かった。


「では、何をお望みでしょうか。それは我々にも用意出来る物なのでしょうか。」


にぃっと、キリエの顔に笑顔が浮かぶ。


「若く健康な男女を10人づつ寄越しなさい。理想を言えば子供ですが、そこは貴方方にお任せしますわ♪」


ラーガムは青ざめる。

その要求が、人類が用意できる中で最も恐ろしい物だったからだ。


「貴女は、それをどうするおつもりで…」


ラーガムは恐る恐る問う。


「そんなの、決まっているでしょう?」


キリエはそれ以上答えなかった。

しかしラーガムには、それで十分だった。

実際の所この場所の価値は人命20人分には値しない。

しかし、わがまま魔族の要求を断ったらどんな事になるか。


「…判りました。国に掛け合ってみましょう。」


「ふふ♪感謝しますわ♪」

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