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ヴァンパイアお嬢様の凱旋  作者: みゅにえ〜る
優しいお嬢さん
1/12

わたくしを買いたいんでしょう?

「では最後に、今宵の主役に登場して貰いましょう!」


照明で照らされた舞台の上から、30代半ばの男性司会者が闇に沈んだ観客席に向けて言い放つ。

舞台袖から、バニースーツ姿の二人の美女が台車を押してやってくる。

台車には黒い金属製の棺が、台の上に縦に立つ様にワイヤーで固定されている。


「これこそが!かつて栄華と繁栄を極めし亡国の秘宝、【黒の棺】です!」


観客席がざわつく。

この地下劇場に来た大多数の者が、この棺の落札、或いは誰がどれ程の値段で落札したかを知る為に此処に来ていた。


「さあさあ早速始めさせていただきましょう!開始値は金貨1000枚です!」


開幕と同時に、値段は急激に上がっていった。


「金貨2000枚が出まし…おおっと、そちらの紳士が金貨2500枚と言っています!」


開幕から5分後。

棺の蓋の隙間から、一筋の黒い煙が噴き出した。

此処に居る全員がこのアーティファクトを今までで一度も見た事が無かった為、誰もそれが異常だとは思わなかった。


「金貨3000枚に到達しました!これはもうそんじょそこらの国家予算を超え…おおっと!またまた上がりました!」


開始から7分後。

バインッ、と言う立て、棺を固定していたワイヤーが千切れる。

そこで台車を運んできた二人の女性が異変に気付く。

蓋が、開こうとしていたのだ。


「とうとう金貨5000枚に…」


蓋が半分ほど開かた時、背中より吹き付けた冷気により司会者も気付く。

観客のどよめきが、少しづつ恐怖を帯びた物になっていった。


「えー、暫しお待ち下さい。只今品物にちょっとした不備が生じている様なので、直ぐにメンテナンスに入りますので、暫しお待ちを。…おい、早く運び出せ!」


棺の蓋が完全に開かれる。

中に広がっているのは、奥深くまで続く闇だった。

その奥行きは、外観と合っていない。


「む…無理です!重過ぎます!」


従業員二人は力一杯押しているが、台車は少しも動かない。

質量の増していく棺に耐えきれず台車は歪み、潰れてしまった。

観客は慌てふためき、我先にと出入り口に向かっていく。

そのせいで出入り口の前では渋滞が起こり、互いを押し合う事により怪我人も出始めていた。

一方棺の奥からは、コツン、コツンと言う足音が聞こえ始める。

舞台袖からは大勢の従業員が現れ、皆でなんとか蓋を閉めようとするが、そもそもこの棺の蓋は外部からの操作でどうこう出来る仕様にはなっていなかった。

それを悟った従業員達は皆棺から離れていき、ある者はその場から逃げ去り、残りの者は勇気ある参加客と共に事の成り行きを見守るべく残った。


「あら、もう辞めてしまったの?このわたくしを買いたいのでしょう?」


ルビー色の、煌びやかな紅い瞳。

まっすぐと伸び、腰まで下がった美しく艶やかな金髪。

背は172cm。

愛らしさと可憐さ、それから美しさと気高さを併せ持った、見るも美しい容姿。

薄く黒い生地のゴシックロリータドレス。

腰の後ろからは、背骨がそのまま伸びて出来た黒い尻尾が生えており、その先端は短刀の様に尖っている。

背からはコウモリ型の翼が一対生えている。

頭には飴色の角が一対生えており、その捻れた形は羊のそれを想起させた。

口には僅かに八重歯が覗いており、その極端に鋭利な形状は、彼女が吸血鬼である事を示唆している。


「このわたくし。キリエ・ラハドラ・メシェドレウスを買いたいと言うのでしょう?」


キリエは怒っている。

その場にいた全員が、そう確信した。

取れる行動は二つ。

謝るか、逃げるかだ。


「全員!転移魔法陣に走れ!」


司会者だった男が叫ぶと、従業員は一斉に舞台袖から逃げ去って行った。

残った観客も呪文を詠唱し、或いは詠唱者にぴったりとくっつき、皆、各々の母国へと帰って行った。

1分後には、そこにはキリエだけが残された。


(あら?此処は奴隷市では無かったのね。)


キリエは少しも怒ってはいなかった。

キリエの感性から行けば、奴隷は決して後ろめたい物では無く、働けば金が貰えて、働き続ければいずれ自分の土地も貰える、ただの仕事の一つだった。


(うーん…妙な夢を見ている気分ですわ。)


キリエは頰をつねってみる。

痛い。

つまり此処は現実である。


(目覚めたらこの劇場で競られていた訳ですが、一体わたくしはどれ程の間眠っていたのでしょう。)


キリエは舞台袖を確認するが、既に力を失った魔法陣しか無い。

今度は舞台から降り、扉を一つ一つ確認していくが、同じく光を失った魔法陣だけの部屋にしか繋がっていない。

2分程彷徨い歩いた後に通常の出口を見つけたキリエは、そこから劇場を出て行く事にした。

一方舞台では、棺がみるみるうちに形を失っていき、黒い塵となって散っていた。

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