レベル25 レンとユズ二人は婚約者
自分の部屋を見ると、彼女の写真が多い。
彼女の笑った顔を見るとなんだか落ち着く。
俺にとって彼女は、本当に大切な人だったんだと思う。
だけど、、、。
今は分からない。
彼女を見ても、何も思い出せない。
彼女を見ても、昔の俺と同じ気持ちにはなれない。
「お兄ちゃん、お姉ちゃんが来たよ」
いきなりサラが部屋へ入ってきて言った。
「ノックくらいしろよな」
「分かったわ。考えとくよ」
サラは適当に返事をして出ていった。
すぐに彼女が部屋へ入ってきた。
「レン、おはよう」
「うん、おはよう」
「この前はごめんね」
「この前? あっ、お母さんと帰った日だね?」
「うん。色々あって、、」
彼女は苦笑いをした。
本当に色々あったようだ。
「私、迷ったの。でも、レンには話さなきゃって思って。忘れちゃってるレンだけど、レンは絶対に知っていなきゃいけないことだから」
彼女は悲しそうな顔で言う。
どうしたんだろう?
「君が話をしたくないのなら、しなくてもいいよ?」
「でも、、、」
「君が、笑って話せない話は面白くないと思うんだ」
「でも、変わるかもしれないの」
「変わる?」
「うん。私達の未来が変わるかもしれないのよ」
「君は変わってほしくはないの?」
「えっ」
「そんな悲しい顔をして言われたら俺が困るよ」
「私は怖いの。レンが全てを知ったら、私を嫌いになるんじゃないかって」
「それは話を聞かなきゃ分からないけど、俺は思うんだ」
彼女は俺の話が気になるのか、俺の顔を見てくる。
「この部屋を見ても分かるんだ。俺が君をどれだけ大切に思っているのか。そんな君を俺が嫌いになるはずないんだよ」
「でも、、」
「記憶がない俺が言うんだから間違いないよ。俺は何があっても君を嫌いにはならないよ」
「分かったわ。全てを話すわ。今からのお話は、私のお母さんのお話よ」
◆◆◆
私の可愛い娘が恋をしている。
隠していても分かるわ。
どんな人かしら?
私は結婚に失敗したけど、あの子なら大丈夫。
あんなに幸せそうに笑うんだもの。
あの子が幸せなら、私も幸せよ。
「あなたがオーロラ様のお母様ですか?」
ある日、一人の老人が家を訪ねて来た。
ローブを着ているが、その下に着ているものは、高価そうに見える。
「オーロラ様? どうして様なんてつけるのですか? オーロラは平民の普通の娘ですよ?」
「それは、オーロラ様が王子と仲良くさせていただいておりますので」
「王子様、、ですか?」
「はい。そこでお話があるのですが、王子には縁談のお話がありますので、オーロラ様とは会わないでいただきたいのです」
「えっ、でも、それはオーロラが決めることなのでは?」
「オーロラ様はそんな約束はお守りにならないと思われます」
「それは、オーロラが王子様を、、」
「そうです」
オーロラが幸せそうにしていたのは、王子様と一緒にいたからなのね。
あんなに幸せそうにしているオーロラには残酷な話ね。
「私が嫌だと申したらどうなさいますか?」
「王様が、罰をお与えになります」
「罰ですか、、、」
「しかし、約束していただけるのであれば、大金をお渡しいたします」
「お金ですか、、、」
迷ってしまう。
オーロラのためにはどうすればいいの?
母としてどうすればいいの?
たくさん考えた。
私がするべきことはなんなのか。
そして一週間後、答えを出した。
「オーロラと一緒に、遠くへ行きます。そうすれば、二人が会うことはないですよね?」
「そうですね。それは良い判断だと思いますよ」
「でも、最後に二人でいる時間を与えてあげてください」
「分かりました」
それから私はあるものを探した。
それを二つ用意し、願いを込めた。
願いを込めれば、必ず叶うから。
「どうか二人が、いつか平和な世界で幸せに暮らせますように」
願いを込めたあるものをオーロラに渡して、王子様にも渡すように伝えた。
これで大丈夫。
今の世界では結ばれなくても、いつか必ず他の世界で二人は結ばれるから。
◆◆◆
「あるものって何?」
俺はあるものが気になっていた。
「これよ」
彼女は俺に、緑色のハートのネックレスを見せてくれた。
「ネックレス?」
「それだけじゃないわ。イヤリングとブレスレットもよ」
彼女は緑色のハートがついたイヤリングとブレスレットも見せてくれた。
「これを合わせると」
「四つ葉のクローバー?」
「そうよ。お母さんは、四つ葉のクローバーを使って私達を何度も転生させたのよ」
「どうしてそこまでするんだよ?」
「お母さんの私への執着よ。どの世界でもお母さんは私の傍にいたの。そして何かうまくいかなかったら、私達に四つ葉のクローバーを持たせるの」
「それって、今の俺達もうまくいっていないってこと?」
「そうね。だからここに四つ葉のクローバーがあるのよ」
彼女は四つのハートでできた四つ葉のクローバーを見ながら言った。
「でも、君のお母さんがそんなことをするなんて信じられないよ」
「私は全てを見たの。お母さんの腕に触れた時に全てが見えたの。全部、お母さんのせいよ」
彼女は怒っていて冷静な判断ができていない。
「君のお母さんに話を聞こうよ」
「そうね。本人からちゃんと聞きたいわ」
それから彼女の家へ向かった。
彼女のお母さんは灯りもつけずにソファに座っていた。
「お母さん、全てを聞かせてよ」
「ユズ、お母さんはユズのために、、、」
「身分の差や不幸せな世界、私とレンが幸せにならないと思ったらすぐに諦めてクローバーを渡したんでしょう?」
「お母さんだって苦渋の選択を何度も何度もしたわ。いつも後悔をして、あなたに申し訳ない気持ちでいっぱいだったわ」
「何度も後悔をしたのなら、学習してもいいでしょう?」
「私が学習してもあなた達が変わらないのよ」
「私達のせいにするの?」
「違うわ。お母さんは変わらないあなた達を何度も何度も助けようとしたの。でもあなた達は何度も何度も同じ道を行くのよ」
彼女の母親の苦しみが痛いほど分かる。
どんなに助けようとしても本人達が助けを求めていない。
それを何度も何度も繰り返す彼女の母親。
どんなに苦しかったのだろうか?
「四つ葉のクローバーは願いを叶える。でもその願いは、人によって受け取り方が違う」
俺は気付いてしまった。
俺と彼女と彼女のお母さんの温度の差を。
「貴女は俺達の幸せを願った。でも、俺や彼女の幸せは貴女とは違った。だから何度も何度も繰り返すんです」
「幸せと思う瞬間は人それぞれ違うから」
彼女も納得しているようだ。
「そんな、、、それなら私は何のために何度も何度も繰り返したの?」
「今日のためだよ」
「ユズ」
「私とレンとお母さんが、幸せに生きるためだよ」
「ユズ、、、」
彼女は母親とハグをしている。
これで終わり。
俺と彼女の転生は最後。
俺は彼女の記憶も戻らないまま。
俺は自分の部屋へ戻る。
彼女との思い出が詰まった部屋。
何も思い出せない。
机の上に、四つのハートでできた四つ葉のクローバーがある。
これも四つ葉のクローバー。
願いを叶えてくれる。
「レン!」
彼女がいきなり部屋へ入ってきた。
「えっ、何?」
「あっ、レンからのプレゼントを忘れたのよ」
「俺からのプレゼント?」
「うん、あっ、それよ」
彼女は机の上にある四つ葉のクローバーを指差す。
「これって俺が君に?」
「うん、そうだよ。クリスマスプレゼントと誕生日プレゼントだよ」
「それじゃあ、この四つ葉のクローバーは俺が君に?」
「うん、そうだね。今回は、お母さんじゃなかったね」
「それなら、これに願い事をしてもいい?」
「うんいいけど、私がレンの婚約者になりますようになんてことは願わないでよ?」
「えっ、そっ、そんなことを願ったりしないよ。俺はまだまだ学生なんだからさ」
俺の言葉を聞いて彼女は驚いている。
前の俺が口にしないことを言ったから驚いたんだと思う。
「それじゃあ、願い事を叶えさせてもらうよ」
俺は四つのハートでできた四つ葉のクローバーに手を当て、目を閉じて願った。
どうか彼女の、、、。
目を開けると、俺の大好きな笑顔がそこにはあった。
そして彼女が俺の手の上に手を重ねた。
その時、俺の中に流れ込んでくる。
彼女の記憶。
俺が大切にしている大好きなユズの記憶が。
「ユズ」
「レン?」
「ユズ、君は俺の最後の大切な人だよ。何度繰り返しても俺はユズを最後の愛する人にする。ユズ大好きだよ」
「レン、思い出したの?」
ユズは抱き付いてきた。
嬉しいんだけど、俺の告白の返事がほしい。
「ユズ?」
「何?」
「えっと、、その、俺の婚約者に、、」
「いいわよ」
「えっ、本当に?」
「うん、本当よ。でもその代わり、前世のお話を全て聞かせてよ」
「えっ、全て?」
「うん、全てだよ」
ユズは当たり前という顔をして言う。
「全てを話すのにどれくらいかかると思ってんだよ?」
「そうだね、今までの転生した年月よりは短いと思うわ」
「ユズ、お前は俺をじいさんにするつもりかよ?」
「うん。だって私は、おじいさんになったレンも好きでいられる自信があるもの」
「ユズ、俺もだよ。ずっとずっと好きでいる自信があるよ」
「ねぇ、レン。知ってる?」
「何を?」
ユズは何だか教えることを躊躇っている。
「本当は教えたくないんだけど、一番最初のレンの前世の王子様の名前って知ってる?」
「えっ、名前? 俺は前世の自分の名前は覚えていないんだよ」
「そうだよね。私は知ってるの」
「えっ」
「王子様の名前はレン王子だよ」
「えっ」
「そして、他の前世の人の名前も全員レンなんだよ」
「えっ」
「私は、ずっとレンを好きだったのよ」
「えっ」
俺がずっと驚いているから、ユズはクスクスと笑っている。
ユズはずっと俺を好きでいてくれた。
嬉しくてユズをギュッと抱き締めた。
「レン、大好きよ」
「ユズ、俺も大好きだ」
これで俺達は幸せになれる。
やっと、幸せな未来が見えてきた。
「あ~お兄ちゃんがお姉ちゃんに変なことしようとしてる」
妹のサラがいきなり俺の部屋へ入ってきて言った。
「サラ! 勝手に入るなって言ってるだろう?」
「お兄ちゃんの変態。キモイ」
「サラ!」
サラは自分の部屋へ入っていった。
「これが私達の幸せ。ゆっくりゆっくり幸せを紡いでいこうよ」
「そうだね。俺とユズの幸せの物語を」
「まだまだ私達は、、」
「「ハッピーコンティニュー」」
二人で笑い合った。
これが俺とユズの物語。
最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます。
楽しくお読みいただけましたら幸いです。




