レベル24 見習いの二人
俺は大学生になった。
入学式は大変だった。
双子モデルの二人が目立ち過ぎて、入学式を進めるのに大学側は大変そうだった。
そして俺も大変だった。
アオ色の髪で男性のモモさんに抱き付かれ、気持ち悪い思いをした。
それを見ていた、モモさんの大切な人であり女性のマコトさんは、助けることもせずアクビをしていた。
恋人が他の男に抱き付いて嫌ではないのだろうか?
そんな俺の疑問はマコトさんの一言で解決した。
「モモ、そんなことをしても、私は嫉妬なんてしないからね」
「え~何でよ? マコトは、もう少しワタシの相手をしてもいいと思うわ」
モモさんはマコトさんの言葉を聞いて、俺に抱き付きながら口を尖らせ、無理して高い声を出して言っている。
モモさんはどれだけ子供なのだろう。
考えが幼稚過ぎる。
「モモはくっつき過ぎなのよ」
「だって、マコトが大好きだもん」
「それは私も同じだよ。でも、いつも一緒にいることはできないんだよ?」
「それなら一緒にいられる時間を大切にしなきゃね」
「分かったわよ。おいで」
マコトさんは両手を広げてモモさんを呼んだ。
モモさんはマコトさんの胸に飛び込んだが、二人の身長差で、モモさんの腕の中にマコトさんがおさまっていた。
モモさんは喋らなければ、男性なのに。
今だって、モモさんが男らしく見える。
小柄な恋人のマコトさんを優しく包んでいる。
「レン君、あなたの顔ってそんなだったかな?」
「アオさんはいきなり何を言うんですか?」
ピンク色の髪で女性のアオさんが、俺を覗き込みながら言った。
綺麗な顔にドキドキしてしまう。
「何か違うのよ。雰囲気というか、目付きというか、何か違和感があるのよ」
「それはユズがいないからだよ」
いきなり俺の後ろからコウが出てきて言った。
コウはいつ見てもイケメンだ。
スーツ姿なのに、着崩していて色気さえ感じる。
男の俺でも目のやり場に困る。
「ユズちゃん? そういえば、今日はユズちゃんを見ていないわね。いつも一緒にいるのにね」
「アオさん、彼女は高校生だから学校ですよ」
俺は当たり前のことを口にした。
「学校でも、レン君ならユズちゃんのことを口にしたりするはずよ」
「へぇ~俺って、彼女のことばかりだったんですね?」
「レン君、どうして他人事のように言うの? まるでレン君じゃないような言い方ね」
「アオ、レンはユズのことを忘れているんだよ」
コウが、アオさんに面倒そうに言う。
そして説明をするのが面倒なのか簡単に話をした。
「ユズちゃんが可哀想よね? モモもそう思うでしょう?」
「そうねアオ。振り回されるユズちゃんはどんな気持ちかしらね?」
アオさんとモモさんが俺を睨み付けながら言う。
俺が悪いのか?
しかし、双子の睨みは怖いの一言だ。
「モモは人のこと言えないわよ?」
「マコト?」
「モモだって、仕事になると私のことを忘れるくらいに没頭するでしょう?」
「えっ、マコト。もしかして仕事に嫉妬をしているの?」
「していないわよ。私はずっと仕事をしていてほしいくらいだわ」
マコトさんにモモさんが抱き付き、マコトさんは嫌がりながら言っている。
でも楽しそうに見えるのは俺だけだろうか?
そして、そんな二人を羨ましそうに見ているアオさん。
「アオさんには、マコトさんみたいな大切な人はいないんですか?」
俺の言葉に、全員が固まった。
俺は何か言ってはいけないことを口にしたようだ。
「やっぱりレン君じゃないわ」
「アオさん? 俺はレンですよ?」
「レン君なら、私の触れてはいけないところは、分かっていたもの」
「あっ、それはすみません。空気が読めていなかったですよね?」
「ん~そうよ、、。分かったわ」
アオさんは何かを思いついたのか、大きな声で言った。
「何が分かったんですか?」
「今のレン君は、空気が読めないんじゃないのよ。今のレン君は、人の気持ちが分からないのよ」
「アオさん、人の気持ちは分からないものですよ。だから気付かない間に人を傷つけてしまったりするんですよ?」
「そうよ。でもレン君は分かっていたのよ。相手の顔色を見ながら即座に判断するんだもの」
「でも今は、そんなスーパーパワーを持っていない俺ですみません」
「そんなことはないわ。私は今のレン君の方が好きよ。子供っぽくて可愛いわ」
「俺は、もう大学生ですよ?」
「大人っていうのは、学生を卒業した人のことを言うのよ?」
「それならアオさんも子供ですね?」
「そうね。私は子供だから何もできないのよ」
アオさんの顔色が、笑顔から後悔の顔に変わる。
アオさんに何があったのだろう?
昔の俺だったら分かるのだろうか?
「アオとモモは今から仕事でしょう?」
「そうだけど、今日のカメラマンはマコちゃんじゃないの?」
マコトさんが時計を見ながら言った後、アオさんが驚くように言った。
「アオ、私はマコちゃんじゃなくてマコトよ!」
マコトさんがアオさんに怒っている。
それを見ているモモさんはオロオロしている。
怒ったマコトさんには、モモさんもどうすればいいのか分からないようだ。
それから双子モデルの二人は仕事へと向かった。
俺とコウとマコトさんは大学の食堂へと向かった。
しかし、ジロジロと見られるのは気のせいなのか?
気のせいなんかじゃない。
イケメンのコウと、小さくて可愛いマコトさんは誰だって見てしまう。
俺の周りは、どうして顔面偏差値が高い人ばかりなんだ?
俺もジロジロと見られ、コウと比べられているのが分かる。
俺は普通だよ。
普通の何が悪いんだよ。
友達になるのに顔なんて関係ないんだよ。
「あれ? マコト?」
「げっ、最悪だ」
マコトさんは可愛らしい女の子に声をかけられて、嫌そうに言った。
可愛らしい女の子は、長い髪にゆるいウェーブをかけていて、フリフリの服を着ている。
正しく女の子って感じだ。
「マコトったら、どこにいたの? マコトは私のマコトなのよ。離れないでよね」
私のマコト?
あれ?
それならモモさんは?
「その言い方はやめてくれる? 君は私のファン一号ってだけだよね?」
「私はファン一号なんだから、私のマコトなのよ」
「私にはモモがいるのよ?」
「それは女の子としてのマコトでしょう? 男の子としてのマコトは、私のマコトよ」
面倒そうな女の子だな。
マコトさんも顔がひきつっている。
そしてマコトさんは、その女の子とその取り巻きと一緒に何処かへ連れていかれた。
「マコトさんは中学生の頃からカメラマンをやっているから、それを見た女の子達がマコトさんを格好いいと言ってファンクラブを作ったんだよ」
コウがマコトさんのことを教えてくれた。
「中学生の頃からなんて、マコトさんって凄い人なんだな」
「そうだな。僕達と同じ歳なのにね」
「ん? 同じ歳?」
「そうだよ。マコトさんも俺達と同じ四年コースで、あの双子は一年コースだよ」
俺達の通う大学は、システムが少し違う。
俺達のように四年通う人もいれば、一年、二年、三年だけ通うという選択もある。
だから双子モデルの二人のように、新入生なのに四年生という人もいるんだ。
双子モデルのように、時間がない人などが通える大学だ。
だからといって、誰でも入れる大学ではない。
お金よりも頭が必要な大学だ。
だから学費は安い。
「ユズは大丈夫だよな?」
コウが心配するように言う。
「えっ、何かあるのか?」
「当たり前だろう? お前がいなくなったらユズには大変なことが起こるんだよ」
「もしかしていじめとか言わないよな?」
「はあ? 違うよ。ユズに声をかける男子が増えるんだよ」
「声をかける男子?」
「そう。ユズって可愛いのにそれに気付いていなくて、そんなユズだから男子に人気なんだよ」
「それなら俺じゃなくて、同じ高校生の彼氏でもつくればいいのに」
「そんなこと、ユズの前では絶対に言うなよ」
コウが怒った顔で言う。
「分かったよ。でもさ、彼女のことを忘れている俺なんかよりも、いいと思うんだよ」
「それはお前が決めることじゃない。ユズが決めることだよ」
「そうだよな。決めるのは彼女だよな」
彼女の話をしているとなんだか胸がキュッとなる。
なんだか胸が苦しくなる。
なんでだろう?
「コウちゃん」
「サラ嬢」
俺達が家へ帰ろうと大学から出たところで、妹のサラが声をかけてきた。
サラの隣には、彼女もいた。
「レン、一緒に帰ろう」
彼女が俺の腕を引っ張った時、彼女の動きが止まった。
「レン、今日は早く帰らなきゃ」
彼女はすぐに動き出し、サラとコウに先に帰ると言って歩き出す。
「びっくりしちゃった」
彼女はそう言うと、俺の腕を見る。
「俺の腕に何かあるのか?」
「また、前世のお話が流れ込んできたのよ」
「えっ、そうなんだ」
「どんなお話か聞きたい?」
「君が話をしたいなら聞くよ」
「なんだか上から目線ね?」
「あっ、ごめん」
「そこは、そうだよって言うところよ?」
「あっ、ごめん」
彼女は少し悲しそうだ。
でも俺に、前の俺のような返しを期待しないでほしい。
「今回は、見習いの二人」
「見習い? 同じ立ち場の二人なら、ハッピーエンドだね?」
「違うわよ。ハッピーコンティニューよ」
「そうだったね」
「それじゃあ、二人のお話をするわね?」
「うん、楽しみだよ」
◆◆◆
「見習いは、まだ客の相手はしなくていいんだよ」
「はい」
私はお薬を販売する薬屋の見習い。
お薬の知識もまだまだで、お客様の欲しいお薬なんて選べない。
だからお客様と会話をすることも禁じられている。
お薬は間違えれば、お客様の命も奪う。
だから見習いは、お客様との接触は禁止。
王様が決めたこと。
だから、いつもお店のお掃除ばかり。
いつか一人前になって薬でお客様を救いたい。
それが私の夢。
「すみません」
「あっ、こんにちは」
お店の裏口から声が聞こえて向かうと、いつもの配達屋さんがいた。
格好いい彼はいつも笑顔で癒される。
「今日は壊れ物なので扱いにはご注意ください」
「あっ、ありがとうございます」
私は彼から荷物を受け取る。
その時、少しだけ指に触れた。
私も彼もそれに気付いていても何も言わない。
だって、手が触れるなんてことは彼にとっては普通のことだから。
私も彼に合わせているの。
荷物を受け取る時って、指が触れることがあると思うの。
それが彼には毎日のようにあるんだと思う。
そんなことに私だけが反応しちゃったら、彼に迷惑よ。
「見習いは、もうすぐ卒業ですか?」
「それが、まだまだなんです。薬は毒にもなる物もあるので、簡単には一人前にはなれません」
「そうですよね。でもだからこそ、薬屋を信頼して訪れる人が大勢いるんですよ」
「私は、そんな信頼されている薬屋さんで自信を持って働きたいです」
「あなたならできますよ」
「本当ですか? ありがとうございます」
彼とはこんな会話を毎日している。
少しだけ話をして彼は他の配達へと向かう。
この時間が私は大好きだ。
そんなある日、事件は起きた。
「すみません。誰かいませんか?」
お店にお客様がやってきた。
でも、見習いの私しかいない。
店主は、いつもあるはずの薬がなくなったので、買いに行っている。
私はお掃除をするだけ。
「すみません。そこの道で配達屋さんが倒れているんです」
私はその言葉を聞いて不安になった。
彼かもしれない。
彼だとしても、私は彼に何もしてあげられない。
私はお客様に、見習いのプレートを見せた。
お客様は、すぐに気付きお店を出ていった。
お客様が向かう方を見ると、配達屋さんが倒れている。
身動きさえしていない。
顔は見えないから、彼かどうかは確認できない。
私が一人前だったら助けられるのに。
私が薬屋さんの見習いだから助けられない。
薬屋さんの見習いは、中途半端な知識でお客様を助けることは禁じられている。
昔、見習いが中途半端な知識でお客様を助けられなかったことがあったからだ。
目の前に困っている人がいても、手は出せない。
通行人や近所の人が集まる。
薬の知識をもっていない人達は、配達屋さんを助けることはできる。
知識はないから、ただ助けを求めることしかできない。
私のいる薬屋さんには店主がいないから、少し遠くにある薬屋さんまで向かうようだ。
私はただ見守ることしかできない。
私はただ願うことしかできない。
どうか、助かりますようにと。
ずっと見ていると配達屋さんの顔が見えた。
彼だった。
彼は苦しそうに息をしている。
お店から一歩足を出す。
彼のところへ行きたいけど行けない。
彼を助けたいのに助けられない。
そんな私に彼は気付いてくれた。
彼は小さく首を横に振る。
来てはダメだと、私に伝える。
苦しいのに私に助けを求めない彼の気持ちが分かるから、辛い。
私がもし彼を助けたら、私は犯罪者になるから。
私が彼を助けなくても、誰も私を責める人はいない。
それが薬屋さんの見習いだから。
でも私にはできない。
苦しむ彼を見ないフリなんてできない。
私はお店から出て彼に近付く。
私を見ている周りの人達が驚いている。
彼の周りにいる人達が私を見て彼から離れる。
「大丈夫ですか?」
「ど、、どうして、、来ては、、いけない」
苦しそうに彼は言う。
「無視なんてできません。私は見習いですが、大切な人が苦しんでいるのに、傍で支えないなんてことはできません」
「君は、、覚悟して、、なかったの?」
「えっ」
「僕は、、覚悟していた、、のに、、」
彼はそう言って気絶した。
すぐに私のお店の店主が来て彼の診察をしている。
私は何もできなかった。
私はただ、見ていただけ。
そんな私は、犯罪者。
すぐに警察が来て、私は牢屋へ入れられた。
彼の命は助かった。
そして彼は、、、。
「元気にしてた?」
「うん」
私が犯罪者になってから彼は、一ヶ月に一回だけ面会に来てくれる。
あれから何年が経ったのだろう。
「今日は、この薬だよ」
「これは息が苦しい時に飲むと落ち着く薬よ」
「うん、そうだね。あの日、僕が飲んだ薬だよ」
「あの日は、本当にごめんなさい」
「僕は許さないよ」
「えっ」
「だって、せっかく君が沢山の人を助けることができるはずだったのに、僕のせいで、、」
「私、後悔はしてないよ。あれで良かったんだって思ってるよ?」
「僕は覚悟していたのに」
彼はあの日、苦しそうに言った言葉をまた言った。
「私も覚悟していたわ」
「それならどうして?」
「私はあなたの覚悟とは違うわ」
「僕の覚悟と違う?」
「私は、夢よりもあなたを選ぶわ。ちゃんと覚悟していたわ」
「そっか。それなら覚悟できたよ」
「何を?」
「僕は君の夢を叶えるよ」
「えっ」
「今は見習いだけど、いつか君がココから出られたら僕は一人前になっているよ」
「嘘、、」
「君の隣で君の夢を見せてあげるからね」
「うん」
◆◆◆
「彼女の罪ってそんなに重いのかな?」
俺には納得できない話だ。
「重いわ。人の命だもの」
彼女は納得しているようだ。
「それからの二人はどうなったんだろう?」
「ハッピーコンティニューよ」
「彼女は外に出れたのか気になるよ」
「彼女が外に出る出ないは関係ないのよ。二人は幸せなんだからね」
「そうなのかな?」
「そうよ。それがハッピーコンティニューなのよ」
「あれ? ユズ?」
「お母さん、今日は早いんだね」
彼女のお母さんが後ろから声をかけてきて、彼女が振り向いて言う。
「今日は、なんだか早く帰りたかったのよ」
「そうなの? それなら一緒に帰ろうよ」
彼女が母親の腕を持った時、彼女の動きが止まった。
俺に触れた時と同じだ。
「おっ、お母さん? どうして?」
彼女が泣きそうな顔で母親を見ている。
彼女の母親は、彼女を支えながら家へと帰っていった。
俺は訳も分からず、自分の家へ帰った。
何が起きたのだろう?
読んでいただき、誠にありがとうございます。
楽しくお読みいただけましたら幸いです。




