レベル18 王子様とお姫様
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「それで? 何で二人がここにいる訳?」
コウが腕を組みながら、ピンク色の髪で女性のアオさんと青色の髪で男性のモモさんを、睨み付けながら言った。
俺達は学校の前だと迷惑だからと、学校の許可を取り、多目的室を借りてその中で話す。
モデルの二人からは香水の香りがして、ユズの香りが負けて、落ち着かない。
俺はユズに近付き、ユズの香りで落ち着く。
ユズにはバレないように、静かに深呼吸をして、ユズの香りを体に取り入れた。
「モモと私は少しだけお休みが欲しいの」
「そんなの勝手に休めばいいじゃん」
「コウったらヒドイ言い方ね。私達の状況を知ってるくせに」
アオさんはプンプンと怒っている。
「でも二人は好きだからモデルの仕事をしているんだろう? 僕は二人みたいにはなりたくなかったから、男子校に入ったんだよ。目立たないようにな」
「コウは充分、目立っていると俺は思うけどなあ?」
コウは確実に目立っている。
それに気付いていないコウに俺は教えてやった。
「僕は目立っていないんだ。二人みたいに変なオーラはないだろう?」
コウは俺に嫌そうな顔をしながら言った。
双子の二人はどんな生活をしているんだろう?
コウは身近で見てきたから嫌なんだろうな?
「私達の何が変なオーラなのよ?」
「そうよ。ワタシ達はモデルっていうキラキラなオーラがあるのよ?」
「それが変なんだよ」
アオさんが言った後、モモさんが自慢気に言うと、コウは呆れた顔をしながら言った。
そんなコウを見ていると、可哀想に思えてきた。
二人の相手は大変そうだ。
「ところで私はコウ君に、双子モデルのお姉さんとお兄さんがいたなんて、知らなかったわ」
ユズが俺の言いたかったことを、コウに言ってくれた。
コウには姉がいるのは昔から知っていた。
しかし、コウの姉とは年齢が離れているから、会うこともなかった。
「俺も知らなかったよ。何で教えてくれなかったんだよ?」
「だって二人は僕が小さい頃から海外にいて、面倒だから姉がいるとだけ言ったんだ。側にいないし、それにその時は、まだ双子モデルなんて言われてはいなかったからね」
「そうだったんだな。コウの家族構成は分かったから、自分の教室に帰ってもいいか? 俺とユズは関係ないだろう?」
そして俺とユズは出ていこうとして、俺はモモさんに、ユズはアオさんに抱き付かれて動きが止まった。
本当に、男に抱き付かれるのは嫌だ。
「二人とも、離れろよ。ちゃんと頼まないと休みは無しだぞ」
コウの言葉に、俺とユズから双子は離れる。
「そうよね。アオとワタシはユズちゃんとレン君に、お願いをしなきゃいけないのよね」
「俺とユズにですか?」
「そうなの。二人にはモデルの仕事をお願いしたいの」
「えっ、そんなの私にはできません」
モモさんがお願いをすると、ユズはすぐに断る。
「モデルって言っても、顔は見えないように撮るのよ。だから大丈夫だと思うの」
「でもモモさん。顔は見えなくても、私はお二人のように、モデル体型ではないんですよ?」
「そんなことはないわよ。ユズちゃんは今どきの高校生って感じのスタイルよ」
「アオさん。今どきの高校生って褒め言葉なんですか?」
「褒め言葉よ。それにカメラマンは、高校生を撮りたいって言っていたから、ユズちゃんはぴったりなのよ」
「私もお二人の力になりたいんですけど、どうしても写真を撮られるのは嫌なんです」
ユズは首を縦には振らない。
「ユズちゃんが許可してくれないと、レン君も困るのよね?」
「えっ俺?」
モモさんの言葉に俺は素早く反応した。
どうして俺なんだ?
「レン君は、モデルさんになってくれるわよね?」
モモさんの顔が男に変わったように見えた。
モモさんの男性の部分は、俺より男らしいのかもしれない。
モモさんの黒い部分を見た気がした。
「俺とユズは、モモさんやアオさんみたいに格好いい写真を、撮ることはできないと思いますよ?」
「いいのよ。二人はいつも通りでいいの。兄妹みたいにね」
「兄妹?」
「あれ? ワタシったらそんなこと言ったかな?」
モモさんが棒読みするように言った。
何か隠しているようだ。
「兄妹ってどういう意味ですか?」
「何でもないのよ」
「教えてくれないのなら、休みは無しですよ?」
「えっ、レン君がコウみたいに見えてきたわ。意地悪ね」
そう言うモモさんを見ながら、コウは呆れ顔をしている。
「レンとユズは、兄妹としてモデルになるんだよ」
コウが仕方ないなと言った後、兄妹の意味を教えてくれた。
「それなら、俺とサラでいいじゃん」
「それは却下だ」
「何だよそれ?」
「サラ嬢は僕と一緒で、目立ったらダメなんだよ」
「お前もサラも既に目立っているよ」
「それでも僕は、サラ嬢を誰にも見せたくないんだ」
「俺の妹をどれだけ束縛してんだよ」
「でも、レンもそうだろう?」
「俺は見せつけたいんだ。ユズは俺のモノだってな」
「兄妹の設定で見せつけても、ただのシスコンだと思われるだけだな」
「ユズに伝わればいいんだよ」
俺がそうつぶやいた言葉にコウは、既に伝わっていると思うけど? と言っていた。
伝わっていても、またバッドエンドになるかもしれない。
それを避ける為に、俺は何でもするよ。
俺は何度でも言うよ。
ユズは俺のモノだって。
俺から逃げることも、俺より先に死ぬことも、自分の幸せより俺の幸せを優先することも。
全部、許さない。
ユズは俺のモノ。
俺の隣で幸せそうにしている、可愛い俺の大切な人。
だから離さない!
「どうしたの?」
ユズが俺を心配そうに見ていた。
「あっ、いやっ、何でもないよ」
「嘘つき」
「えっ」
「いい加減、学習してよね」
「何をだよ?」
「レンは顔に出てるの。昔のことを考えている時ね」
「だから嘘をつくなってことなのか?」
「そうよ。だから本当のことを教えてよ」
「分かったよ。でも今はモデルをやるか、やらないかだよな?」
「いいよ」
「何が?」
「レンがいるならモデルをしてもいいよ」
ユズはそう言って、アオさんとモモさんの為にねと付け加えた。
アオさんとモモさんは勿論、喜んで俺とユズに抱き付いてきた。
俺は素早くモモさんが近付けないように、ユズを抱き寄せ阻止した。
モモさんはそれでも諦めずに、ユズと俺を一緒に抱き締めた。
モモさんはやはり、男だ。
だって俺は、モモさんの腕から逃げられなかったから。
それからアオさんとモモさんはコウと一緒に、学校を出ていった。
出ていく時も、双子とコウは大注目だった。
「それで? 聞かせてくれるよね?」
「でも授業はいいのか?」
「いいの。レン先生の授業の時間よ」
「先生にはもう、なりたくないよ」
「でも何度も転生しているなら、私達が同じ関係を繰り返すこともあるでしょう?」
「それはあるけど、できれば同じ関係にはなりたくないよ」
「レンはチャンスを逃してきてるのね」
「チャンス?」
「そうよ。同じ関係なら、一度は経験しているから分かっているはずでしょう? どこで選択を間違ったのか、探すチャンスがあるのよ?」
ユズに言われて気付いたよ。
俺って本当にバカだ。
そんなことも自分で気付かないなんて、、、。
「もし俺が先生だったらユズはどうする?」
「私? 温めるよ」
「温める?」
「うん。レン先生への想いを温めるの。そして想いをぶつけるわ」
「ユズの答えは曖昧だね?」
「だって、なってみなきゃ分からないもの。好きって気持ちは抑えられないもの」
「それってユズは俺を好きになる前提なのか?」
「レンへの想いかどうかは、分からないわ。もしかしたら、私達の幸せは別々なのかもしれないし」
ユズが言っていることは、間違いではないかもしれない。
二人が出会う運命でも、二人が幸せになる運命かは分からない。
こんなに何度も転生して、ユズに出会っても、一度も結ばれることはなかった。
もしかしたら、俺達は結ばれる運命ではないのかもしれない。
でもそれなら、どうして必ず出会って、恋に落ちるのだろう?
出会う必要も無いし、好きになる必要も無い。
転生する必要さえ無い。
「ねぇ、聞かせてよ。あの時の、悔しそうにしていたレンが思い出した、前世の私はどんな女の子なの?」
「俺が王子で前世のユズはお姫様だよ」
「身分が二人とも同じなのね?」
「だからこそ、悲劇は起きたんだよ」
「そうよね。レンには悲劇なのよね」
「ユズもだろう?」
「まだ聞いていないから分からないわ」
「そうだね。それじゃあ話すよ」
◆◆◆
「王子、どこですか?」
「僕はここだよ。アリス」
「王子、またパーティーを抜け出して、ダンスを避けているんですか?」
「そうだよ。ダンスは知らない人と密着するだろう? それが嫌なんだよ」
「本当は踊れないんですよね?」
「踊れるよ。ほらっアリスいくよ。君となら踊れるから」
「もう! 我が儘な王子様ですね」
それから僕とアリスはパーティー会場へ向かう。
僕が会場に顔を出すと、誰もが僕を見てくる。
それは何故か。
「やっぱり僕は目立つみたいだね」
「それなら胸を張って歩いて下さい。王子がどの国の王子よりも強いことを見せてあげて下さい」
「胸を張って歩くだけで、強いことが分かるのかな?」
「分かりますよ。あなたの左目の眼帯と、いつも鍛練を怠らず鍛え上げた体。私には分かります」
「アリスは僕を知っているからだよ」
「そんなことはないですよ。王子を見ている他の国の王子は怯えています。目を見れば分かります」
「そうだね。アリス、君はどの国のお姫様よりも美しいよ」
「はい」
アリスは照れながら返事だけをして、僕から離れる。
これはアリスの、ダンスを始めるという合図だ。
お互いに頭を下げて礼をして、体を密着させる。
アリスの良い香りが僕を包む。
落ち着く香り。
「王子。今日の最後は私を支えて下さいね」
「今日はアリスが激しいダンスなんだね?」
「そうです。今日は王子に負けないくらい、目立ってあげます」
そしてアリスはダンスを始める。
アリスのダンスはいつ見ても美しい。
妖艶で、そこに少しだけ子供っぽさの残る笑顔を見せる。
誰もが魅了する。
僕もその中の一人になる。
「王子、最後ですよ」
「うん」
僕はアリスに言われて腕に力を入れる。
アリスは最後に、力が抜けたように後ろに倒れる演出のダンスをする。
そのアリスの背中を、僕が横から両腕で支える。
アリスのダンスを見て、全員が上品に拍手をする。
しかしその後、アリスの身分を知ると全員が言う。
「あのお姫様は、誰もが平等の国のお姫様なの?」
「平等なのはいいけれど、国のトップなら少しは綺麗に着飾ったりして、民の見本にならなきゃダメよね?」
「小さい国なのに民が多く、住む場所もあまりないみたいよ」
「まるで貧乏の国ね」
色んな所から、アリスの噂話が聞こえる。
こんなに美しいアリスを、悪く言われるのは腹が立つ。
だから僕は全員を睨んでやるんだ。
お前達に言われる必要はないと。
お前達よりもアリスの方が、綺麗に着飾ってるよと。
「王子。そんな顔をしないで下さい。私の為に嫌われないで下さい」
「アリス?」
「王子。私の国は東の国のモノになります」
「えっ、アリスの国がなくなるの?」
「いいえ。国はそのままです。そして私の国の民が住める場所を提供してくれます」
「東の国のモノになるのに、アリスの国はなくならないのは何故なの?」
「東の国の王様が援助をして下さったのです」
「まあ、東の国の財政は一生、安泰だろうからね」
「そうですね」
僕がアリスの国の民を助けてあげたいが、僕の国にも住む場所はない。
財政も一生、安泰ではない。
治安も少しだけ悪い。
僕は自分の国のことで精一杯だ。
アリスの国を助けてくれる国が現れて、良かったと思った。
この世界は色んな国の集まりだ。
国と国が助け合うのではなく、個々で生きている。
自分の国のことは、自分の国で解決するのが常識。
だから、国のトップは大変なんだ。
国のトップの言動で全てが決まるんだ。
僕の国は力が強い者がトップを固める国だ。
でもそんな国が嫌で、僕は国を変える為に、アリスの国へ足を運んだのが、アリスとの初めての出会いだった。
アリスは高級な物を身に付ける訳でもなく、贅沢なんて程遠い暮らしをしていた。
民とも近い距離で楽しく過ごしていた。
アリスの国の民はみんな優しく、争いを嫌っていた。
アリスの国は幸せの国だった。
僕は初めて眼帯を取った姿を他人に見せた。
そう、アリスに見せたんだ。
「その目は見えてるのですか?」
「うん。ただ、右と左の目の色が違うだけなんだ」
「とても綺麗です。もう少し近付いてもよろしいですか?」
僕がいいよと言うと、アリスは近付いて僕の目を見た。
心まで見られているようで、ドキドキした。
アリスの綺麗な瞳に、吸い込まれそうになった。
アリスは僕の目に夢中で、僕に見られていることに気付いていない。
「右は黒色なのに左は濃い青色なんですね。とても綺麗です」
「君は美しいよ」
「はい」
アリスは照れながら返事をした。
優しい風が吹いて、アリスの良い香りが僕の鼻に届いた。
落ち着く香り。
懐かしい香り。
愛しい香り。
そしてアリスの国が、東の国のモノになったと噂が広がった。
噂が広がると、アリスに会うこともなくなった。
アリスは元気なのだろうか?
アリスが心配で、部下にアリスの国の様子を偵察してもらった。
するとアリスが国にいないことを知った。
アリスは東の国の王子と婚約したようだった。
僕は婚約を知って気付いた。
アリスは国の為に婚約をしたのだと。
僕には秘密にして。
いつかアリスと、一生を共にしようと思っていたのに。
アリスと話をしたくて、ほとんど参加しなかった、国と国の情報交換の場である、パーティーへ参加した。
そこにはアリスがいた。
アリスは綺麗なモノをたくさん身に付けて、色んな国の王子様やお姫様に挨拶をしていた。
僕はアリスの元へ向かった。
アリスは僕を見て一瞬だけ驚いたが、他の国の王子などに挨拶をするように、お辞儀をした。
「どうして勝手に決めたんだよ?」
「何がですか?」
「婚約だよ」
「王子様にお伝えする必要はありますか?」
「アリス?」
アリスの態度がおかしい。
何か隠している。
アリスは隣にいる婚約者である、東の国の王子を見ている。
すると、東の国の王子が、アリスのダンスを見たいと言った。
周りも賛同しているのを確認して、アリスは僕の手を取った。
「ダンスをしながら説明します」
アリスは小さな声で僕に言った。
僕はアリスに従った。
アリスは僕から離れた。
ダンスを始める合図だ。
アリスが僕に近付いてくる。
アリスの腰に手を添えて、アリスの左手を右手で持ち、体を密着させる。
「この婚約には意味があるのです。どうか信じて下さい」
「でも婚約だよ? アリスは国の為に結婚をするの?」
「いつか分かります。私の選択が間違っていないことに」
「僕は? 僕はどうすればいいの?」
「王子は自分の国をお守り下さい。私は大丈夫なので助けようとしないで下さい」
「でも、、」
「どうか私のことは助けないで下さい」
「でもアリスはそれで幸せなの?」
「王子。最後ですよ。どうか優しく受け止めて下さい」
「えっ、アリス」
今回は優しく受け止める最後の演出。
アリスは少し距離を取り、軽やかに走ってくる。
そして僕の手前で小さくジャンプをする。
僕の胸に飛び込んでくるアリスを優しく受け止める。
アリスはありがとうございますと言って、婚約者の元へ戻る。
婚約者と目で会話をするように見つめ合っていた。
アリスが僕のモノにはならないと実感した。
アリスを守る必要はもう、ない。
◆◆◆
「ちょっとまって!」
ユズが小さな声で言って、俺の話を止める。
そしてユズは、唇に人差し指を当て、目で多目的室のドアを見るように訴える。
俺がドアを見ると、誰かが外にいるようだった。
話を聞かれたかもしれない。
俺はバレないように近付き、ドアを開ける。
そこにはピンク色の髪で女性のアオさんがいた。
アオさんは涙目で、今にも泣きそうだった。
「アオさん?」
「あっ、レン君に一言だけ伝えたくて戻ったの」
アオさは素早く袖で涙を拭くと、笑顔で明るく言った。
無理をしているように見える。
「どうしました?」
「ユズちゃんは妹だからね。間違っても恋人扱いはしちゃダメよ」
「えっ恋人扱いって何ですか?」
「ユズちゃんを見る目よ。そしてユズちゃを嗅いじゃダメよ」
「えっ、それは、、それより俺とユズは恋人なんかじゃありません!」
「うん。知ってるわ」
「それなら、、、」
「さっきの話はフィクションでしょう?」
アオさんが俺の言葉を遮り、真顔で言った。
「えっ、あの、そうですよ」
「それなら良かった。好きな人と一緒にいられないのは、私だけでいいの!」
「アオさん?」
「そんな顔をしないでよ。私は、もう大丈夫よ」
アオさんは笑った。
上手に笑うアオさんは、感情も上手に隠した。
俺には、何も訊くなと言っているように見えた。
アオさんは帰っていったが、背中はとても悲しそうに見えた。
アオさんも俺と同じで、ハッピーエンドにはならない恋をしているのだろうか?
誰かが苦しんだり、誰かが傷ついたり、誰かが悲しんだり、誰かが後悔したり。
そんな恋をしているのだろうか?
俺がこの世界で諦める恋。
それはユズが他の誰かと幸せそうに笑う時。
その光景を見たら俺は、ユズを諦めるしかないのかもしれない。
読んでいただき、誠にありがとうございます。
楽しくお読みいただけましたら、幸いです。




