レベル13 老人と赤ちゃん
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「レン、今日も一緒に帰れないからね」
「ユズ、朝の挨拶はおはようだろう?」
朝からユズは挨拶ではなく、一緒に帰れないことを口にした。
「レンだって、おはようなんて言わないじゃない?」
「俺は今のユズを見て、今日から言うように決めたんだよ」
「レンったらズルイわね」
「だからユズ、今までごめん」
「いいわよ。私もごめんね。レン、おはよう」
「ユズ、おはよう」
俺達は朝の挨拶を仕切り直した。
「文化祭の準備で忙しくて、今日から文化祭まで一緒に帰れないからね」
「ユズのクラスはカフェだったよな?」
「うん、そうだよ。準備するものとか、カフェを出すのにも色々大変なのね」
ユズはそう言いながらメモ帳を取り出し、今日は何をするのか確認をしている。
「俺は去年、経験したから何か手伝おうか?」
「そんなのいいよ。三年生は純粋に文化祭を楽しんでもらう為に、出し物はしないっていう学校の決まりがあるでしょう?」
「でもユズがいないと、つまらないからね」
「レンの助けはいらないの。レンは同じ三年生のコウ君と、将来のことでも話をしたらいいじゃない?」
「何でそこでコウが出てくるんだよ?」
「文化祭はコウ君の学校と合同よ。コウ君の学校の三年生も何もしないみたいだし」
「コウとは話すことはないよ」
「そう? いつか、レンの弟になるかもよ?」
ユズはニコニコしながら言った。
俺には笑えない冗談だよ。
サラと結婚するなんて許さない。
「レン、眉間にシワ!」
ユズはそう言って俺の眉間に人差し指を当てる。
「レン、誰かの幸せを願うことも必要なことよ」
「でもそれは、サラじゃないんだよ」
「レンは昔からサラちゃんが大好きなのよね」
「サラには悲しんでほしくないだけだよ」
「そうだね。私もそう思うわ。サラちゃんもレンにはそう思っているわよ」
「サラが?」
「二人ともお互いに気付いていないのね」
ユズはクスッと笑って俺の左頬をつまんだ。
「何するんだよ?」
「サラちゃんとレンがお互いに想い合っていて、羨ましいなぁって思ってね」
「はあ? ユズと俺もだろう?」
「そんな必死に言わなくても分かっているわよ」
「それじゃあ、何で羨ましいなんて言うんだよ?」
「ん? 何となくかなぁ?」
「はあ? ユズ。俺はお前が世界で一番好きなんだよ」
「レン、恥ずかしいから大きな声で言わないで」
ユズはそう言って、俺の声が聞こえないように、走って俺から離れる。
逃げることはないだろう?
俺はユズを追いかけた。
「きゃ~、レンが追いかけてくる」
「おいっ、逃げるなユズ」
ユズは俺から逃げていく。
俺が本気を出せばすぐに追い付くけど、この追いかけっこが楽しくて、ユズに合わせ追いかけた。
「あっ、レン?」
「何?」
ユズはいきなり立ち止まり、振り向いて俺を呼んだ。
「私はレンのことを世界で一番、、、好きだよ」
「ユズ?」
ユズは頬を赤くして言った。
「あのね。世界で一番、幼馴染みとして好きだよ」
「何だよそれ?」
ユズはそう言って、また走って離れていく。
ユズと結ばれるのには、まだまだ時間がかかりそうだ。
それから文化祭まで、ユズとはほとんど会えなかった。
ユズが忙しそうにバタバタしているのを、何度か学校の廊下で見かけた。
文化祭なんて早く終わればいいのに。
俺はそう思わずにはいられなかった。
今日も一人で家へ帰った。
暇だから部屋で携帯ゲームで遊ぶ。
「レン、いるか?」
「いない」
俺の部屋のドアの前から声がした。
誰なのかは分かる。
だから部屋にいるのにいないと答えた。
「いるんだな? 中に入るぞ」
そして声の主は勝手にドアを開けて入ってきた。
「コウ、勝手に入ってくるなよな」
「話があるんだよ」
「俺にはない」
「サラ嬢のことなんだよ」
「サラがどうしたんだ?」
コウは言いにくそうな顔をしている。
「サラ嬢が最近、ため息ばかりつくんだ」
「ため息? 疲れてるんだよ」
「疲れてため息がでるのか? 普通は悩んでいてため息が出るんだろう?」
「それなら悩みがあるんじゃないのか?」
「なんだよ、その適当な返しは?」
「だって気になるなら聞けばいいじゃん」
「だったらお前はユズに聞けるのか?」
「えっ」
ユズには聞けないな。
ユズなら悩みがあれば言ってくるはず。
それを言わないのは、俺じゃ役に立たないからだと思う。
「聞けないだろう? 聞いて役に立たなかったら、サラ嬢にとって僕は、必要なのかって疑問がでてくるからな」
「そうだな。俺も、ユズの悩みを解決できなかったら落ち込むよ。消えたくなるよ」
「だろう? だからレンが、サラ嬢に何となく聞いてくれるか?」
「俺が?」
「他に頼める奴はいないだろう?」
コウは俺に頭を下げながら言った。
「ユズは?」
「ユズに言ったらそのままサラ嬢に言いそうで、、、」
「そうだな。女子には男子の気持ちは分からないよな」
「いつでもいいから、時間がある時にでも、それとなく聞いてくれないか?」
「分かった」
「そのお礼と言えるか分からないが、レンにユズの情報を教えてやるよ」
ユズの情報?
俺がユズのことで知らないことはないはずだ。
「ユズのカフェの服装が、女子はメイド服で男子はスーツ姿で接客だそうだ」
「えっ、何それ? そんなのユズから聞いてないけどな?」
「ユズはレンに言う必要はないって言ってたそうだ。サラ嬢が言ってたよ」
「そうか、分かった。サラの話を聞けたら連絡するよ」
「よろしくな」
コウは俺の部屋を出てサラの部屋へ入っていった。
サラの悩みも気になるが、ユズのメイド服も気になる。
接客なんて制服でいいだろう?
エプロンをつけるだけでいいはずだ。
誰が喜ぶんだよ?
俺は嬉しいが、でもそれは俺だけが見ればそれでいいんだ。
ユズとは会えないから暇だし、明日にでもサラに悩みがあるのか聞いてみよう。
しかし、俺はサラが悩んでいるなんて気付かなかったけどな?
コウの考え過ぎじゃないのかな?
「お兄ちゃん。おはよう」
「おはよう。しかしサラ、重い」
朝からサラは俺が寝ているのに、布団の上から馬乗りになり、俺を起こす。
「お兄ちゃん。文化祭に私も行くからね」
「ん? コウと行くんだろう?」
「お兄ちゃんと行くの」
「コウは?」
「コウちゃんは、お兄ちゃんをお姉ちゃんに渡してからよ」
「ユズに渡す? 俺って一人にしたらいけない子供なのか?」
「お姉ちゃんがそうしてって言ったの。でも私は頼りになるお兄ちゃんだって思ってるからね」
サラはニコニコしながら言う。
何か悪いことでも考えていそうな顔だ。
「何か企みがあるのか?」
「ないよ。お兄ちゃんの為だよ」
「それならユズが何か企んでいるな?」
「お兄ちゃんは何も考えないで私達と楽しめばいいのよ」
「分かった。話は終わりか?」
「うん」
「それなら俺の上からどいてくれ」
「あっ、ごめん。お兄ちゃんの上にいるの忘れてた」
サラは素早く俺の上から降り、それじゃぁ文化祭でねと言って、部屋から出ていった。
何だったんだ?
一つ分かったことは、悩みはないってことだな。
あんな元気なのに、悩みなんてあるようには見えないな。
コウには、悩みなんてなかったと伝えた。
コウは納得いかないようだったが、諦めたのか分かったと言った。
それから文化祭の日が来た。
サラと一緒に学校へ向かう。
サラは自分の行きたい場所へ俺を連れていく。
どうせならコウと一緒に行ってほしいくらいだ。
サラの隣が俺である必要があるのか?
可愛いサラを、すれ違う男子がチラチラ見ているのが分かる。
これがコウだったら、サラはチラチラ見られないだろうな。
コウがチラチラ見る男子を睨み付けたりしそうだ。
「お兄ちゃん。午後からはお姉ちゃんとバトンタッチだから、私からお兄ちゃんにプレゼントよ」
「プレゼント?」
「うん。はい、これ」
サラは綺麗にラッピングされたプレゼントをくれた。
俺はそのプレゼントの中身を見る。
「これって、写真立て?」
「うん。今度みんなで一緒に写真を撮って、これに飾ろうよ」
「そうだな」
「お兄ちゃんの部屋って、いつも寂しいって思ってたけど気付いたの。思い出がないなってね」
「思い出?」
「写真も思い出だけど、人の部屋にはぬいぐるみやフィギュアや本とか、何か残る物が絶対にあるのに、お兄ちゃんの部屋にはそれがないのよ」
「だって俺は思い出を覚えているから、物としては必要ないんだ」
俺の話を聞いてサラは悲しそうな顔をしたけど、すぐにいつものニコニコ顔に戻った。
「思い出はいつでも思い出せるように、目に見える物として置いておこうよ。第一号は写真だよ」
「そうだな。サラがくれた写真立てと一緒に思い出すよ」
「うん」
サラは嬉しそうに笑って、お姉ちゃんの教室へ行ってと言った後、コウが待っているからと走って待ち合わせ場所へと行った。
俺はユズの教室へと向かう。
ユズの教室へと向かうと、ユズはいなかった。
だか、ユズのクラスメイトが、屋上でユズが待っていると教えてくれた。
そして俺は屋上へ向かい、ドアを開けた。
コーヒーの良い香りが俺を迎え入れた。
「レン、どうぞこちらへ」
ユズはメイド服で椅子を引いて俺に座るように言う。
メイド服だが、スカートが短い訳でもなく、露出が高い訳でもなく、とてもシンプルな黒のメイド服に白いエプロン、そして黒いタイツをはいている。
「ユズ。メイド服、似合ってるよ」
「ありがとう。今日のレンは私のご主人様よ」
「何で?」
「えっ、何でって誕生日だからだよ」
「誕生日?」
「今日はレンの誕生日でしょう?」
「あっ、そういえばそうだ」
「サラちゃんからプレゼントを貰っても、気付かないってサラちゃんが言ってたけど、本当に気付かないなんて、レンって本当に自分の人生に興味がないみたいね」
ユズは呆れたように言った。
「自分の誕生日に興味がないだけだよ。そういえば、誕生日といえば一つだけ思い出すことがあるんだ」
「昔のお話ね?」
「そう。聞くだろう?」
「うん、でも待って。コーヒーを準備するわ。ご主人様」
ユズは手際よくコーヒーを作ってくれた。
コーヒーの良い香りの中、俺は話す。
「これは老人と赤ちゃんの話だよ」
「歳の差もすごいけど、二人が結ばれることはないような感じね?」
「そうだね。でも俺はこの転生は、できて良かったと思っているよ」
「そうなんだね。早く聞きたいわ」
◆◆◆
「じぃちゃん、今日はどんな話をしてくれるんだ?」
「そうだね。今日は狼少女の話でもしようかな?」
ワシは彼女に会えないまま年老いた。
彼女に会えなかったが、ワシを慕ってくれる青年に出会って、毎日が楽しかった。
ワシの話を楽しみにしてくれる。
彼女との前世の話を。
そんなある日、青年が赤い顔をして恥ずかしそうにモジモジしている。
「じぃちゃん、好きな子ができたんだ」
「それなら彼女が誰かに取られる前に伝えなさい」
「そうだね。じぃちゃんありがとう」
「頑張るんだぞ」
そして青年は、何日かワシの所に遊びには来なかった。
どうしたのだろうかと心配になった。
「じぃちゃん、俺の彼女だよ」
ある日、青年が恋人を連れてやってきた。
青年の恋人は可愛らしく、大人しい女の子だった。
ワシは自分のことのように喜んだ。
それから青年は、恋人と一緒にワシの所へ来るようになった。
賑やかになって毎日がもっと楽しくなった。
「じぃちゃん」
「あれ? 今日は彼女はいないのかい?」
「それが彼女と喧嘩をしたんだ」
「どちらが悪いかは分からないが、早く仲直りをしなさい。一緒にいられる時間は案外、短いんだよ?」
「そうだね。じぃちゃんありがとう」
そして青年は、彼女と仲直りをしたとワシに報告をしてくれた。
それから一ヶ月後に、次は彼女が一人でワシの所へ来た。
「今日は、君が一人なのかい?」
「おじいさん、彼は行ってしまいました」
「何処へ?」
「遠くの国へ戦いへと」
「そうだったのか。君は寂しいだろうね?」
「私にはおじいさんがいます。彼の大切なおじいさんがいるので、私は大丈夫です」
「君は強いね。」
「だって私はママになるんです」
彼女の言葉に驚いた。
青年と彼女に赤ちゃんができていたなんて、本当に嬉しい。
「おめでとう。君達の赤ちゃんは良い子に育つだろうね」
「そうなってくれるような名前にしたいんです」
「名前も大切だからね」
「はい。だからその名前をおじいさんが決めて下さい」
「他人のワシが名前をつけるなんてできないよ」
「彼は、おじいさんはそう言うと言っていました」
「彼にはお見通しなんだね」
「そうですよ。だから彼は言っていました。彼も考えるから、彼が戻るまでにおじいさんも考えてほしいって」
彼女は不安そうな顔をして言った。
彼が危険な所へ行ったのは分かっている。
彼女は彼が元気に帰ってくるのか、不安でたまらないのだろう。
「分かったよ。彼が帰るまでには考えておくよ」
「ありがとう。おじいさん」
それからワシは赤ちゃんの名前を考えた。
彼女は毎日、ワシの所へ遊びに来てくれた。
彼女のお腹はどんどん大きくなる。
「彼はいつ帰ってくるのでしょうね?」
「もうすぐだよ。赤ちゃんが産まれる頃には帰ってくるよ」
「でも、、、」
「大丈夫。君達はハッピーエンドだから」
「ハッピーエンド?」
「バッドエンドはワシだけでいいんだ」
「おじいさんもハッピーエンドです。おじいさんには可愛いひ孫ができるんですよ?」
「ひ孫? そうだね。君達はワシの孫だからね」
結ばれる運命の彼女には出会えなかったけれど、孫もひ孫もできたワシはハッピーエンドになるのかな?
しかし、最近は身体が重い。
動くのも一苦労だ。
何故か目の前の景色が回っている。
「おじいさん!」
彼女の声が遠くから聞こえた。
手に温もりを感じて目を開けると、彼女がワシの手を握り、椅子に座って居眠りをしている。
ワシは病院にいるようだ。
彼女はスヤスヤ眠っているようだが、起きたことを知らせる為に腕を引っ張った。
「えっ」
「迷惑かけたね」
「迷惑じゃないですよ。心配です」
彼女は嬉しいのかワシに抱き付いてきた。
「赤ちゃんは元気かい?」
「はい。お腹の中で暴れていますよ。痛っ」
「どうしたんだい?」
「産まれるかも」
「それなら看護師さんを呼ばなければ」
ワシはナースコールを押す。
それから彼女は他の場所へと連れていかれた。
赤ちゃんが産まれるのに、彼は帰ってこない。
彼女は大丈夫なのだろうか?
心配で夜も眠れない。
朝、看護師さんが検温をしに来た時に、無事に赤ちゃんが産まれたことを教えてくれた。
母子ともに、元気だそうだ。
すぐにでも赤ちゃんを見たかったが、身体が動かなかった。
身体が重く、疲れているようだ。
ワシは一晩中、起きていたからいつの間にか眠っていた。
それからどこか遠くから、赤ちゃんの泣き声が聞こえて目を覚ました。
「おじいさん、産まれましたよ。女の子です」
「小さくて可愛い子だね。君もこの子もよく頑張ったね」
「はい。でも、彼は帰って来ないんです」
「もうすぐ帰って来るよ。君達はハッピーエンドなんだからね。一緒に待とうよ」
「はい! おじいさん、抱っこします?」
「赤ん坊なんて初めて抱くよ。できるかな?」
重かった身体はいつの間にか軽くなって、赤ん坊を初めて抱いた。
フワッと風が吹いて桜の花びらが舞い、一緒にあの香りがした。
落ち着く香りが。
「やっと君に会えたよ」
「おじいさん?」
「会いたかったんだよ。この子に」
「私もです」
「桜子」
「桜子ですか。可愛い名前ですね」
桜子が泣き出してワシは彼女に渡す。
母親の抱っこですぐに泣き止んだ。
次の日、桜子の父親が帰ってきた。
父親は桜子を抱っこしてワシの病室へと来た。
「じぃちゃん、俺の娘に名前を付けてくれてありがとう。桜子は大事に育てるから」
ワシは彼の言葉に小さく頷くことしかできない。
結ばれる運命の彼女にやっと出会えたのに、さよならなんて悔しいよ。
「じぃちゃん、絶対に忘れないから。桜子にもじぃちゃんのこと、ちゃんと伝えるから」
「桜子、、、愛、、して、、る」
◆◆◆
「素敵な話ね」
ユズは右手で頬杖ついて、俺を見ながら言った。
優しく少し冷たい風がコーヒーの香りとユズの香りを運んで俺を包んだ。
「俺の孫達は、ハッピーエンドで生涯を終わらせたのかなあ?」
「それは分からないけど、二人はどっちでもいいんだって思うよ」
「でも誰でもハッピーエンドで終わりたいだろう?」
「そうね。でもね最期の時にハッピーエンドがいいなんて思わないでしょう? 最期は走馬灯のように思い出が頭の中で流れていくんだと思うの」
「ユズは死ぬ時の感覚は知らないからね」
「レンは?」
「俺はいつも、今までの色んな彼女達を思い出して暗闇へと落ちて行くんだ」
「暗闇へ、、、寂しいわね」
ユズはそう言って、俺の手を握ってくれる。
ただ俺の手の上に重ねるくらいだけど、ユズの温もりが全身へと広がる。
「あの時が一番、嫌な瞬間かもしれない」
「天国から地獄へと突き落とされるみたいね」
ユズは俺の気持ちを分け合うように、一緒に悲しんでくれる。
そして俺の心を軽くしてくれる。
「なあ、ユズ」
「何?」
「写真を撮ってもいいかな?」
「写真? いいよ」
そして俺は携帯電話を取り出す。
携帯電話で、ユズが俺の手の上に手を乗せているところを、写真で撮った。
「どうして手なの?」
「このユズの温もりを忘れたくないからだよ」
「私はいつでもレンを温めるよ。だから私も忘れたくないよ」
ユズの気持ちが痛いほど分かる。
前世のことを何も覚えていないユズが、どれだけ悔しくて、自分を責めているのか。
俺はユズの心の痛みを分けてほしくて、ユズの下にある俺の手の掌を上に向け、ユズの手を包むように握った。
ユズ。
君は何も悪くないんだよ。
だって俺にとって、ユズが俺の目の前にいてくれるだけで嬉しいんだから。
「レンの手は温かいね」
「ユズの指先は冷たいね」
「だからちょうどいいでしょう?」
ユズはクスッと笑って言った。
「無いものを補える俺達は、結ばれる運命なんだ」
「そうね。結ばれる運命ならね」
「ユズ?」
「だってそうでしょう? 何度、繰り返しても結ばれないのは運命じゃないのよ」
「運命だよ」
「どうしてそこまで自信を持って言えるの?」
「俺は全てを覚えていて経験しているからだよ」
「私にもその自信がほしいわ」
「だからユズに前世を教えているんだよ」
「そうね。もっと教えて。もっと自信を持たせて」
「ユズが自信を持てるまで、たくさん教えるよ。たくさん話すよ」
俺の言葉にユズはゆっくりと頷いた。
ユズなら大丈夫。
ユズとなら大丈夫。
俺達は必ず結ばれる。
大丈夫なんだ!
読んでいただき、誠にありがとうございます。
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