レベル12 医者と戦士
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ユズのご褒美は何なのだろう?
「ユズの部屋でご褒美♪」
「変なことは考えないでよ」
「えっ、ユズのキスじゃないのかよ?」
「違うわ。幼馴染みには幼馴染みらしいものをあげるわよ」
「嫌がらせで甘い物とかはやめろよ」
「それいいね。今度しようかなぁ」
そう言ってユズは鼻歌を歌いながら歩く。
凄く機嫌がいいみたいだ。
ユズの部屋に入り、目を閉じろと言われ、目を閉じた。
「レン、目を開けていいよ」
俺が目を開けるとユズはニコニコしながら、見たことのある物を持っている。
「それって鉄板でできた賞状だろう? でも、なんでここにあるわけ?」
「本当は賞状じゃないの」
「それじゃあ何?」
「アルバムよ」
「アルバム?」
「そう。でも写真じゃなくて言葉のアルバムよ」
「言葉?」
「これで書いてみるね」
ユズはそう言ってペンの形をした先の尖ったものでレンと書いた。
「この鉄板に、レンが楽しかったことを言葉で残していってほしいの」
「残す? 何で?」
「思い出は忘れたくないでしょう?」
「それならこんな鉄板じゃなくてもいいと思うけど? ノートでいいじゃん」
「ノートじゃ普通だから、鉄板にしてみたの」
「本当は?」
「えっ」
「本当の目的は?」
「ただずっと残っててほしいから鉄板にしたの」
「それは誰の為に?」
「レン、何か怖いよ?」
ユズが怯えている。
でも、今はそれどころではない。
ユズがこの世界での俺達の未来を、諦めていることに気付いてイラッとする。
「だってユズが諦めてるから」
「諦める?」
「この世界では俺達は結ばれないって思っているんだろう?」
「そんなことはないよ」
「それならなんで次の俺達に残すような物を作ったんだよ?」
「これは次がなくなるように作ったの」
「どういう意味?」
「レンは今まで、何かを残したことはあるの?」
「そういえば無いかも。でもそんなことを考える余裕さえなかったからね」
「だから、これを作ったのよ。今までとは違うことをするの。まずはレンの名前を書いてね」
「俺の名前から?」
「レンって、昔の自分の名前を一つも覚えていないでしょう?」
そういえば、自分の名前を覚えていない。
王子や狩人、兄や村人としか覚えていない。
まずは名前からだな。
「それ貸して」
「うん」
俺はユズからペンのような先の尖った物を借りて鉄板に書く。
「俺の横にはユズが必要だろう?」
「うん」
俺はユズが書いたレンの文字の横にユズと書いたんだ。
この鉄板に書く物語は俺とユズのモノだから。
「レン、今日のことを書いてよ。今日は楽しかったんでしょう?」
「ああ、そうだな。ユズが俺のお姫様になったって書かないとな」
「嘘はダメよ」
ユズは頬を膨らまして怒っている。
そんなユズも可愛い。
「嘘じゃないだろう? お姫様抱っこをしたんだからな」
「紛らわしい書き方はやめてよね」
「それじゃあ、何て書けばいいんだよ?」
「体育祭での借り物競争とかでいいんじゃないの? 私達が分かればいいの」
「そうだな。家に帰って書くよ」
「そう? ちゃんと書いてよ」
「ユズ?」
ユズの顔色が変わった気がした。
どこか悲し気な表情に見えた。
一瞬だけだけど。
「さあ、今日は疲れたからレンは帰ってよ」
「えっ、まだいてもいいじゃん」
「早くシャワーを浴びたいの」
「それなら浴びてくればいいじゃん。俺は待ってるから」
「レン!」
「何だよ? 何で怒ってんだよ?」
「デリカシーがないわよ! 早く帰りなさい!」
「分かったよ」
俺は追い出されるようにユズの部屋を出た。
「レン」
「ん?」
「また明日ね」
「えっ、あっ、うん」
「私は約束は守るからね」
ユズは俺を待たせた令嬢様とは違うと、言いたいのだろう。
そんなの俺は分かっているのに。
「ユズ、知ってるよ」
俺の言葉にユズは嬉しそうに笑った。
しかし、この鉄板の使い道は俺の為だったんだな。
それに、コウはサラの為にブレスレットを作っていたなんて、あんなに近くで見ていたのに気付かない俺って、どんだけバカなんだよ。
だから何度も転生しているのかもしれない。
バカってなおるのかな?
天才になったりするのかな?
俺は家へ帰り鉄板に今日のことを簡単に書いた。
体育祭で大事なモノを見つけた。
そう書いた。
俺には分かるけどユズには分からないだろう。
それでいい。
ユズがこの鉄板を見ることはないんだ。
この鉄板は必要なくなるんだ。
ユズと俺は幸せになって、鉄板のことなんて忘れて生きていくんだ。
この人生が最後なんだ。
俺も。
ユズも。
「お兄ちゃん。見てよ。魔法戦士サラちゃんだよ」
ある日、サラがそう言って俺の部屋に入ってきた。
そんなサラを見て俺は驚いた。
「サラ、その格好は何だよ?」
「だから、魔法戦士サラちゃんだって言ってるでしょう」
「魔法戦士? そんなの知らないが、その短いスカートにおへそが見えそうな短い服は何だよ?」
「お兄ちゃん、知らないの? 最近、流行っている魔法戦士のアニメだよ」
「アニメは知らない。流行っているのは分かったが、そのコスプレはやめなさい」
「やめないよ。ハロウィンで着るんだからね」
「ハロウィン? 家で着るだけだろう?」
「コウちゃんの家に遊びに行くの。そして驚かせてあげるんだ」
サラはクスクス笑っている。
コウの驚く顔を思い浮かべているのだろう。
「この家以外で着るのは禁止だ」
「何でお兄ちゃんが決めるの? お母さんは可愛いって言ってくれて、コウちゃんの家へ行くのもオッケーしてくれたよ?」
「サラ、お前は受験生だろう?」
「お兄ちゃん残念でした。私は受験なんてないのよ。お兄ちゃんもそうだったでしょう?」
そうだった。
サラの中学校はテストの成績が良い生徒は俺の高校に試験無しで入れるんだった。
俺も、ユズも試験無しで入学したんだ。
誰だよ、試験無しで入学できるようにしたのは?
もし、サラに何かあったら、理事長に文句でも言わないといけないな。
「お兄ちゃんはハロウィンはどうするの?」
「ハロウィンなんてする必要ないだろう? 俺はそんな仮装なんてしたくないし」
「でも、お姉ちゃんならこのコスプレが似合いそうよ」
ユズが魔法戦士のコスプレだと?
ユズの細くて白い足が短いスカートから見えるのか?
ユズがおへその見えそうなコスプレをして、俺は見えそうで見えないお腹をドキドキしながら見るのか?
「お兄ちゃんったらお姉ちゃんの妄想してるでしょう? キモい」
「お兄ちゃんにキモいはダメだろう?」
「お兄ちゃん。気持ち悪い」
サラはそう言って部屋を出ていった。
キモいも、気持ち悪いも同じだろう?
でもな、ユズは何でも似合うんだ。
今までの昔のユズが教えてくれている。
色んな世界での、色んなユズ。
色んな服装を見てきている俺には、ユズの仮装はそんなに驚くものではないと思う。
俺はそう思っていた。
「お兄ちゃん。コウちゃんの家に行ってくるね。一人でお留守番は大丈夫?」
「俺はサラみたいなガキじゃないんだよ」
「何よ。お兄ちゃんなんて、ハロウィンの夜を一人で寂しく過ごせばいいのよ」
サラは俺に嫌みを言って家を出ていった。
今日はハロウィンだ。
両親は仕事で、サラはコウの家へ上着を着て、コスプレを着てでかけた。
俺は何も予定はなく、一人でハロウィンというより、普通の一日を過ごしている。
眠くなったからベッドに横になり、目を閉じた。
「、、きて、、、ン」
聞き慣れた声に俺は目をゆっくりと開ける。
「やっと起きたね。何回も起こしたんだよ?」
「えっ、何で君が?」
「どうしたの?」
「あなたはやはり、美しいお方です」
「レン?」
レンと呼ばれて俺は目の前にいるのが、ユズだと気付く。
夢なんだと思っていた。
「今回のレンは私を見ていなかったわ。誰を想って見ていたの?」
ユズは不安な顔をしている。
「ごめん。ユズが前世のユズに似ていたからね」
「前世の私に似てるの?」
「うん。その戦士の服装はレイラ様を思い出すんだ」
ユズはサラが仮装していた、魔法戦士の服装に似ている男性用の戦士の服装をしていた。
「これは魔法戦士の仲間である男の子の服装よ」
「男の子の服装なんだね」
「女の子が女の子の仮装しても面白くないから、男の子にしてみたの」
ユズは男の子の仮装をしてもよく似合う。
格好いいというより、美しいという言葉がよく似合う。
「ユズ、とても似合うね。格好いいより、美しいよ」
「それは私に言ってるの? それともレイラって人に言ってるの?」
「俺はユズに言ってるよ。それにレイラ様は前世のユズだよ? どっちでも同じじゃん」
「レンったら、ヒドイわね。前世は前世よ。私は私だけなのよ?」
ユズは傷ついた顔をしている。
ユズはユズ一人だけなのに、前世のユズと同じにしたらいけないのに。
「ユズ、本当にごめん。もう、前世のユズとは同じだとは言わないから。許してよ」
「それなら、そのレイラっていう人のお話を聞かせてよ」
「話をしていいのか?」
「うん。私に似ている彼女の話が聞きたいわ」
「分かったよ。これは、俺が医者で彼女が戦士の話だよ」
「女の人が戦士なんて、強い女性だったんでしょうね」
「うん。彼女は男性より賢く、強かったよ」
◆◆◆
「今日はどうなされたのですか?」
僕は医者になった。
色んな兵隊さんの怪我を治す医者になったんだ。
彼女とはまだ出会えていない。
こんな所で彼女とは会いたくない。
だってここは怪我人が来る所だからだ。
彼女が来たら怪我をしていることになる。
彼女には健康で、痛い思いはしてほしくないから。
僕はいつものように、カルテを見て怪我人の兵隊の方を見る。
「今日は私のせいで部下の腕に傷をつけてしまったんだよ」
「あれ? あなたは初めてお目にかかるお方ですね」
怪我をした兵隊の側に女性が立っており、申し訳なさそうに言った。
その女性は沢山の勲章をつけ、普通の兵隊とは違う高級そうな軍服を着ていた。
「私はレイラ。今日からこの城の隊長になったんだよ」
「女性なんて珍しいですね」
「女性が隊長になってはいけないと?」
「いいえ。女性が隊長だと、気配りができて賢い戦略を立てていただけそうで、とても期待しておりますよ」
「それはありがとう。でも女性だからと思ってもらいたくはないよ」
「あっ、そうですね。レイラ様はお強いお方でしょうね」
僕はそう言って、怪我をしている兵隊を見る。
兵隊は、レイラ様が一番お強いのですと、首を大きく縦に振りながら言った。
「お強いのは分かりましたので、訓練中は少しだけ力を抜いていただくと、彼のように怪我をする方はいなくなるのではないでしょうか?」
「それはそうなのだが、最近は平和すぎて、士気が下がっているように思えたので」
「平和なことは良いことですよね?」
「そうだが、平和でも私達はいつでも、戦える準備をしておかなければいけないので」
「いつもお疲れ様です」
僕はそう言って二人に頭を下げた。
兵隊達にはこの城を守ってもらっているのだから、お礼を言いたくなった。
兵隊の傷に包帯を巻き、手当てを終わらせた。
兵隊は僕にお礼を言って、レイラ様にもっと強くなりますと言い、救護室を出ていった。
「あのっ、ありがとうございます」
えっ。
さっきまでのお強いレイラ様ではなく、どこか柔らかく親しみやすさを感じるような笑顔で、レイラ様はお礼を言って一礼をした。
「レイラ様はもしかして、部下の前ではお強いお方に見えるようにしているのですか?」
「そうですね。女性だからと見下されるのは嫌なのです」
「今のレイラ様も兵隊達は親しみやすくて良いのでは?」
「あなたには分かりませんよ。男性のあなたには、、、」
レイラ様には何かあったのだろう。
僕にはその何かを聞く勇気はない。
今は僕の前で、可愛らしい女性のレイラ様を見られるだけで嬉しい。
それからレイラ様は、たまに僕の所に来ては愚痴を言ったり、甘いスイーツを食べたりした。
レイラ様の可愛らしい部分を僕しか知らない。
そんなことがこんなに嬉しいなんて、レイラ様が結ばれる相手だったらいいのに。
でもレイラ様からはあの香りはしない。
彼女の落ち着く香りが。
「お医者様。今日は大切なお話をする為に来ました」
「レイラ様。今日は顔色が悪いようですね」
「私は大丈夫です。ですので私の話を聞いてくれますか?」
「いいですよ」
「私は小さな頃から母と二人で過ごしていました。そして母は女性だからといって、何でも諦めることはしたくないと言っていました」
「強いお母様だったのですね」
「そうです。しかし母は身体を悪くして、幼い私を置いて天国へと旅立ちました。私はそこから大変でした。母のように強い女性になる為に、全てを我慢して今まで生きてきました」
レイラ様の顔は苦しそうで、どれだけ大変だったのかが、よく分かる。
「この世界は、まだ女性にとっては、生きにくい世界ですからね」
「でも、そんな私をお医者様は救ってくれました。だから最後に、お医者様にはちゃんとお礼を言いたかったのです」
「最後ですか?」
「はい。私は明日から王様と少し遠い国へ行くのです。ですので今日が最後になるかもしれません」
レイラ様の言葉の意味は分かる。
レイラ様は危険な場所へ行くのだということ。
王様が危険になったら、自分の命を差し出す覚悟があるということ。
「私もお礼が言いたいです。いつも僕に可愛らしいレイラ様を見せていただき、ありがとうございます」
「どうかお医者様はお幸せに」
「レイラ様。お気を付けて」
「はい」
レイラ様にはお幸せにとは返せなかった。
僕にはレイラ様の幸せが何なのか分からないから。
だからレイラ様の幸せを願うことはできない。
レイラ様とは今日が最後だ。
レイラ様が強くて良かった。
レイラ様が彼女じゃなくて良かった。
レイラ様との別れは悲しい。
でも僕にはまだ彼女がいる。
どこかに、僕を待っている彼女がいるんだ。
しかし僕の頭の中にはレイラ様がいる。
何日か経ってもレイラ様がいた。
そんな日が続いたある日。
レイラ様が亡くなったと連絡がきた。
僕はその話を聞いてもいつも通り、患者達の傷を治した。
悲しむこともないほど、レイラ様には思い入れがないのかもしれない。
レイラ様の死を僕は前から覚悟をしていたのかもしれない。
だから泣いたり、悲しむことはないのだと思っていた。
レイラ様の死を知ってから四日後に、僕宛に手紙があると兵隊から預かった。
その手紙はレイラ様からだった。
僕は救護室から自分の部屋へ戻り、手紙を読む。
その手紙にはたった一行だけ書いてあった。
「お医者様の側でずっと落ち着いていたかった」
僕はその一行を読んで涙が流れた。
そしてその手紙からふわっとあの香りがしたから、その涙は止まらない。
レイラ様も僕もお互いが落ち着く香り。
それは僕達がずっと願ってきた、結ばれる運命の相手という証拠。
◆◆◆
「運命の相手だと知って涙が出るなんて、それは後悔からの涙なの?」
ユズは俺の気持ちを確かめたいのだろう。
俺の心に寄り添いたいと思っているのだろう。
「あの時の涙は知ったからなんだ。彼女にはもう会えないと知ったから。彼女の死を受け入れたからなんだ」
「側にいて当たり前の人の死を、受け入れるのは簡単じゃないわよね。私だったら考えられないもの」
「人の死を何度も見てきた俺だけど、人の死を受け入れるのは慣れないんだ」
「人が死ぬことに慣れる訳がないでしょう? その人はたった一人しかいないのよ。後にも先にもたった一人だけよ。人が生き返るようなゲームじゃないんだからね」
ユズは少し怒っているようだ。
「ユズ、ごめん。この物語はいつもと違っていたからね。俺も動揺してたんだ」
「いつもと違うの?」
「うん。手紙で結ばれる運命の彼女だと知ったからね。あんなに近くにいたのに気付かなかったなんて」
「そうだよね。彼女が香水をしていたとかじゃないでしょう?」
「彼女と過ごしていたあの場所は、消毒液の匂いしかしなかったからね」
「それよ!」
「それ?」
「消毒液の匂いで彼女の香りが消えていたのよ」
「消毒液のせいなのか?」
「彼女とは他の場所で会ったりしなかったの?」
「しなかったよ。彼女は隠れるように俺の所に来ていたからね」
やっぱり消毒液のせいよとユズは言って、納得していた。
もし彼女と他の場所で会っていたら、彼女に行くのをやめてほしいと言っていたかもしれない。
「でも、彼女は結ばれる運命の相手だと知っても、王様と一緒に遠くの国へ行ったでしょうね」
「えっ、何で?」
「彼女は強くて賢い人なんでしょう?」
「そうだけど、俺は何度でも引き留めたと思うよ」
「レンはそんなだから何度も転生するのよ」
「どういう意味だよ?」
「自分の気持ちを優先しすぎよ。彼女は女性だからって諦めたくない人よ。そんな人を引き留めるのは無理なのよ」
「それならどうすればいいんだよ? 帰りを待つのか?」
「違うわよ。一緒に行けばいいのよ」
ユズは当たり前という顔をして言った。
「そんなこと考えつかなかったよ。だってあの世界は危険が隣り合わせだから。城の中だけが平和だったんだ」
「彼女は戦士よ。強い女戦士なんだから、負けるなんて考えはなかったわよ。私だって戦士なのよ?」
ユズはそう言って自分のコスプレ衣裳を俺に見せつけるようにその場でくるくる回る。
「ユズ、俺は戦士の君といつまでも一緒にいるよ。君が負けそうな時、君を支える光になるよ」
「レンったら、本当に魔法戦士のアニメを知らないの?」
「どうして?」
「だって魔法戦士の男の子の台詞にそっくりなんだもん」
「俺は本当にアニメは知らないよ」
「そうね。そっくりなだけよね。だって男の子は光じゃなくて翼になるんだもん。主人公の魔法戦士の女の子の翼になるの。真っ白で大きな翼にね」
そんな話をしているユズの笑顔は眩しかった。
俺がユズの光になるはずなのに、ユズが俺の光になっている。
ユズがバッドエンドを繰り返す俺の暗闇を、光で照らしてくれる。
ユズが俺を救ってくれるかもしれない。
「ユズ」
「何?」
「そのコスプレ、俺は好きだよ」
「気に入ってくれた? それならお菓子を頂戴」
ユズはそう言って両手を出してきた。
本当のハロウィンとは少し違う気がするが、ユズが可愛いから気にしない。
「それなら今からお菓子を買ってコウの家へ行くか?」
「もしかしてサラちゃんの邪魔をしに行くの?」
「違うよ。みんなでパーティーをした方が楽しいだろう?」
「レンったらバレバレなのよ。仕方ないわね。どうせコウ君の家も知らないんでしょう?」
「知らない」
「私も一緒に行くわよ」
ユズは呆れているように言っているが、少し嬉しそうに微笑んでいた。
「ユズ、ユズはどんな姿でも惹かれるよ」
「レンはちゃんと中身を見てくれるものね」
ユズはそう言って上着を着た。
そして嬉しそうに行こうよと言った。
コウの家へついてから、コウとサラの邪魔をしたのは言うまでもない。
読んでいただき、誠にありがとうございます。
切ないストーリーもありますが、楽しくお読みいただけましたら幸いです。