予防
半年程度空いてしまいましたが、久しぶりに更新しよっかなーって感じで更新しました(雑)
毎月少しずつPVが入っていて、うれしいです。見ていてくださった皆様、ありがとうございます。
「いくらなんでも取ってきすぎではないか? そんなに大量に使うことなどあるのか、ましてや貴様らに。そもそも毒を持つ魔物は少ないんだぞ?」
「こんな量あっても困るだけじゃないかしら? 余るわよ、確実に」
二人の正論に、俺とソルドは返す言葉もない。
「いや、だって、レアなアイテムだし、役にも立つから…」
しどろもどろでソルドが言う。けれど、そんな言い訳が通用するわけもなく。
「何か言ったか?」
イシュハが鋭く言い放つ。
「いや何も」
早口でそう言い、ソルドはそのまま押し黙ってしまった。
「もう、どれだけ取ってきてるの。持てる量には限りがあることくらいわかってるでしょ? それに、無駄に資源を浪費しないの」
「「すみませんでした」」
俺とソルドは大人しく頭を下げた。
「全くもう」
ため息混じりにアシーナは呟いた。その視線は、床の方に向かっている。
…アシーナ、確実に瓶を凝視してるよな。
なるほど、どんな成分が入っているのか気になっているんだな?
「…アシーナ。どうせ余るなら、ちょっと『分解』して調べてみない?」
俺は恐る恐る、アシーナに提案した。
隣のソルドがそっと俺の袖を引っ張る。余計なこと言うな、絞められるぞ、とでも言わんばかりの気配を感じる。
だが、俺の予想は当たっていたらしい。
「あら、いいの? やってみましょう」
心なしか弾んだ声で、アシーナがそう言った。
さっきまでの冷たい視線と打って変わって、興味津々の子供の顔になっている。やっぱり気になってたんだろうな…。
各々が一本ずつ瓶を取り、俺たちはそれに手をかざした。
「「『分解』」」
薄く水が光り、さらり、と砂が流れるような軽やかな音がした。同時に、大量の情報が頭になだれ込んでくる。この水を構成する、成分の情報だ。
やがて、その光が消えた。同時に、なだれ込んでくる情報も止まった。
…マジか。
「…本当に強い解毒作用があるのね。それに、飲むだけでもありとあらゆる毒に耐性がつくのよ。この万能薬、どうにかして自分で作れないかしら」
「ほんとに文字通り万能薬だ。毒に対して、だけど。効かない毒はないんじゃないかってくらいに全方位網羅している。加えて予防もできる…? 意味がわからないよもう…」
俺とアシーナは思わず天を仰いだ。
もはや呆れるレベルの万能っぷりだ。毒に警戒する必要でもあったのかこの村では。
「小難しいことを話されたってわからないからまとめると、毒に対する万能薬ってことだよな! しかも、飲むだけで予防ができる。合ってるか?」
能天気にソルドが言う。
浅く頷いたのが見えたらしい、ソルドばニコニコ笑って瓶に手を伸ばし、一本をぐいっと飲み干した。そして、すぐに顔を歪めた。
「良薬は口に苦し、ってのはほんとだな。お世辞にも美味いとは言えない」
顔を顰めながらも、彼は空になった瓶を放り出してもう一本に手を伸ばし、それをイシュハに手渡した。
目を真ん丸に開いて、イシュハはソルドとその瓶を交互に見比べた。
「体が小さい方が毒が回りやすいと聞くからな! イシュハも飲んだ方がいいだろう」
「あ、あぁ。ありがとう」
ようやくいつもの真顔を取り戻すと、イシュハは瓶を受け取り、中身をゆっくりと飲んだ。
瓶を口から離すと、彼女は眉間に皺を寄せた。
「…確かに、すすんで飲もうとは思わない味だな、ソルド。それはともかくとして、ニーケ、アシーナ。貴様らも飲め。私なんかよりも前線で戦う貴様らの方が危険だろう?」
「危険なのは四人とも同じよ、イシュハ。昨夜の戦いの勝利はあなたのサポートがあってこそじゃないの」
そう言いつつ、アシーナも瓶を手に取り、流し込んだ。表情が徐々に消えていく。そんなにまずいのだろうか。
不安になりつつも、俺は瓶を持って勢いよく傾けた。鼻につく独特のにおいに、生ぬるい水温。金属が溶けだしたのだろうか、あの嫌な味がする。
鼻をつまみ、どうにか飲み切る。でも、もう二度と飲みたくはない。最終手段にしておきたいなぁ。
隣を見れば、アシーナが少し中身が残った状態で飲むのをあきらめていた。
「分解の時点からわかっていたけど、人間が飲んでおいしいと感じるわけがないわね…。ごめんなさい、全部飲むのは厳しいわ」
バツが悪そうに少し俯き、小さい声で彼女は言った。
「少し飲むだけでも違うだろう! あれを全部飲むのは骨が折れる、しょうがないと思うぞ」
「気にすることないよ。あれ、すごくまずいからね」
「…ええ、ごめんなさい。ありがとう」
眉を少し下げ、彼女は困ったように笑った。これに関しては大量に持ってきた俺らが悪いんだから、そんな顔をしないでほしい。
なんとなくそれを言うのは気恥ずかしかったから、俺は黙って彼女の肩に手を置いた。
アシーナの視線がこっちを向く。上目遣いのその視線に、ドキリとする。
視線が合致したことに驚いたように、アシーナがびくりと体を震わせた。視線が少し泳ぐ。
その時、外から扉を叩く音がした。
「はい、なんでしょうか?」
するりと扉が開き、女性がぺこりと頭を下げた。
「おくつろぎのところ、申し訳ありません。お食事がもう少しでご用意できるので、ご連絡しようと思って。ご案内しますか?」
俺たちは顔を見合わせ、次いで部屋の様子を見た。
温泉水がたっぷり入った瓶が、そこら中に転がっている。お世辞にも綺麗とは言えない部屋だ。
「俺は、これ片付けてから行くよ」
「そうね、私も手伝うわ」
「僕は行くよ。かなり腹も減ったからな」
「私も行こう。片付けは任せてもいいか?」
「うん、任せて」
俺がそう頷くと、ソルドとイシュハは案内に来た女性の後について行ってしまった。
すっと扉が閉まり、ぱたりと音がした。
少し薄暗い部屋の中。残った俺たちは、黙々と瓶を拾い始めた。
「ふぅ。大方終わったかしら?」
アシーナが、顔にかかった髪を払いながら言う。部屋中に転がっていた瓶は、一か所にまとめて置いてある。ようやく見られる様子になった。
最後の一本をそこに置き、俺も頷く。
「そうだね。それじゃあ、俺たちも行こうか」
「……ええ、そうね」
なぜか、アシーナの歯切れが悪い。どうしたのだろうと思って、彼女を振り返る。
その瞬間、アシーナに強く手を引かれ、俺はその場に引き倒された。
「どうしたのアシーナ、急に引っ張ったりして…」
体を起こして彼女の顔を見る。そして、俺は言葉を失った。
今までにないほど、彼女の顔が赤い。目が潤み、光が揺れている。その目が、控えめに、上目遣いで俺を捉える。
「……今、二人しかいないのよ?」
消え入るような声で、彼女はそう呟く。俺の動きが、一瞬止まった。その隙に、アシーナが俺の首に手を回す。
そして、彼女はもう一度俺を見、顎を少し上げて目を閉じた。耳と頬が、今までにないくらい赤い。
そして、その意味が分からないほど、俺はバカではなかった。
一つ、大きく息を吸う。そして目を強めに閉じて、彼女の首へ、少し手を回した。
吐息が肌にかかる。彼女の睫毛が触れるのを感じる。
ちょうどその時だった。
「お食事の用意ができました。ご案内しますか…」
扉をするりと開け、あのおじいさんが部屋を覗き込んだ。
首をぐるりと回し、俺たちは一斉にそちらを見た。
彼は数秒ぽかんと俺たちを見ていたが、やがて、薄く笑いながら扉に手をかけた。
「お取込み中でしたか、これは悪い時に来てしまった。しばらくたってからまた来ることにしますわい」
「「ちょ! 待ってくださいちがうんですこれは!」」
ぴったりハモった俺たちの声が、部屋の中に響き渡った。




