ウィーゼ
そんなこんなであっという間に一週間は過ぎた。
良く思うんだけど、若いうちは時間の流れが遅いって嘘だよね、滅茶苦茶早いんだけど。
「いやぁ、今週はどうもありがとうな!」
最終日の今日、今俺たちは学園長に手を握られ、ぶんぶん振られている。やられるたびに思うけど、痛いんだよこれ。
「いえ。後輩の指導という貴重な体験、ありがとうございました」
手を握られていないソルドが、爽やかな笑顔で応じる。俺もやんわりと学園長の手を外し、笑った。
「ええ、生徒にとっても貴重な体験になったと思いますよ。時間があれば、ぜひまた立ち寄ってくださいね」
学園長の後ろから、ディアさんが柔らかく手を振った。
「おお、いつでも来いよ!」
学園長は豪快に手を振る。それに一礼すると、俺たちは学園長室を後にした。
重い扉が閉まる音がする。
そのままゆっくりと、長い廊下を歩く。夕焼けの光が差し込み、長く影が伸びた。
無言で、俺たちは門の外に出た。日はかなり傾き、西の空が赤く染まっている。
そこへきて、ようやくソルドが口を開いた。
「さて、と。もう一週間が終わったな! 次はどこに行こうか?」
「できれば体の感覚が取り戻せる程度のところがいいわ」
アシーナも答える。全くの同感だ。俺も頷く。
それを見て、イシュハが唸った。
「人間と接するのが長すぎたか、魔物、特に参謀以上の者の気配を前ほど感じ取れなくなった。すまないな、私に提案できることはなさそうだ」
「へぇ、そんなことが起こるのか」
俺は思わず声を上げた。面白いな、平和ボケ的な奴だろうか。
「私も初めて聞いた事案だ。まぁ、私たちの仲間の中で、人間にまぎれているものなどほとんどいないから聞かないだけかもしれん」
確かにそれはそうかもしれない。
「ずっと戦ってないと、強い人の気配ですら感じられなくなるのと似てるのかしら?」
「そういうものかもしれないな」
「ふぅん、面白いな!」
ソルドが腕を組み、大きく頷いた。イシュハの視線が泳ぐ。隣で、アシーナがうっすらと笑った。
あっという間に日が沈み、東の空はもうだいぶ暗い。西も、赤色が引いてきている。
「じゃあとりあえず、家に帰るか。そのあと考えよう」
「そうだな!」
「ええ、そうね」
そう頷くと、俺たちは王都に向かって歩き出そうとした。
「待ってください、先生!」
突然、後ろから俺たちに声がかかった。聞き覚えのあるこの声は、
俺はぐるりと首を回して、思わず叫んだ。
「ライ君?」
案の定、昇降口から駆け出してきたのはライだった。
驚くほどのスピードで、俺たちに追いついてくる。しかし、すぐそばに来る頃には彼の息はかなり上がっていた。廊下長いからなぁ、この学校…。
「どうしたの、あと少しで夕食の時間じゃない、大丈夫?」
アシーナが訝し気に声をかける。
「はい、大丈夫ですっ。あの、ちゃんと、挨拶してなかったなぁって思って、挨拶しに、来ました」
上がった息を整えながら、ライが答える。わざわざそのために来るなんて。
「あと、ライオネル先生が来た時におっしゃった、あの宿題もやってないなって。なので、一つ質問させてください!」
あぁ、そういえばそんなのを出してたな。そう思ってソルドを見たら、どうやら本人も忘れてたらしい。ちょっと首をかしげている。
それを気にせず、ライは言葉を継いだ。
「先生方はもう、ウィーゼには行かれましたか?」
俺たちは顔を見合わせた。ウィーゼは、ここから西にある、山沿いの村のはずだ。それがどうしたのだろう。
「いや、行ったことないけど…」
「あぁ、そうでしたか。最近、父の病院にウィーゼから負傷者が多く来ているんです。強い魔物が出るようですので、討伐軍の人たちが向かっているのですが、それでも手も足も出ないようで。先生方はご存じかと思ったのですが」
討伐軍の人たちがめちゃくちゃ強いかと言われたら、そんなことはない。でもまぁ、一般的な人たちに比べれば圧倒的に強いだろう。
それで敵わないということは、
「少なくともオーク、もしかしたらキマイラ以上の魔物がいるだろうな」
俺の思考を読んだかのように、ソルドが呟いた。
「それなら、私たちが行くべきかしら」
「ああ、私もそう思う」
僅かに、イシュハとアシーナが頷いた。
俺としても異論はない。久しぶりの戦場だ、そのくらいでも構わないだろう。
「先生方、行っていただけますか? このままだと病院に他の患者さんが受け入れられなくなってしまいますし、これ以上けが人は出したくありません」
ライが、まっすぐに俺たちを見上げた。
俺たちは顔を見合わせる。全員、もう覚悟が決まった目をしている。
「わかった、行ってみるね」
「ああ、行ってくださいますか!」
ライの顔がほころび、上がっていた肩がストンと落ちた。
「それでは、お気をつけて。何かあったら、くれぐれも、適当に放っておいたりしないでくださいね?」
頭を軽く下げつつも、くれぐれも、のところを強めに言ってくるライ。善処します…。
「ありがとう、それじゃあ」
ソルドがにこりと笑い、軽く手を挙げる。
俺たちもそれに習い、学校に背を向けた。
「よし、行くぞ。向かうは西だ」
「ああ」
互いに頷き合い、俺たちは強く地面を蹴った。




